1.インデックス運用とパッシブ運用は微妙に違う

インデックス運用の普及が拡大している

 米国では、ETFを中心にインデックス運用が拡大していて、近年ついにアクティブ運用の資金が減り始めている。わが国ではそこまで明確な傾向はないが、「つみたてNISA」など、インデックス運用を肯定的に考える運用資金が増えている。今後、個人投資家の運用対象としてインデックス運用が大いに拡大すると筆者は予想している。
インデックス運用とパッシブ運用は同一視される場合が多い。
しかし、両者は、微妙に異なる。

 パッシブ運用とは、ベンチマークに対してリスクを取ってより良いパフォーマンスを目指すのではなく、ベンチマークそのもののリターンの実現を目指す運用だ。一方、インデックス運用は、何らかの指数(インデックス)のリターンの実現を目指すもので、その指数が同時に運用のベンチマークであるか否かは場合による。
 

 ベンチマークは運用を任せる側が運用者に与えるものだが

  1. 過去のリターン・リスクを把握する基準になる
  2. 「特別に有効なチャンスがなければこのようなポートフォリオを持て」という規範のコミュニーケーション手段である
  3. 同時にパフォーマン評価の基準となるようなポートフォリオでもある

 ベンチマークの選択は、しばしば委託先の個々の運用会社の運用の成否以上に重要であることが多い。しかし、運用を委託する側では、このことが意識されないことが案外多い。運用を委託するという行為の中に、他人に運用の責任を転嫁できると楽だという心理があるからだろう。現実のベンチマークは、必ずしも既存のインデックス(指数)である必要はないのだが、知名度とわかりやすさから、ネーム・バリューのある指数がベンチマークに選ばれることが多い。

 ちなみに、ポートフォリオとしての規範性から有名な指数を評価すると、NYダウは分散が不十分だろうし、日経平均は値がさ株のウェイトが大きくポートフォリオとしてリターンの動きが不安定である点などに問題がある。年金基金のような投資家にとっては、アセットアロケーション(資産配分)の分析に使われるベンチマークと、運用を外部に委託する際に運用会社に与えるベンチマークと、運用を評価する際に使うベンチマークは共通であることが望ましい。加えて、年金加入者などに対する説明をわかりやすくするためには、ベンチ-マークがポピュラーでなじみのあるものであるほうがいい。

 しかし、しばしば、委託先の運用者に合わせて「バリュー・インデックス」だの「グロース・インデックス」だのといった運用者に合わせたベンチマークが運用委託の際に使われて、運用の管理が複雑化する場合が多い。これは、運用コンサルタントや年金基金自体が自分達の仕事を作っているのだと考えると現実に近いように思うが、普通の個人投資家は、このような複雑化を真似る必要はない。たとえば、アセットアロケーションの際に、TOPIX(東証株価指数)で国内株式を考えているなら、TOPIXに連動するインデックス・ファンドに投資することが自然だ。JPX日経400のようなものをわざわざ選ぶ必要はない。

 

2.インデックス運用の優位性は投資理論とは無関係だ

インデックス運用が優れていることの根拠

 CAPM(資本資産市場モデル)のようなポートフォリオ理論と結びつけて説明しようとする方もいるが、率直に言って「これは違う」と思う。CAPMでは、投資家が投資可能なすべてのリスク資産を時価総額ウェイトで構成した「市場(マーケット)ポートフォリオ」が、リスクと期待リターンの関係にあって最も効率的なポートフォリオだと考えているが、これは、理論の結論と言うよりも、むしろ理論が成り立つための仮定の一部であるし、資本市場がその仮定を成り立たせるほど効率的であるかというと、それは現実と異なるように思われる。

 投資家の間で投資情報が瞬時に共有され、投資家が共通のポートフォリオを最適だと判断して、即座に取引が行われるような世界は、日本にも、米国にも、その他の国にもないし、理論が要求するのは、それが世界レベルで達成されていることだ。資本市場および人間を買い被りすぎていると言うしかない。

 パッシブ運用、あるいはその現実の形態としてのインデックス運用がアクティブ運用に対して優位に立つ理由は、1つには、「アクティブ運用の平均を持つことが有利だから」であり、もう1つには「取引コストや運用手数料が圧倒的に安いから」だと筆者は考えている。複雑な理論によって支えられている優位性ではないので、その優位性は頑健である。「市場が効率的」であっても、なくても、インデックス・ファンドのほうが優れているのだ。

「ライバルのポートフォリオの平均」を持つ投資家は、取引コスト面で有利なポートフォリオを持つ事ができるし、より広範な分散投資を持つ事ができるので、個々のライバルよりも平均的に有利だ。

 また、投資家にとって「確実なマイナスのリターン」であるところの手数料コストが小さいことは、圧倒的に有利でもある。率直に言って、通常のアクティブ運用が無駄な手数料を払いすぎているだけのことなのだが、現状の運用商品を前提とする限り、アクティブ運用よりもインデックス運用のほうがかなり有利だという判断は動きようがない。

 

3.インデックス運用にも弱点はある

目下、アクティブ運用に対して優位にあるインデックス運用だが、死角がない訳ではない

 筆者の思うに、弱点が2つある。

 1つは、インデックスの銘柄入れ替えや、銘柄のウェイト変更が、市場の参加者に利用されることの問題だ。あるインデックスにあって、銘柄Aが除外され、銘柄Bが新たに採用されるとすると、インデックスはこの入れ替えが実行される日の終値で計算される。インデックスファンドの運用者は、この終値で取引できるとインデックスと同じリターンを実現できるので、この終値で取引しようとする。これは、ファンドが売り買いを事前に発表しているのと同じなので、市場参加者に利用される可能性が大きい。

 銘柄入れ替えでなく、TOPIXのような指数によくある「浮動株調整」にともなう銘柄のウェイトの変更にあっても事情は同じだ。インデックス運用のユーザーは、このコストに注意を払う必要がある。

 もう1つの弱点は、インデックス・ベンダーが運用者に要求するインデックスの利用料のコストである。たとえば、S&PはS&P500の利用料として、インデックス運用者に運用資産額の年間3ベイシス・ポイント(0.03%)程度の利用料を請求することがあるという。もちろん、インデックスの計算と公表にはコストがかかるので、インデックス・ベンダーがその利用者に利用料を請求することは正当なのだが、日本経済新聞でも、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社が算出する指数)でも、こうした料金を請求しており、これがインデックス・ファンドのコストを引き上げている。

 インデックス・ベンダーの側では、インデックス計算の手間賃だけではなく、インデックスをいわば商標として利用して運用ビジネスで儲けているのだから、その対価を払えという言い分を持っているのだろう。それはわからなくはないが、米国のようにインデックス・ファンドの手数料引き下げ競争が進んでくると、年間2〜3ベイシス・ポイントといった手数料が運用会社、ひいては投資家の負担として問題になる。

 インデックス・ファンドの運用者の側でどのような指数を選ぶか、また必要に応じて作るかということが、今後、インデックス運用ビジネスを展開する上で重要になるかも知れない。