12月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 12月も新興株市場は良い地合いを保ちました。東証マザーズ指数は月間で5.6%の上昇、日経ジャスダック平均も同じく3.7%の上昇。日経平均株価が12月は0.2%の上昇(39.98円高)に留まりましたので、新興株に分があった12月相場といえそうです。

 売買も少しですが増えました。東証1部の12月の月間売買代金は前月比で19%減ったのですが、東証マザーズでいえば前月比で10%増えています。年末にかけて日経平均の値幅が狭くなり、東証1部の売買代金は減少。これは、外国人投資家のクリスマス休暇入りによって、東証1部は人通りが減ったためといえます。一方で、新興株市場は個人投資家がメインプレーヤーですので、クリスマス休暇などはとくに関係ありません。

 ただ、売買は増えたものの、個別株ベースでの明暗はかなり分かれていました。これには、明確な理由があります。ぜひ、今年12月(ほぼ1年後とかなり先の話ですが)にも役立つので覚えておいていただきたいことを紹介します。
 
 12月というのは、個人投資家の行動が他の月とは異なる月です。なぜなら、12月が個人投資家にとって決算期末のような意味合いを持つから。株の税金は12月末までに稼いだ利益を基に確定しますよね。昨年のように利益が出た投資家を多く生んだ1年の場合、そうした投資家が年内に何をするでしょう?

 確定させている実現益がある一方、手持ちに含み損を抱えている銘柄があるとします。そうした含み損のまま塩漬けしている株を年内に売却し、実現益と相殺することで株の税金を圧縮しようと考える投資家は非常に多いです(これは毎年のこと)。そうしたこの時期特有の個人投資家の売りを「節税売り」と呼びます。

 税制上の「年内」にあたる売買の最終日は12月26日でした。この日までマザーズ指数が軟調だったのは、含み損のマザーズ銘柄などに売り圧力がかかったためと想定されます。そして、実質的に「新年」になったのは翌12月27日。この日にあまりにも綺麗にマザーズ指数は急騰(2017年で最大の上昇率となる3.1%高)しました。これは、2017年分の節税売りが終わったこと、そして2018年の取引を新たに買いでエントリーする資金が流入したことが理由といえます。


12月の売買代金ランキング(人気株)

 12月の売買代金トップはサインポストでした。サインポストは、前月11月にマザーズへ上場した「直近IPO」と呼ばれる銘柄。1日当たり売買代金は、マザーズで2番目に多いサイバーダインの2倍強にのぼりました。

 12月は、1年で最もIPOが集中する月です。今年も、12月だけでマザーズに9社、ジャスダックに3社が上場しました。この12月は、こうした12月上場の直近IPOに人気が殺到しましたね。主力大型株の値動きがはっきりしなかったこと、指数もこう着でブルベアタイプのETFに妙味が落ちたこと、前述の節税目的の売り(損をしている株の売却)でマザーズの少し前の人気株の値動きが悪そうなこと―などが理由といえますね。節税売りでいえば、そもそも塩漬け株の形で持ってる人が皆無な直近IPOに関しては気にする必要もないわけで・・・。

 ちなみに、売買代金ランキングの表は「25日移動平均売買代金」をベースに作成しているため、12月IPO銘柄は含まれていません。含まれていたら、上位は12月IPOだらけだったはず(笑)。テーマ株物色というのはありますが、直近IPO物色というのは「最近上場した株だから」が買いの動機になります。それだけの理由で実態とかい離して買われるわけで、上場直後に急騰したからといって、だから優れたベンチャー企業だと言えるわけでもありません。

