ポイント4:国有企業の存在感が従来以上に強調された

 今回の三中全会の「決定」は、国有企業の役割に関して次のようにうたっています。

「国有経済の置かれた状況を改善し、構造を調整し、国有資本と国有企業が強く、良く、大きくなるようにする。国有企業の核心的機能を増強させ、核心的競争力を高める」

「国有資本の国家安全や国民経済の運命に関わる重要な業界や肝心な分野に集中させ、国民生活の公共サービス、危機管理能力、公益性分野などに集中させ、先進性と戦略性のある新興産業に集中させる」

 民間企業に対しても、状況、条件次第では、国家重大プロジェクトや科学技術インフラの研究などにも門戸を開くと言っていますが、前述の国有企業に対する重視に比べると、インパクトは小さいと言わざるを得ません。

 ちなみに、「決定」が国有企業関連に割いた字数が330字、民間企業関連が284字でした。

ポイント5:外資にとっては様子見と過渡期

 外資企業に関する記述もありました。

「市場化、法治化、国際化する一流のビジネス環境を作り、法に基づいて外資企業による投資権益を守る。外資による投資を奨励する産業リストを拡大し、外資の市場参加におけるネガティブリストの項目を合理的に縮減する。製造業分野における外資市場参加の制限措置を全面的に廃止し、電信、インターネット、教育、文化、医療といった分野を秩序だって拡大、開放する。外資企業の生産要素獲得、ライセンス資格、標準制定、政府調達といった分野における国民待遇を保障する。外国人の入国、居住、医療、支払いといった生活の便宜性に関わる制度を改善する。」

 私から見ても、中国政府として、外国企業、外国人の力をうまく使って中国経済を持続的に成長させていきたいという意思が読み取れます。反スパイ法や米中対立、政治や地政学的リスクを含め、習近平政権の中国と付き合う上でさまざまな不安要素はありますが、中国政府としては、外資を何とか呼び込み、引き留めるべくできる範囲で策は取っていくのでしょう。

ポイント6:米中デカップリングは進む

 私は「決定」が、「産業チェーン、サプライチェーンの強靭性と安全水準制度を健全に向上させる」という項目に注目しました。次のように提起しています。

  • 自主的なコントロール可能な産業チェーン、サプライチェーンを作り上げること
  • 集積回路、工業機械、医療装備、計測装置、基礎ソフトウェア、工業ソフトウェア、先進材料といった重点的な産業チェーンを発展させるための体制とメカニズムを強化し、技術力と成果の応用力を高めること
  • 産業チェーン、サプライチェーンの安全リスク業過と対応メカニズムを構築すること
  • 国家貯蓄システムの充実を加速化すること

 これらの文言を読む限り、中国は、国の長期的発展に関わるような戦略的分野に関しては、自給自足、自前生産、自力再生という前提で産業チェーン、サプライチェーンを構築していこうというスタンスを持っているようです。それが意味するのは、米国との、特に先端技術をめぐるデカップリング(切り離し)への備えだと理解すべきでしょう。

ポイント7:科学技術が国家建設でますます重要な役割を担うようになる

「決定」において、「科学技術」というワードが出てきた数は、2013年が9回、2024年が52回と、最もギャップがありました。中国共産党指導部として、それだけこの分野を戦略的に重視しているということです。経済力と科学技術力を結合させ、それをさらに軍事力の強化につなげるという壮大なピクチャーを描きながら、基礎研究から応用実践まで、科学技術力の向上に「国家の命運」をかけていると言っても過言ではありません。

 今回の三中全会では、教育、科学技術、人材という三つの分野こそが、中国式現代化にとっての基礎的、戦略的支柱だと強調しました。科学技術分野における教育、そして人材の育成は待ったなしという姿勢で、今後巨額の投資がなされるのは必至。我々も中国側のそういう現状を前提に、関連する分野の産業や企業状況を観察していく必要があるでしょう。

ポイント8:2029年×習近平×社会主義

「決定」は、三中全会で取り上げた改革任務を2029年までに完成させるべきだと明確に要求しています。習近平第3次政権は2028年3月で正式に終わりますから、2029年というのはその後になります。

 私が今回初めて提起された「2029年」という期限設定を目にしたとき、とっさに察知したのが、習近平氏は3期目を超えて、4期目にまで踏み込む、その上で、各種改革がきちんと全うされているのか否かを、現役の最高指導者という立場で見届けようとしているのだろうなという点です。当然、同氏が掲げる「中国の特色ある社会主義」体制という前提で、そこまで、そしてそれ以降も突き進むのでしょう。

 我々もそういう前提で、希望的観測ではなく、現実的趨勢を念頭に中国の今後を見ていくべきです。