柴田法則の概要

柴田罫線を生んだのは、柴田秋豊氏(1901年~1972年)です。柴田氏は、実用的なコンピュータなどない時代に延べ5000年分に及ぶ量の罫線を分析し、1950年代半ばに独自の売買法則を生み出しました。それが「天底転換型罫線」です。相場の天井、底を判断し、売買のポイントを見出すための罫線法則なのです。通称、「柴田罫線」と呼ばれますが、体系化・法則化されたものなので、「柴田法則」と私は呼んでいます。

チャートにもさまざまな種類がありますが、「柴田罫線」は、単に株価の推移を記録して、相場の傾向を分析するだけでなく、個別銘柄を攻略する際に、攻撃銘柄を絞り込んだ上で、買いシグナルを明確に示してくれます。さらにいえば、手仕舞いタイミングも、売りシグナルとして教えてくれます。

柴田法則は、大きく2つの法則から成り立っています。それは、「鈎足法則」と「棒足法則」です。下記の表1を参照してください。「鈎足法則」は4つの法則(鈎足四法則)からなり、「棒足法則」は、「順張り48法則」と「逆張り48法則」で構成されています。

「鈎足法則」はわかりやすい法則なので、比較的習得しやすい法則です。相場がわかりやすい間は、この「鈎足法則」だけでも十分で、私も百発百中に近い成果を上げていましたが、相場が不透明になってくると、これだけでは対処できなくなるので、「棒足法則」を組み合わせて活用する必要が出てきます。そうしないと、売買のタイミングを迅速に、かつ的確に捉えることはできません。そういう意味で、この2つは「柴田法則」のいわば両輪なのです。

「棒足法則」に用いられる「棒足罫線」は、いわゆるローソク足と呼ばれるものです。通常の株価チャートに使われるものなので、日常、目にする機会も多いでしょう。

対する「鈎足罫線」(狭い意味の柴田罫線)は、通常、あまり知られていません。柴田秋豊氏が研究の結果、改良を加えて独自に完成させたものです。

表1 柴田法則の概要

「柴田罫線」はパターン分析

柴田罫線は、柴田秋豊氏が創意工夫して生み出したテクニカル分析の中でパターン分析と呼べるものです。ほとんどのテクニカル分析は体系的に従って売買のタイミングをはかっていきますが、パターン分析は、売り手と買い手の戦いの中でチャートの上下動によってある形が形成されていき、その形が上放れるか下放れるかによって売買シグナルが出るというものです。つまり、チャートの動きをファンダメンタル派がいうように過去の共通の足跡だとみるのではなく、人間の金を儲けたい欲と金を次の投資の相互に放った売買であるとみるのです。そうするとある形ができて、上に行くと買い手の勝ち、下へ行くと売り手の勝ちとみるのです。例えば、三尊天井というのがありますが、これは、買い手側が3回も上に抜けるのに試したものの、それが出来ず、直近の売値を切ったことで3つの山で買っていた人が、あわてて売り、大きく下げて三尊天井が形成され、天井での玉が数を上回るまでは、戻り売りとなって下落し続けるということなのです。

柴田罫線は、日足の終値のみを利用し、株価によって上下する場合の値動きが決まっており、そのルールに従って出来上がってきます。また、この柴田罫線は、もう一つの棒足48法則(順張り、逆張りがあります)というもののエッセンスをとったものとして創意工夫されています。棒足48法則は、江戸時代からのいろいろな罫線のパターンを集めて体系化したもので、日本では外にこのような体系化したものは、見つかりません。三尊天井もいくつかのパターンに分かれています。買い手と売り手のある期間の商いによって出来上がった形は、人間の欲と恐怖の戦いによってどちらが有利になるのかを判断するものです。そういう意味では、人間の金に対する欲望と恐怖が過去も現在も未来もそんなに変わらないものであればパターン分析による売買は、普遍性があることになります。

パターン分析を相撲に例えるとわかりやすい

柴田罫線がなにゆえに高い的中率で相場の「転換」を判定できるのか、その理由についてすでにさまざまな視点から述べてきました。最後に、私が相談されたときによく説明のために使うたとえ話を紹介しておきましょう。

柴田罫線は、まるで相撲の行司が軍配を差しかざすかのように、「売り転換」と「買い転換」を判定します。

相場は、買い手と売り手のせめぎあいで株価が動かされているようなものです。買い手の勢力が強ければ株価は上昇し、売り手の勢力が勝てれば下落するのです。相場の“もちあい”は、両者の力が均衡している状態と考えればよいでしょう。

そして、買い手と売り手が土俵でもみあい、買い手が売り手を投げて勝った瞬間、柴田罫線が買い手側に軍配を差しかざして「買い転換」を知らせるというわけです。

つまり、柴田罫線は、勝負がつく前に“予測”するのではなく、勝負がついた瞬間に、勝者がどちらかを“判定”するわけです。勝負がついて、買い手側に軍配が上がった(「買い転換」のサインが出た)なら、後は相場が上がるのは当然ですから、投資家は安心して「買い」出動すればよいことになります。

言い換えれば、従来のファンダメンタル分析の株式アドバイザーたちが、もみあっている買い手と売り手の勝敗を“予測”していたのだとすれば、柴田罫線は勝負がついた瞬間に勝敗を“判定”・“確認”するわけです。

こうみれば、柴田罫線の的中率が高いのは当たり前です。

投資家は、柴田罫線の軍配をただながめていればよいのです。そして、軍配が差し上げられたら(「転換」サインが出たら)、そのとおりに売買しさえすればよいわけです。ただし、2割の差し違え(だまし)があるので、そのときはただちに損切りにしなければなりませんが。

私は、連戦連勝を重ねているうちに、柴田罫線が本当に相撲の行司のように思われ、その行司が差しかざす軍配どおりに投資している自分の姿に気づきました。そして、ファンダメンタルズや材料やらをもっともらしく理論づけ、“予測”をたてる株式アドバイザーの言に耳を傾けていたかつての自分が、相場の本質を何も見ていなかったのだ、と思い知らされたのでした。