最高値に迫るS&P500と出遅れ感を強めるTOPIX

 今週は、米国株式市場を象徴するS&P500指数が史上最高値(2,872.87)に迫る一方、日本市場のTOPIX(東証株価指数)はトランプ米大統領が仕掛ける貿易紛争への警戒感に上値を抑えられる動きとなっています(図表1)。

 米中貿易紛争では、中国が報復措置として160億ドル相当の米国製品に25%の関税を課する方針を発表して米中対立が激化。9日にワシントンで始まるFFR(日米新貿易協議)の行方も不安視されています。

 米国のイランに対する経済制裁再開に伴う中東情勢不安もリスク要因として意識せざるを得ない状況です。為替ではドル/円相場が111円割れとなったことも株価の重しとなりました(9日時点)。

 ただ、中国で今週発表された7月貿易収支など一部経済指標が市場予想を上回ったことや、中国政府が景気下支え策を実施する姿勢を示していることで、軟調傾向だった上海総合指数や香港ハンセン指数に底入れの兆しも見てとれます。

 国内市場では、好決算を発表したソフトバンクグループの株価がITバブル崩壊後(2000年以来)の高値を更新。TOPIX内の時価総額ウエイト(比率)でトヨタ自動車に次ぐ2位に浮上して注目されました(8日)。米国市場でも国内市場でも、4~6月期の決算発表で業績見通しは概して底堅く、株価の下値余地を限定的にしています。

図表1:S&P500指数は最高値に迫っている

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年8月8日)

 

米メガテックの時価総額増勢は「バブル」か「トレンド」か

 S&P500指数は米国株式市場を代表する「時価総額加重平均指数」です。同指数が史上最高値に迫っている主因として「メガテック」(米大手IT株)の時価総額が増勢傾向であることが挙げられます。

 実際、S&P IT(情報技術)業種指数の時価総額は約6兆4,946億ドルまで増加。S&P500指数に占める時価総額比率(ウエイト)は約26%に拡大しています。

 例えば、アップル(AAPL)の時価総額がついに米国初の1兆ドル(約110兆円)に達し注目されています。日本(東証)で時価総額第1位であるトヨタ自動車が約23兆円ですから、実に約5倍です。

 アップルに続き「時価総額1兆ドル」を達成しそうな銘柄として、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、アルファベット(GOOG)、マイクロソフト(MSFT)が時価総額8,000億~9,000億ドルで争っています(図表2)。

 資本主義経済において、時価総額の規模は企業価値と成長に対する市場の評価を示す尺度とされます。メガテックの時価総額増勢は「第4次産業革命の進展」がトレンド(潮流)として続いていることを示す事象と考えられます。 

図表2:米メガテックの時価総額が1兆ドルへ

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年8月3日)

 米IT株が一時的に下落する場面では、「米ITバブルはついに終わった」との悲観がお決まりのように広まります。IT株の優勢が長期化していることで、売り方の口実として「割高感」が先行しやすいと言えます。

 ただ、図表3が示すように、「12カ月先予想EPS(一株あたり利益、市場予想平均)」をベースにしたS&P IT業種指数の予想PER(株価収益率)は18.4倍で、S&P500指数の予想PER(16.8倍)に対する倍率は約1.1倍に留まっています。

 かつて「IT(ドット・コム)バブル」と呼ばれた相場がピークをつけた2000年3月当時の「2.3倍」と比較すれば過度の割高感は見てとれません。むしろ、予想増益率(12カ月予想EPSの前年同期実績比)が25%超を維持している成長期待が見直され、株価は復調傾向です。S&P IT業種指数の時価総額(約6兆4,946億ドル)がTOPIX(東証1部上場全銘柄)の時価総額(ドル換算=約5兆9,224億ドル)をすでに上回った増勢にあらためて注目したいと思います。

図表3:米IT株価は本当に「割高」なのか?

