今日のまとめ

  1. シェールガスは比較的簡単に発見できるが、生産は難しい
  2. LNG(液化天然ガス)輸出設備が稼働しはじめると需給が改善する
  3. そうなればシェールオイル銘柄だけでなくシェールガス銘柄も注目される

シェールとは

シェールとは、頁岩(けつがん)を指します。頁岩は水中に堆積した泥が固まって出来た岩です。シェールは太古の昔に沼沢地帯だったところに多く見られます。この岩は水分や気体を通しにくいです。これは普通の油田が砂まじりの地層に存在することと好対称をなしています。

鶏がらスープで説明すると

いまシェールがどんなものであるかをイメージしやすいように、鶏がらスープで説明します。

昔の沼地にはいろいろな生物が棲んでいました。また藻や植物もあったと思います。それらが気象の変化などにより死滅し、シェールに閉じ込められ、さらにその上に何層にもおよぶ、新しい地層が重なった状態を想像してください。

このシェールは地下5,000メートル以上の、極めて深い位置にあります。したがって非常に圧力がかかるし、地熱で、ゆっくりコトコト煮込んだような状態になります。

さて、深いスープ鍋一杯に水を張り、その中に鶏がらを放り込み、それを火にかけ、しばらく煮ると、水面に透明の円が無数に浮かび上がってきますよね? これは鶏がらから出る油です。

サウジアラビアなどの通常の油田は、この「水面に浮かび上がってきた油」だと思って下さい。つまり油田とは、限りなく地表に近いところに閉じ込められた「うわずみ」というわけです。

石油会社が、この取りやすいところにある「うわずみ」をどんどん汲みあげると、石油が枯渇します。実際、2008年頃まではピークオイル、即ち世界の原油生産がピークを打ち、だんだん生産が細るだろうということが心配されていました。

ところで「うわずみ」はどこから滲み上がってきたかといえば、それはもっとずっと深いところにある、シェールが源(みなもと)になっています。つまり、「鶏がら」そのものに相当するのが、シェールなのです。

長い年月をかけて脂分が浮かび上がってしまったとはいえ、まだまだ鶏がらの中には身や脂が残っています。それがシェールガスでありシェールオイルなのだと考えると、理解しやすいのではないでしょうか?

なぜ零細業者ばかりだったか

そもそも鶏がらが無ければ「うわずみ」も無いわけですから、石油業界の関係者の間では、ずっと地中の奥深くにシェールガスやシェールオイルが閉じ込められていることは、昔から常識として知られていました。ただ、気が遠くなるほど深い場所にあるので誰もそれを取ろうとはしなかったのです。

オイルメジャーと呼ばれる、大手石油会社は「うわずみ」を取り尽くしてしまうと、さっさと次の「うわずみ」がある場所を求めて中東やアフリカなど、世界に出てゆきました。残り物は、独立系の、零細な業者に払い下げられました。零細な業者が買ったその残り物すらも取り尽くしてしまうと、業者の中には(ダメモトで、シェールに届くところまで掘り進んでみよう)と考えるものが出て来たのです。

ミッチェル・エナジーは、そんな会社のひとつです。同社は1991年にバーネット・シェールで水平掘り(ホリゾンタル・ドリリング)ならびに破砕法(フラッキング)という、こんにちシェールガス開発の際の常套手段として定着した2つのノウハウを援用して、初めてシェールガスの生産に成功しました。

シェール層は比較的薄いレイヤー(層)なので、折角、そこに到達しても、更に掘り進むと、そのレイヤーを突きぬけて、また石油や天然ガスが出ない層に入ってしまいます。だからシェールのレイヤーに達したら、すぐに方向転換し、今度は薄く、水平に広がるこのレイヤーをしっかり捉える必要があるのです。水平掘りが必要なのはこのためです。

さらに「鶏がら」から天然ガスや石油を生産するためには、鶏がらを砕いて、そこに閉じ込められた旨味を無駄なく回収する必要があります。破砕法(フラッキング)という、ダイナマイトで先ず亀裂を入れて、次にポリマーを含んだ特殊液を注入する方法が編み出されたのはこのためです。

シェールの発見は難しくない。難しいのは生産だ

シェールはあらゆるところにあるので、シェール層の発見自体はそれほど難しくありません。難しいのは垂直に地下5,000メートルほど掘った後、そこから今度は水平に3,000メートル掘り進むといった、高度な技術をどうマスターするかです。それだけ遠くまで掘っても「ターゲットに到達した際の誤差はネクタイピンほどしか無い」と言われるほどの、正確さが要求されるのです。

