今日のまとめ
- エンタープライズ関連のハイテク企業は企業の設備投資意欲に左右される
- ブロケードは一握りの顧客への依存度が高すぎる
- シスコは新製品発表前の買い控えと新興国の不振に苦しんでいる
- EMCは子会社を通じて新しい商機をモノにしている
- ヒューレット・パッカードの業績は精彩を欠いている
- IBMは相次いで売上高が予想を下回っている
- ネットアップはマーケットシェアを上げている
エンタープライズとは企業という意味
「わかりやすいグローバル投資レポート」の第12回でコンシュマー関連のハイテク企業を紹介しました。今回はエンタープライズ、すなわち企業向けの製品を作っている企業を紹介します。
エンタープライズ市場は企業の設備投資意欲に需要が左右されます。一般に好景気下では企業は設備投資に積極的で、先行きに不透明感があるときは慎重です。
リーマンショック以降、ギリシャ危機や米国の債務上限引き上げ問題など、世界の経営者は次々に懸念材料に直面してきました。このためエンタープライズ関連のハイテク企業はずっと厳しい経営環境が続いてきました。
このところアメリカ経済は好調ですし、欧州経済もようやく低迷期を脱する兆候を見せています。強いて言えば中国をはじめとする新興国経済の鈍化が新しい懸念材料ですが、全体的には環境は改善していると思います。
関連銘柄
代表的な銘柄は下のようになります。
銘柄 | コード | 主な製品 |
---|---|---|
ブロケード・コミュニケーションズ | BRCD | ストレージ関連 |
シスコ・システムズ | CSCO | ネットワーク機器 |
EMC | EMC | ストレージ関連 |
ヒューレット・パッカード | HPQ | プリンタ、サーバ、サービス |
IBM | IBM | ITサービス、ビジネス・サービス |
ネットアップ | NTAP | ストレージ関連 |
ブロケード・コミュニケーションズ
シリコンバレーの一番奥のサンノゼに本社があるブロケード・コミュニケーションズ(ティッカーシンボル:BRCD)はストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)やイーサネット・ネットワーク向けのスイッチやソフトウェアなどを作っています。同社はデータセンター向けネットワーキングでシスコ・システムズに次いで第2位です。
もともとSANの専業メーカーだったのですが2008年にファウンドリー・ネットワークスを買収しイーサネットの分野にも進出しました。
同社はデータセンター向けにバーチャル・クラスター・スイッチ(VCS)という新製品を出しており、顧客からの引き合いは強いです。
もうひとつの新製品、100ギガバイト・ルーターも急増するデータ・トラフィックをさばくのに適した意匠となっており、注目されています。
同社の業績は下のグラフのようになっています。
【略号の説明】
- DPS一株当り配当
- EPS一株当り利益
- CFPS一株当りキャッシュフロー
- SPS一株当り売上高
同社は主要3顧客が売上高の45%を占めており、顧客集中度が高すぎます。若しそれらの顧客が注文を減らせば同社の業績に大きく響きます。
長期化するIT予算圧縮の風潮の中でブロケードは経営のスリム化を強いられてきました。年間1億ドルの費用を削減するプログラムは予定より早く目標を達しています。
ブロケードの現在の株価($9.88)を今年のEPSで割ると株価収益率(PER)は10.18倍になります。
シスコ・システムズ
時価総額ベースで世界最大のネットワーク機器メーカー、シスコ・システムズ(ティッカーシンボル:CSCO)もブロケード同様、サンノゼに本社があります。
同社の顧客は通信会社、データセンター、ネット企業、事業会社など幅広いです。主な製品はルーター、スイッチ、テレプレゼンス、ワイヤレスLAN、ウェブ・カンファレンシング、SANなどです。シスコはこれらの分野でいずれもナンバー・ワンかナンバー・ツーの位置に付けています。
シスコ・システムズは「インターネット・オブ・エブリシング」と呼ばれる、あらゆるモノがネットによってつながる時代に備えてトータルなソリューションを提供すべく研究開発を進めています。
シスコの売上構成比は次のようになっています。
同社は主力のルーターが新製品発表前の顧客の買い控えで足踏みしているほか新興国における需要の落ち込みが激しかったです。これは同社の製品より廉価な中国製に顧客が奪われているためです。