注:上記の予想PERや予想増益率は各指数ベースの「12カ月先予想EPS」(市場予想平均)に基づく
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年8月8日)

 

JPX日経400に新規採用された26銘柄に注目

 国内株式市場では、「JPX日経インデックス400」(以下、JPX日経400)に新しく採用された銘柄群に注目したいと思います。

 JPX日経400は2014年1月に算出、公表が開始された時価総額加重平均(浮動株調整後)指数です。東証に上場されているほぼ全ての銘柄のうち、時価総額、営業利益、ROE(株主資本利益率)などで一定の基準を満たした400銘柄で構成されています。

 株主資本の効率的活用、投資者を意識した経営観点など「グローバルな投資基準」を指向している企業が多く選ばれており、同指数を構成する銘柄は「企業価値の持続的向上に努力している銘柄群」と言えるでしょう。

 JPX日経400を共同開発した東証と日経新聞社は7日、定期的な「銘柄入れ替え」を発表しました。8月31日から同指数に組み入れられる銘柄は図表4に示した26銘柄です。同指数が時価総額加重平均指数であることを意識し、時価総額の降順で一覧しました。

 大型銘柄では、任天堂(7974)リクルートホールディング(6098)JXTGホールディング(5020)などが初めて選定されました。こうした陰で、除外されたのは複数の地方銀行を含む25銘柄でした。注目点は、新規採用26銘柄の年初来騰落率(平均)が+6.4%とTOPIX(同▲4.0%)より優勢であることです。

 JPX日経400に連動を目指すインデックスファンドは公募投信やETF(上場投資信託)に多くあり、日銀も金融緩和策として同指数連動型ETFを購入対象としています。私見ですが、日銀がJPX日経400連動型ETFを介し「投資家に顔を向けた企業」に資金を振り向けるのは、単に日経平均連動型ETFやTOPIX連動型ETFに振り向けるより意義がありそうです。

 今後、資金が相対的に向かいそうなJPX日経400新規採用銘柄に注目したいと思います。

図表4:注目されるJPX日経400の新規採用銘柄

# 銘柄名
(コード)
業種 時価総額 今年度PER 来年度PER 配当利回り

年初来

騰落率

1 任天堂(7974) その他製品 52,588 21.1 16.5 2.5 -9.9
2 リクルートホールディングス(6098) サービス業 51,829 31.8 27.1 0.9 9.1
3 JXTGホールディングス(5020) 石油・石炭製品 27,885 7.0 7.8 2.5 11.9
4 電通(4324) サービス業 13,844 18.8 15.6 1.9 0.5
5 出光興産(5019) 石油・石炭製品 10,754 7.8 8.1 2.2 14.3
6 ポーラ・オルビスホールディングス(4927) 化学 8,994 29.4 26.3 2.0 ▲0.8
7 昭和電工(4004) 化学 7,740 7.2 6.4 1.9 7.4
8 SUMCO(3436) 金属製品 7,001 12.7 10.5 2.3 -17.3
9 九州電力(9508) 電気・ガス業 5,970 9.4 8.5 2.4 6.6
10 丸井グループ(8252) 小売業 5,187 20.3 17.5 2.0 12.4
11 TIS(3626) 情報・通信業 4,574 18.9 17.6 1.2 32.4
12 カプコン(9697) 情報・通信業 4,013 22.6 20.4 1.1 65.8
13 PALTAC(8283) 卸売業 3,972 - - 1.1 21.6
14 ゼンショーホールディングス(7550) 小売業 3,503 46.9 41.1 0.8 20.9
15 コスモエネルギーホールディングス(5021) 石油・石炭製品 3,420 5.4 5.7 1.4 ▲5.2
16 すかいらーくホールディングス(3197) 小売業 3,209 18.5 17.9 2.4 1.6
17 日本ユニシス(8056) 情報・通信業 3,012 22.0 19.5 1.8 17.1
18 古河電気工業(5801) 非鉄金属 2,745 10.1 8.3 2.1 ▲30.1
19 テクノプロ・ホールディングス(6028) サービス業 2,654 28.4 24.1 1.8 19.6
20 エン・ジャパン(4849) サービス業 2,580 28.4 22.8 1.2 ▲2.3
21 森永製菓(2201) 食料品 2,571 17.5 17.0 1.1 ▲16.9
22 ニチアス(5393) ガラス・土石製品 2,002 12.5 12.0 2.3 ▲1.7
23 マルハニチロ(1333) 水産・農林業 1,993 11.2 10.4 1.1 11.3
24 三井海洋開発(6269) 機械 1,983 12.9 11.8 1.2 20.8
25 東プレ(5975) 金属製品 1,577 8.9 8.1 2.1 ▲8.6
26 西松建設(1820) 建設業 1,528 7.8 7.4 3.9 ▲13.0
  26銘柄の算術平均= 17.5 15.5 1.8 6.4
PER、配当利回りは予想。単位:時価総額は億円、PERは倍、配当利回り、年初来騰落率は%。出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年8月8日)

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