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トランプ米政権は6日、中国による知的財産侵害への制裁として340億ドル(約3.8兆円)相当の中国製品に追加関税を発動しました。中国もこれに同規模の対抗措置を取りました。一時緩和の動きがみられた米中貿易摩擦が激化した背景には、貿易不均衡の問題だけでなく、中国が国家戦略として進める『中国製造2025』の存在があります。中国政府が注力する『中国製造2025』とはどのようなものでしょうか。
【ポイント1】『中国製造2025』は2015年に策定された産業政策
10分野の重点産業を指定し、製造業の底上げを図る
中国政府は2015年5月に、製造業の高度化をめざす今後10年の行動計画『中国製造2025』を発表しました。『中国製造2025』とは、次世代情報技術(IT)やロボットなど10分野を重点産業に指定し、金融や財政・税制の仕組みを利用して集中的に支援することで、国を挙げて製造業の底上げを図る産業政策です。
中国の製造業強化は建国100年に当たる2049年まで3段階で進められる計画です。まず2025年までに世界の製造強国の仲間入りを目指します。『中国製造2025』は、長期戦略の第1段階に位置付けられます。第2段階では、2035年までに米国やドイツ、日本など世界の製造強国水準への引き上げ、第3段階では2049年に世界のトップクラスの製造強国になることを目標にしています。
【ポイント2】供給過剰や労働人口減少が背景
量から質への経済モデル転換
『中国製造2025』設定の背景には、供給過剰が指摘されている低付加価値の重厚長大産業から高付加価値のIT産業等への産業構造の転換の必要性や、中国では労働力人口が減少するため、高付加価値産業の育成による生産性向上で経済成長を維持する必要性があります。中国政府は、経済モデルを“量の成長”から“質の成長”へと軸足を移しています。
【今後の展開】ハイテクの覇権争いは続くが、米中貿易摩擦は落としどころ模索へ
『中国製造2025』の下で、中国のハイテク企業は目覚ましい発展をとげています。これに対し、トランプ米政権は、中国のハイテク企業の台頭の理由は不公正競争にあるとし、ハイテク企業に巨額補助金を投じる『中国製造2025』の撤回を要求しました。貿易赤字問題と共にハイテク分野の覇権争いを意識していると考えられます。しかし、中国はこれに応じず、6日の米中の関税引き上げにつながりました。過剰な補助金投入は中国経済にとって歪みを生じるリスクがあるため妥当性には疑問符が付きますが、中国経済の高度化は世界経済にとってもメリットが大きいと考えられ、『中国製造2025』の推進には意義があると思われます。
トランプ米政権は、今年11月の米中間選挙や2020年の次期大統領選挙を見据えて、景気を悪化させてはかえってマイナスになることを理解していると考えられます。したがって、ハイテク分野を巡る覇権争いは今後も続くものの、米中貿易摩擦は、景気を悪化させない範囲で落としどころを探ることが期待されます。