戦略備蓄を「4割」減らしたバイデン政権

 短期視点で原油相場に下落圧力をかけている米国の原油在庫について、確認します。原則毎週火曜日にAPI(米国石油協会)が、同水曜日にEIA(米エネルギー情報局)が、原油や石油製品の在庫を公表しています。

 事前予想との乖離(かいり)がきっかけとなり、原油相場が短期的な値動きを演じる場合があります。その直前公表された米国の景気動向に関する経済指標が弱かった場合、かつ、原油在庫が予想よりも多かった場合は、米国経済は弱い、そしてその事が原油在庫のだぶつき感によって補完されたという印象が広がり、株価指数や原油相場が大きめに下落する場合があります。

 直近の米雇用統計や原油在庫の動向から考えれば、足元の価格下落も、この手の下落である可能性があると、筆者はみています。

 確かに事前予想と実数値の乖離も重要ですが、原油在庫の件で注目すべきは、長期視点の流れと水準感です。米国の原油在庫は、以下のグラフのとおり、長期視点で減少傾向にあります。

 SPR(戦略備蓄)ではない、いわゆる原油在庫は2014年後半に発生した原油相場の暴落(逆オイルショック)の際にシェールオイルの生産量が増加したことがきっかけとなり、一段水準感を切り上げたものの、トランプ政権時、そしてバイデン政権時に戦略備蓄の取り崩しが行われました。

図:米国の原油在庫の推移 単位:千バレル

出所:EIAのデータを基に筆者作成

 トランプ政権時の戦略備蓄の取り崩しは比較的小規模でした。シェールオイルの生産が増加している最中にあったため、戦略備蓄を高水準にとどめておく必要性が低下したことが背景にあると、考えられます。

 バイデン政権時、戦略備蓄の取り崩しが加速しました。2021年の政権発足以降、最大で2000年代前半の高水準だった頃の半分程度まで減少しました。戦略備蓄ではない原油在庫の水準は、トランプ政権時とほとんど変わっていないため、米国全体として原油在庫が急減しました。

 気候変動に配慮して脱炭素を推進することをうたう政権において、原油はそれほど必要ない、との判断が下された可能性があります。また、高水準の戦略備蓄を保有していた場合、対外的に脱炭素が進んでいない(今後も原油を使う用意がある)とみなされかねない、という事への配慮もあったと考えられます。

 こうした経緯を経て、足元の戦略備蓄は多い時の半分程度で推移しています。この事が意味することは、備蓄放出という手段で原油相場に下落圧力がかけにくくなっている、ということです。今年11月に新しい大統領が誕生しますが、どちらが勝利したとしても、備蓄放出を行いにくい状態で政権運営が始まることが予想されます。

 米国の原油在庫を巡っては毎週、事前予想を実数値の乖離に注目が集まりますが、この点以外にも、原油在庫については、大きな留意点があることを気に留めておく必要があります。