市場 銘柄コード
銘柄名

12月末
終値

時価総額
(億円)
売買代金
25日移動
平均値
億円)
月間
騰落率
(%)
東証マザーズ 3996
サインポスト
19,050 473 102.0 40.9
ジャスダック 4579
ラクオリア
2,350 476 87.4 114.8
東証マザーズ 7779
サイバダイン
1,941 2666 49.9 30.5
東証マザーズ 3652
DMP
15,270 423 39.8 98.6
東証マザーズ 3547
串カツ田中
3,990 364 39.7 -42.4
東証マザーズ 6166
中村超硬
6,320 296 39.5 -0.2
東証マザーズ 4565
そーせい
10,940 2085 35.0 -0.5
東証マザーズ 3993
PKSHA
13,450 1721 33.5 21.9
ジャスダック 2702
マクドナルド
4,955 6588 33.0 1.0
ジャスダック 4316
ビーマップ
1,729 56 32.8 -38.2
東証マザーズ 4597
ソレイジア
393 345 32.0 -8.0
東証マザーズ 2160
ジーエヌアイ
593 799 31.2 1.7
東証マザーズ 3558
ロコンド
3,100 169 30.2 40.8
東証マザーズ 2121
ミクシィ
5,060 3958 25.1 -3.1
東証マザーズ 3561
力の源HD
1,889 433 24.1 -13.4
ジャスダック 6400
不二精機
439 40 23.8 29.9
ジャスダック 6324
ハーモニック
6,590 6244 21.4 -7.3
東証マザーズ 2497
UNITED
3,675 870 19.6 -1.2
東証マザーズ 4592
サンバイオ
3,225 1467 19.4 14.9
東証マザーズ 6541
グレイス
8,060 352 18.5 -13.0


売買代金ランキング(5銘柄)

1 サインポスト(3996・東証マザーズ)
 11月21日に東証マザーズに新規上場した直近IPO株。公開価格2,200円の3.9倍となる8530円で初値を付けたあと、わずか1カ月程度で19050円(12月末終値)まで上がったわけですから・・・「目をつぶって初値を買う、というのも捨てたもんじゃないのかな」と思わせられますね(もはや投資でも何でもない世界の話ですが)。
直近IPO株なら何でもアリ的なムードが生まれるなか、SCSKと流通小売業でのレジ無人化を目指して協業すると19日に発表。サインポストの画像認識技術とAIを活用した「完全スルー型レジシステム(スーパーワンダーレジ)」の製品化などで共同開発するという、近未来的な話が出たことが火に油を注ぎました。

2 ラクオリア創薬(4579・ジャスダック)
 年末にかけて相次いだ好材料で豹変しました。25日に、自社創製の選択的ナトリウムチャネル遮断薬に関してマルホとライセンス契約を締結したと発表。マルホから契約一時金などを受け取ることを理由に、今17年12月期の業績予想を上方修正(売上高を11.7億円→13.0億円、営業損失を7.9億円→2.9億円)。
さらには28日に、韓国のCJヘルスケアと胃食道逆流症治療薬「tegoprazan」のライセンス地域拡大契約を締結したと発表します。2段階の材料に買いが集まり、アナリストのカバーの無いバイオ株ということもあって、どこまで買えばいいかの判別がつかないまま歯止めがきかない状態に・・・。

3 サイバーダイン(7779・東証マザーズ)
 “覚醒“を期待せずにはいられないマザーズの大型ベンチャーの急騰劇でした。きっかけは、18日に米FDA(食品医薬品局)よりHAL医療用下肢タイプが医療機器としての市販承認を取得したと発表したこと。念願だった米国でのFDA承認取得を受け、HALが描くアメリカンドリームに期待した買いが殺到しました。
 なお、この材料を受け、国内大手証券会社でも「HALに春が来た」と粋な見出しでレポート化。米国市場で19年3月期以降、HAL治療が徐々に立ち上がるとの見方から、目標株価を現行水準よりはるかに高い「3,700円」に引き上げていました(ちなみにこのレポートが出た12月20日に今のところ天井形成)。

4 マクドナルド(2702・ジャスダック)
 マクドナルドといえば、12月優待の超人気株。12月末の株主には、優待食事券が贈呈されます。この優待食事券を狙って優待クロス(現物の買いと信用の売りを同時に行い、権利落ち日(昨年は12月27日)以降に反対売買することで優待をGETすること)を作る人が増えたことで12月の売買代金が大きく増えました。
 出来高でいえば、昨年のワンツーは年2回の優待権利落ち日。優待目的で売買する人が多い株ではありますが、それだけでは語れないのが昨年のマクドナルド株。2017年は、ナント年間で62%も上昇しています。
 その理由にあるのが、業績の急回復。毎月発表される既存店売上高が伸び続けています。直近では12月6日に発表された11月の既存店売上高、こちらが前年同月比13.1%増で、この時点で既存店売上高は24カ月連続という驚異的な状態です。ツイッターなどを上手く使った販売促進、そして単価の高い新商品のヒットなどが背景。外食大手で、これほど売上の伸びを続ける事例はかなりレアです。

