お金持ちはどうやってお金を増やしているのか

山口 聰(ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役)

お金持ちはどんな資産運用法を選んでいるか

 10年前なら証券会社の担当者から耳打ちされて「ここだけの特別なご提案です」と紹介されたような金融商品も、インターネットの普及で、今では平等に誰でも簡単に投資できる時代になりました。

「誰でも平等に」としましたが、現在でも、証券会社や銀行には「富裕層だけを対象にした専門部署」が存在することをご存じでしょうか。一般的に富裕層を対象に金融サービスを行っている部署や金融機関は「プライベート・バンキング」などと呼ばれています。

「富裕層向けには特別に何かすごい金融商品があるに違いない」__誰しもとても気になるところです。

 しかし結論から言えば、「富裕層」限定で、特別に高い利回りやリターンが期待できる商品自体は存在しません。

 確かに、さも特別なうま味がある富裕層専用の商品があるかのように話をするケースもあるようですが、それは表面的な期待リターンだけに着目していたり、情報を断片的に伝えていたりといった、商品のリスクを考慮していないことがほとんどなのです。

 ただし、富裕層はそもそも金融資産が多いために、一般の人よりリスクの許容範囲が広く、金融機関は限られた少人数を対象にした商品を勧めたり、その人向けにさまざまな金融商品を組み合わせてオーダーメードの資産運用を設計、提案をしています。そういった提案はいわゆる仕組債や私募投資信託であったり、ハイブリッド証券と呼ばれる債券や、株式や債券以外で運用するオルタナティブ商品(金融派生商品)だったりします。

 

お金持ちはオーダーメードで資産運用をしている

 こういった商品に共通する特徴としては、既にあるものから選ぶのではなく、顧客要望に応じてリスクの取り方を工夫したり、目線に合うリターンを実現するために商品設計を考える、まさにオーダーメード型であることが挙げられます。

 例えば、「元本の安全性を重視しつつ定期預金よりいい金利を得たい」というニーズがあれば、高金利の外国の金融機関が発行する債券をまとめ買いして為替ヘッジを付け、満期も設定した投資信託に仕立てる方法などがあります。

 また、金融市場とは基本的には関連性の薄い、損害保険市場に投資する外国の商品を日本に導入している例もあります。これは端的に言えば、大災害が発生すると保険金支払いが増加して投資家サイドから見ると価格は下落しますが、そうでなければ安定的に資産価格の上昇が期待でき、他の金融商品とはリスク分散が図れるといった商品です。

 今では仕組債の一部はインターネットを通じて購入できるようになりましたが、オーダーメード型の場合は、あらゆる条件を顧客好みに微調整できるというメリットがあります。もちろん、リスクとリターンの関係はインターネットを通して購入してもオーダーメード型でも基本的には同じため、オーダーメード型だからといって、あらゆる面で条件がいいわけではありません。

 

ニーズにあったタイミングで分散投資ができる

 ただ、以前は富裕層向けとされていた商品も、今や一般向けに販売されていたりするなど、商品性の面では差はありません。通常の金融商品と基本的に素材は同じものですが、顧客ニーズに寄り添い、細かく対応して仕上げた商品であることが、富裕層専用商品はメリットなのです。通常と比較してリターンがいいわけではなく、顧客専用に仕立てた商品であるという精神的な満足感を満たす点もポイントと言えるでしょう。顧客の要望やタイミングで商品をつくることができるのはそれなりのメリットだと思います。

 富裕層とまでは言えない一般の人でさえ、これだけさまざまな商品が世の中にあふれる中で、自分に合った資産運用を実現することはなかなか難しいことです。運用をシンプルにするか、勉強をして使いこなすか、プロに頼るかといったことを考える必要がありそうです。