加えて最近ではソフトウェアを駆使することで以前より少ないネットワーク機器で同じ量のデータを捌く、新しいネットワーク構築方法が考案されつつあり、同社にとって脅威となっています。
これらのことから同社の売上高は-6%から-8%程度で推移するものと思われます。
こうした厳しい環境の中で、シスコは主にコスト削減と自社株買い戻しによって一株当たりの業績を維持してきました。
シスコの現在の株価($21.5)を今年のEPSで割り算したPERは11倍であり、バリュエーション的には割高感はありません。
EMC
EMC(ティッカーシンボル:EMC)はマサチューセッツ州ホプキントンに本社を置くストレージの会社です。
EMCはバーチャライゼーション・ソフトウェアの企業、VMウェア(ティッカーシンボル:VMW)の80%を所有しています。VMウェアは、いわゆるソフトウェア・デファインド・データセンターのビジネスを積極的に展開中です。
EMCはもうひとつ重要な子会社を持っています。それはピボタルです。ピボタルはビッグ・データと呼ばれる分野に特化しています。スマホの普及でネットに接続されているデバイスの数は急増していますし、それに呼応してデータの量も増加しています。そのような膨大なデータを経営判断やマーケティングに使ってゆくのがビッグ・データの考え方です。
ピボタルは「プラットフォーム・アズ・サービス」という概念を打ち出し、サブスクリプション型の売上の計上の仕方を編み出しています。つまりピボタルは技術面でビッグ・データの商機を開拓するのみにとどまらず、その「売り方」も工夫しているわけです。
このようにEMCは新しいビジネス・チャンスが生まれると会社本体でそれに取り組むというより、専門の子会社を設立することで機動的にチャンスを取りに行くという経営手法を採用しています。研究開発費もふんだんに割いており、今年はEMC、VMウェア、ピボタルの3社で合計して30億ドルを使う予定です。
EMCの売上成長率は7%で、これはハイテク株の中では立派な数字です。そのうちコアのストレージ部門は4%で成長でした。しかし今後、この部分は3%成長に鈍化してくると予想されています。
総合すると大型ハイテク株の中では同社が一番機敏に商機をモノにしている印象があります。
ヒューレット・パッカード
ヒューレット・パッカード(ティッカーシンボル:HPQ)はスタンフォード大学に隣接するパロアルトに本社を置く、シリコンバレーの老舗企業です。
ヒューレット・パッカードの屋台骨になっているビジネスはプリンタです。プリンタは消耗品であるインクのリピート・ビジネスがあり、これがマージンの面や売上の安定性の面でとても貢献しています。
その半面、それ以外のビジネスはどれもリーダー的ポジションではなく、競争力の面で微妙な立場にあります。
それを反映して同社の売上高は今年3年連続のマイナス成長を記録すると予想されています。
IBM
IBM(ティッカーシンボル:IBM)はニューヨーク州に本社を置くテクノロジー企業です。
同社のビジネスは下のグラフのような部門から構成されています。
このうちシステムズ&テクノロジー部門の売上の大半はサーバで、ソフトウェア部門の売上の大半はミドルウェアです。
地域別の売上高構成比率は下のグラフのようになっています。
1月に発表された2013年第4四半期では、アジア太平洋地域の売上の落ち込みが響きました。
これは中国でのシステムズ&テクノロジー部門の売り上げ不振が原因です。全人代を控えて、不透明感から先行投資が控えられたのがその原因だとされています。
このところIBMは6期連続して売上高が減少しており、しかもアナリスト予想を下回り続けています。
ウォーレン・バフェットの投資会社、バークシャー・ハサウェイがIBMの発行済み株式数の6%を持っていることからもわかる通り、バリュエーション的にはIBMは割安です。しかし着実に成長を出せるようにならないと株価の底入れは望めません。
ネットアップ
ネットアップ(ティッカーシンボル:NTAP)はシリコンバレーのサニーベイルに本社を置くストレージ関連の企業です。
同社は2005年から2012年にかけて最もマーケットシェアを伸ばした企業です。
同社の最近の業績はOEM向けの売上不振で足踏みしています。また米国政府向けの売上は折からの財政削減の余波を受けて低迷しました。
しかしクラウド市場向けの新製品の登場で、今後は再び売上モメンタムを取り戻すと見られています。
潜在成長力という面では今回紹介した銘柄の中で同社が最も高いです。