5 ロコンド(3558・東証マザーズ)
 ロコンドは毎月月初の正午に、前月分の速報値ベースの受注高を発表しています。12月も1日の正午、11月分を発表。この数字が素晴らしかったことがトリガーとなって、一躍中小型株のスターになりました。11月の速報値ベースの受注高は9.78億円で、過去最高を更新。ブラックフライデー企画などイベントを充実させたことなどが、サイトの活性化につながったようです。
 月間で4割株価が上がった背景には、機関投資家による大口買いもあった様子。21日にイギリスの独立系運用会社ベイリー・ギフォードが、同社株を新規で大量取得したと5%ルールで報告(発行済み株数の6.97%に相当する37万9,200株)しています。

12月の株価値上がり率ランキング

 12月の値上がり率上位20は、マザーズ銘柄が9、ジャスダック銘柄が11でした。「急騰株は意外にジャスダックのほうが多い」というのは先月までと同じ。そして急騰した銘柄を総括すると、「なぜ、こんなに上がったのかを説明することが非常に難しい」というのも毎月の傾向になっています。それだけ、個人投資家の物色意欲は旺盛で、動きが出た銘柄に乗っかろうとする短期筋が増え、そしてその力が強くなっているといえます。

 ただし、短いスパンで流行株に大勢が群がる構図ですので、流行が続く期間も非常に短期化しています。例えば、11月の値上がり率ランキング20に入っていた銘柄で、12月もランクインしたのは大木ヘルスケア1銘柄だけ。人気株の入れ替わりが激しいうえ、時価総額50億円未満の超小型株が5銘柄も入っています。個人投資家でも初心者は近寄れないし、超小型株の売買は禁じられている機関投資家も関与していないはず。それだけに、ランキングに入った銘柄の多くは、逃げ足の早いデイトレーダーによって作られた株価であることを肝に銘じておく必要がありそうです。
 
 なお、12月後半に直近IPO株がお祭り状態になったこともあり、11月までに上場していた幸和製作所、テンポイノベーションなど2017年IPO銘柄も複数顔を出しています。前月末と比較した騰落率でランキング化していますので、12月IPO銘柄はランキング内に入っていません。

市場 銘柄コード
銘柄名

月間
騰落率

(%)

12月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 4579
ラクオリア
114.8 2350 1094 476
ジャスダック 4317
レ イ
100.3 721 360 103
東証マザーズ 3652
DMP
98.6 15270 7690 423
東証マザーズ 3927
アークン
76.8 1066 603 47
ジャスダック 2195
アミタHD
75.3 2445 1395 29
ジャスダック 3417
大木ヘルケア
63.5 2600 1590 366
ジャスダック 3323
レカム
57.0 179 114 108
ジャスダック 1383
ベルグアース
55.8 2285 1467 29
ジャスダック 6626
SEMITEC
52.5 6620 4340 188
東証マザーズ 3452
ビーロット
51.3 5120 3385 205
ジャスダック
3054
ハイパー
48.3 1060 715 46
東証マザーズ 3484
テンポイノベ
48.0 7110 4805 150
東証マザーズ 3939
カナミックN
47.4 3335 2263 268
東証マザーズ 2477
手間イラズ
46.5 3530 2410 229
ジャスダック 7807
幸和製作
44.7 15550 10750 206
ジャスダック 6337
テセック
43.3 2179 1521 126
ジャスダック 6188
富士ソフSB
42.6 2154 1510 48
東証マザーズ 3996
サインポスト
40.9 19050 13520 473
東証マザーズ 3558
ロコンド
40.8 3100 2202 169
東証マザーズ 3773
AMI
39.2 1922 1381 306


値上がり率ランキング(5銘柄)

1 レイ(4317・ジャスダック)
 12月の1カ月だけで株価は2倍に急騰しました。同社が1日に、テレビ朝日と資本業務提携すると発表。事業面で多面的に連携するとしたほか、資本面でもテレビ朝日への株式割り当てなどを行い、テレビ朝日の持分法適用会社になるそうです。
 これまでの流動性があまりに低かった同社株に対し、このニュースで集まった買い注文があまりに多過ぎた・・・極端な需給ギャップの結果として、発表翌日から5日連続ストップ高(360円→970円)という凄まじいオーバーシュートが発生しました。

