保険料に当たるオプション料が適正であるかということが問題

 最近で言うと、オプション料の算定に使用されるS&P500指数の変動率は10%台前半と、歴史的に見て極めて低い水準で推移していました。要するに、保険の引き受け手が、実際のリスクに見合った保険料をもらっていない状態なのです。多くの場合、保険金を払わなければならないようなイベントはすぐには訪れないので、保険料欲しさに引き受け手が油断して、そのような状況が長引くと要注意ということなのです。

 これは1987年ブラックマンデーの引き金となったいわゆる「ポートフォリオ保険」や2007年に始まった金融危機におけるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)をはじめ、最近では2015年8月や2016年2月の調整局面でも起こっています。リスクの担い手がそのリスクを担い切れなくなることによって起こるという点で、そのメカニズムはすべて同じです。

 もっとも、変動率が低いからといって直ちにそれがおかしいとか、バブルとかいう話ではありません。ただあまりに変動率が極めて低い水準が長く続くと、前述のようにマグマが徐々に溜まっていきます。

 残念ながら、そのマグマがいつ噴火につながるかというタイミングを当てることは出来ません。ただ私が行っている分析で、その確率を計算することはできます。簡単に申し上げれば、変動率が低いこと、そしてその期間が長いことが次の噴火の確率を上昇させる要因になります。そしていったん噴火が起こると、一気に次の噴火の確率が下がり、起こったとしても大した噴火とならない確率が高まります。今回も、数週間も経てば市場は落ち着きを取り戻し、次の噴火まではしばらく時間的余裕ができるということになるでしょう。

 基本的には今回の調整もこのような理解で良いと考えていますが、一点、勘案しておかなければならない要因があります。それはFRB(連邦準備制度理事会)議長が交代したことです。バーナンキ氏は2006年に、イエレン氏は2014年にそれぞれFRB議長に就任し、市場では「バーナンキ・プット」や「イエレン・プット」など、要するに株式相場が下がっても、FRBが金融政策で適切な対応を取ってくれるとの期待がありました。2月5日にパウエル氏が新FRB議長に就任しましたが、今後もはたして「パウエル・プット」は有効なのでしょうか? 

 おそらくそうなのでしょうが、今後本当にそうなのかを市場が確信することが必要で、そのリスクは、これまでよりもやや高い変動率という形で市場に反映されることになるでしょう。株式相場が急落した2月2日、これは雇用統計が発表された日であると同時に、イエレン氏がFRB議長としての任期を終える前日であったことを忘れてはなりません。

(2018年2月9日記)