今週、日本では様々な動きがあった。景気サイクルの加速を示す兆候が強まっていたものの、7月2日(日)の東京都議会選挙において安倍首相率いる自民党に対する都民の反発により、状況は悪化した。また、北アジアでは緊張の高まりが顕在化してきている(週末、トランプ大統領は安倍首相ならびに習近平国家主席と電話会談を行った)。地政学的な緊張により望ましくない複雑さが増幅している一方で、最近の動向は、独りよがりな政策運営から成長・改革重視の方針に転換しようとしているという当社の見方をさらに裏付けるものである。具体的には、向こう数四半期のうちにさらなる財政緩和策が打ち出される可能性が高まっており、増大する財政赤字の事実上の穴埋め措置として金融政策もさらに緩和される見通しである。

設備投資サイクルの加速

データに目を向けると、日銀短観(2017年6月調査)は全般的に業況感の改善を示し、特に大企業の輸出企業の業況判断が予想以上に良好だった。さらに重要なのは、設備投資計画が3月調査の0.6%増から8%増へと大幅に上方修正された点である。当社の予測通り、これによって向こう数カ月で機械受注の伸びが上向けば日本の経済成長と利益拡大の潜在性への確信は強まるだろう。結果的に、7月3日に発表された日銀短観は2017/2018年のGDP成長率が現時点でアナリストが予測している1~1.5%ではなく、2~2.5%に近い水準になる可能性を示唆している。

東京都議会選挙での歴史的敗北は安倍首相にとっての警鐘

政治面においては、東京都議会選挙でカリスマ的な人気を誇る小池都知事の陣営が圧勝し、与党自民党は大敗を喫した。小池知事が旗揚げした地域政党「都民ファーストの会」とその連携勢力が127議席のうち79議席を獲得して過半数を大きく上回ったのに対し、自民党はわずか23議席にとどまり戦後最悪の結果となった。自民党は報道された一連のスキャンダルに足元をすくわれた形である。こうした不祥事は本質的にはさほど重大な影響を及ぼすものではないと捉えられているが、筋金入りのチーム安倍支持者の間でさえ一連の問題への政権の対応の仕方がある種の「権力の驕り」を明らかにしたとの声が上がっている。現政権に対する都民の反発は、4年間にわたる政権運営の間に自民党がやや独善的な姿勢に陥り、権力の基盤である国民の要求への関心が薄れたという見方を裏付けている。都議選での惨敗は首相にとって歓迎すべき警鐘であり、今後数カ月で成長戦略の勢いが強まると当社はみている。

改革重視の政策で国民の信頼を回復

現実的には、都議会の国政への影響力は極めて限られている。たとえば、都の予算の大半は政府の決定に委ねられ、また課税基準や税優遇措置に関与する力は事実上、都にはない。都が決定権を持つのは「事業のしやすさ」や「生活の質」の向上を重視した規則・規制の施行である。

特に、東京を世界の金融センターに復活させるという小池都知事の信念はいまや国家的政策設定に影響力を与える信頼できる力となっている。明確に言うと、小池都知事陣営の圧勝を受け安倍首相に構造改革戦略を再び加速させる圧力が強まっていると考えられる。

東京すなわち日本ではない

とはいえ、マクロ経済政策の面で国の税制や歳出方針に対する東京都の影響力はないに等しい。こうした政策を決める国会では自民党が議席の2/3を握り、圧倒的多数を占めている。都議選での歴史的敗北を受け、自民党が政策の優先順位を考え直すのはまず間違いないだろう。ただ、安倍政権が根底から揺らぐ可能性は極めては小さいとみられる。

時間が首相の味方

特に注目すべきなのは、政治日程が安倍首相にとって非常に有利だという点である。自民党総裁選で再選の有無が決まるのは2018年9月で、総選挙は2018年12月まで実施する必要がない。従って、時間的な余裕が十分にあるため、積極的な政策運営を練りだし、自身の政策責任者としてのビジョンが日本の国益に最もかなったものであることを国民に納得させることができるだろう。

筆者の見るところ、重要なのはより謙虚な姿勢を打ち出し、彼の唱える構造的成長戦略と規制緩和こそが、国民と新しい起業家達に力づけることに焦点をあてているということを知らしめることである。また、新憲法制定に関する首相の構想は個人的な虚栄心からではなく、日本の未来にとって最善の利益となるとの信念に基づくことへの理解を促す必要がある。

結論として、経済成長加速の見通し改善ならびに独善的な政治運営に対する警鐘を背景に、成長重視の構造改革政策と財政政策に軸足が戻るとの見方を筆者は強めている。

(2017年7月3日記)