2 ベルグアース(1383・ジャスダック)
 1年も終わりに差し掛かった27日、今後の成長に向けた苗を植えます的な材料をリリース。同社によれば、中国企業と合弁会社を設立し、中国国内で本格的に苗事業を始めるそうです。
 グローバル化で業績拡大のバラ色のシナリオを描いてか、同リリース後の株価は2日連続でストップ高(これも需給ギャップが理由)。前のめり感が満載の値動きをしましたが、リリース内で会社側は「今回の合弁会社設立による今2018年10月期業績に与える影響は軽微」と記載していました。

3 SEMITEC(6626・ジャスダック)
 四季報が買い手掛かりになって急騰しました。2017年に注目されたテーマ「EV」の関連株として急浮上!15日に発売された四季報の最新号で、『EV用はテスラ社向けに納入開始』と記載。このフレーズに早く気付いた者勝ち、というように徐々に買いが集まっていきました。3カ月に1度発売される四季報から、買い手掛かりになりそうなフレーズを探す・・・これは、アルゴリズムには出来ません。初心者の方でも、努力次第でヘッジファンドより早く上昇株に辿りつけるかもしれませんね。今でも通じる王道的な銘柄選びの手法といえそうです。

4 ビーロット(3452・東証マザーズ)
 22日に株式分割と大幅増配をダブルで発表。1月16日時点の株主を対象とした1対2の株式分割のほか、未定としていた今期末の配当を39円(前期実績は17円)にすると発表したことで買いを集めました。株式分割をすると買いやすくなるため、投資家層も広がって株価にとってプラスという解釈は分からなくも無いですが・・・かといって、分割そのものには株価が急騰するほどの根拠にはなりません。初心者の方は、株式分割で上がる株の深追いは避けるべきだと思います。
 ちなみに同社については、来18年12月期業績に期待アリ。17年12月期中で売却予定だった複数の販売用不動産を、18年12月期に先送り。次の決算発表が本決算ですので、18年12月期予想の数字に注目されそうです。

5 ハイパー(3054・ジャスダック)
 13日に株主優待制度の導入を発表。その内容は、毎年12月末時点で100株以上の株主を対象に一律1,000円のクオカードを贈呈するというもの。優待の中でも、換金力に優れたクオカードは人気が高いですよね。
 ただし、100株で1,000円のクオカードということは、1株当たりクオカード10円相当。10円のために、株価が発表から2日間で233円も上がるというのは・・・。


1月に注目したい新興株の動き

 新年ですので、気分も新たに今年も株で稼ごう!そんな思いの方が多いと思います。新興株市場の特性なのですが、空売りできる株が少ないこともあって、新規でポジションを作る人が多い時期は上がって始まりやすい(基本的に買いから入るため)といえます。

 東証マザーズ指数が誕生したのが2003年9月。その翌年の2004年~2017年まで14年間の1月のマザーズ指数を調べてみると、1月に上昇したのは8回(下落が6回)でした。また、14年間の月間騰落率を平均すると「+4.2%」。勝率的にもパフォーマンス的にも、カレンダー的には“上がりやすい月”といえそうです。

 では、上がりやすい需給的な理由は何か?を考えてみます。新興株は割高化した状態で取引されている銘柄が多いため、決算発表シーズンが鬼門になりがちです。そういう意味では、決算発表シーズンではない1月は、買った銘柄をホールドしやすい環境といえます。「売る人が減る」という意味で上がりやすいのが一つ。また、1月はIPOが無い月ですので、IPO銘柄に資金が向かうという現象は起きません。こちらも需給面で安心できる理由といえます。

 東証マザーズ指数は、昨年12月に年間高値1,240ポイントを付けています。上がりやすい1月といっても、指数的には11年ぶりの高水準からのエントリー。「11年ぶりの高値」から買うと思うとためらいがちですが、指数の水準は気にする必要がありません。11年前と今では構成銘柄の中身がまるっきり違うからです(銘柄数も当時より約70銘柄も今は多い)。この指数自体に連続性はありませんので、マザーズ指数のチャートを見て展開を予想する意味もありません。

 多くの投資家が心機一転エントリーするのが1月。その1月の初動で買われた銘柄、初動で出来高が増えた銘柄、初動で(ローソク足が)陽線を連発しているような銘柄は、新年から買い意欲が強い銘柄と判断できます。業績などの材料が少ない時期だけに、日々の個別の株価の動きから、自分以外の投資家の行動を察するのが一番の近道といえそうです。