NYダウ・金倍率

前回、金銀比価(GSR Gold Silver Ratio)という、普段はあまり聞きなれない指標の話をしました。この指標は、現在の金融市場、商品市場で何が起こっているのかを理解する上で役に立ち、市場の風向きを感知することに役立つというお話をしました。今回はこのGSRと同じように、市場の風向き、それもかなり長期の風向きを探知するのに役立つ、「NYダウ・金倍率」のお話をします。

NYダウ・金倍率は、米国のNYダウ平均株価を金価格で割った指数です。すなわち、NYダウの金価格に対する倍率を表しています。現在(2015年7月13日時点)のNYダウ17,760ドルを金価格1,160ドルで割ると15倍となります。金に対してNYダウは15倍の比率ということになります。別の言い方をすれば、金1単位に対してNYダウの価値が15単位ということになります。あるいは、ダウ1単位買うのに金が15単位、すなわち15トロイオンス必要ということになります。現在のこの倍率15倍は上昇過程なのか下落過程なのか、そのことを知るために過去の推移を見てみます。

ダウ・金倍率は30~40年の周期で動いています。狂乱の1920年代のピーク、つまり大恐慌直前の1929年は19倍でしたが、バブルが破裂し、その後、30年代大不況の1933年には1.9倍まで急落しました。第二次世界大戦後の最初のピークは1966年の29倍。しかし、1980年には1.2倍に落ち込みました。その後世界景気の回復とともにダウは上昇し、ITブームの1999年には史上最高の45倍を記録しました。その後は一貫して低下し、2011年には6倍割れまで下落しましたが、中央銀行の量的緩和によって株が上昇し、現在の15倍近辺をうろついています。

ダウ・金倍率の推移

1999年の45倍の時にはダウを買うのに必要な金の量は45トロイオンスでしたが、その上昇前の1980年の大底ではたった1.2トロイオンスの金でダウが買えたということになります。1900年以降の底値は2倍割れでしたので、もし、現在の水準で2倍割れの仮定計算をすると、現在の17700ドル÷2倍=金8850ドル、となります。これは極端な数字ですが、ダウ・金倍率が下がる時は、株が下落し、金が上がる傾向にあるので、金が前回高値近辺の2000ドルとするとダウは4000ドル迄下落しなければなりません。これも極端な数字です。金が前回の高値の倍4000ドル、ダウは調整を続けながら8000ドル、水準的にはリーマンショックの2008年後半から2009年頃の価格まで下がるとちょうど2倍になります。金はそんなに上がるのか、NYダウはそんなに調整するのかという話になりますが、これはあくまで机上の計算です。では、現実にはどう考えればよいのでしょうか。これは、ダウ・金倍率の指標は何を意味するのかということになります。

金融資産か実物資産か

株が上昇する時は、景気が上昇局面にあり、企業業績も好調で企業の実質資産価値も増大し、株価が上昇するというのが一般的です。その時は、金利も上昇していることから、金利を生まない金よりも企業価値のある株を選好する傾向になります。株が下がる時はその逆の局面になります。

従ってダウ・金倍率が上昇する時は、株が上昇し金が下落する時か、あるいは株の上昇率の方が高く、金が停滞している時に倍率は上昇します。逆にダウ・金倍率が下がる時は、株が下落し金が上昇する時か、あるいは株が停滞し、金の上昇率の方が高い時に倍率は下がっていきます。

言い方を換えれば、倍率が上昇する時は、株の方が金より大幅に上昇する、すなわち、実物資産よりもペーパーマネー、つまり金融資産の方が大幅に上昇する経済・金融環境になっているということになります。そして倍率が下がる時は、金融資産が大幅に下落するか、金融資産よりも実物資産の方が大幅に上昇する経済・金融環境になっているということになります。

この半年、NYダウは高値を更新するなど上昇していましたが、景気や企業業績はぱっとしていません。雇用は回復していますが実体経済に力強さがありません。株の上昇の背景は企業価値の上昇というよりも、米国のみならず日本や欧州の中央銀行による量的緩和の影響によって、行き場のないお金が株式市場に流れているためだと言われています、従って、ダウ・金倍率は2011年の6倍割れから15倍まで戻しましたが、その後は上値が重く上昇しない状況となっています。このまま、景気の本格回復がないと投資家は金融資産から離れ、ダウ・金倍率はいずれ下がっていくことが予想されます。

そして更にこのダウ・金倍率で重要な点は、倍率が下がる時、すなわち、金融資産のパフォーマンスが悪く、実物資産に向かう時に、実物資産でより価値が高いのは金であるという点です。金融資産のパフォーマンスが悪い時は、経済環境も悪いため、不動産や商品の実物資産のパフォーマンスも悪くなりやすく、その中で相対的に金の価値が高くなるため、金でダウの相対価格を見るという考え方です。本当にそうかどうか、もし、今後ダウが下落する局面が出てきた場合、試算してみて下さい。ダウを原油価格で割った倍率、あるいは銀で割った倍率を定期的に比較するとわかります。

現在の株価を見ると、中央銀行による大量の資金供給によって株式市場がバブル化している可能性が高く、このダウ・金倍率は過去と比較した時に現状は少しゆがんでいるかもしれません。過去の歴史の教訓ではバブルは永遠に続きません。従ってダウ・金倍率の指標や前回お話したGSRの指標を参考にしながら長期的な風向きや風速を探知していくことは、相場予測の上で大怪我をしない予防策のひとつと言えます。

NYダウ・金倍率GSR

  • NYダウの金価格に対する倍率
    30年~40年周期
    2015年6月現在15倍
    史上最高 45倍1999年
    大底近辺2倍割れ1933年 1.9倍
    1980年 1.2倍
  • 実物資産(金)よりも金融資産(株)の方がパフォーマンスが高い時に倍率は上昇
  • 金融資産(株)よりも実物資産(金)の方がパフォーマンスが高い時に倍率は下落