シェールが「大当たり」しすぎて、天然ガスの価格は急落

シェール層からの天然ガスや石油の生産が不可能ではないと判って以来、アメリカではシェールガス・ブームが到来しました。あまり多くの業者が参入するので、天然ガスがたちまちだぶついてしまい、価格は急落しました。

特に天然ガスは気体ですので嵩張るし、扱いに困るので、どこへでも運搬できる原油とはわけが違うのです。そんなわけで業者たちはシェールガスではなく、シェールオイルが出る地域にシフトすることで、採算性を守る戦略に出ました。

下のグラフは油井にドリルビットなどの消耗品を供給している石油サービス会社、ベーカーヒューズ(ティッカーシンボル:BHI)が集計しているリグ(油井)カウントです。

2008年に天然ガス価格が急落して以来、各社は天然ガスのリグを休止し、逆に原油のリグを増やしたことが読み取れます。

過去2年間のシェール関連銘柄のパフォーマンスを振り返ってみると、下のグラフのようになっています。

最もパフォーマンスの良かったパイオニア・ナチュラル・リソーセズ(ティッカーシンボル:PXD)とEOGリソーセズ(ティッカーシンボル:EOG)は天然ガス価格の急落を見るとただちに天然ガスから原油に乗り換えました。この臨機応変な対応が成功して、株価は上昇しました。しかし今は天然ガスから原油へのシフトを模倣する業者が増えてしまったので、原油はこれまでほど旨味はありません。それを反映して最近、これらの銘柄の株価はダレています。

これとは対照的にチェサピーク・エナジー(ティッカーシンボル:CHK)、デヴォン・エナジー(ティッカーシンボル:DVN)、サウスウエスタン・エナジー(ティッカーシンボル:SWN)の各社は自社の資産ポートフォリオに占める天然ガス比率が高く、株価は横ばいでした。

今後のシナリオを考える上でのポイント

さて、2015年末頃にはサビンパスのLNG輸出基地が稼働しはじめます。LNGとは液化天然ガスの略です。運搬しにくい天然ガスを一旦冷却し、液体状にすることで体積を600分の1にまで圧縮し、LNGタンカーに積んで世界に出荷するわけです。

LNG輸出基地が稼働することは、したがって今後の需給関係の改善要因と言えます。サビンパスLNG輸出基地以外にも幾つかのプロジェクトが動き始めています。これの意味するところは、これまで敬遠されてきた、シェールオイルを余り持たない、シェールガスのみに特化した業者に、日の目が当るということです。

但しLNG輸出が実際に開始され、米国内の天然ガスの需給関係が改善するのは2年ほど先の話です。株式市場はとかく未来を先取りするもの……従ってそれより先にシェールガスの銘柄が見直される可能性もあると思います。

デヴォン・エナジー

デヴォン・エナジー(ティッカーシンボル:DVN)は冒頭で言及したシェールガスのパイオニア企業、ミッチェル・エナジーを買収した会社です。その意味では、シェールガスの老舗と言っても過言ではありません。現在の天然ガス:原油比率は63:37です。

【略号の読み方】

  • DPS一株当り配当
  • EPS一株当り利益
  • CFPS一株当りキャッシュフロー
  • SPS一株当り売上高

一株当たりキャッシュフローを一株当り売上高で割り算すると、営業キャッシュフロー・マージンが得られます。2013年のデヴォン・エナジーの営業キャッシュフロー・マージンは43.1%です。アメリカの平均的な企業の営業キャッシュフロー・マージンは12%前後ですから、これは大変立派な数字と言えます。

デヴォン・エナジーの負債総額は100億ドルで、これは自己資本の28%に相当します。これは特に問題にならない水準だと思います。

チェサピーク・エナジー

チェサピーク・エナジー(ティッカーシンボル:CHK)はオーブリー・マクレンダンという天然ガス業界の風雲児によって一代で築かれた企業です。マクレンダンはシェールガスを信ずる余り、天然ガスの権利を買い占め過ぎ、2008年に天然ガス価格が急落した際に経営危機に見舞われました。

この責任を追及され、マクレンダンは自分が創業したチェサピーク・エナジーのCEOを解任されてしまいます。その意味ではアップルを解任されたスティーブ・ジョブズとちょっとイメージがダブるところがあります。

チェサピーク・エナジーの営業キャッシュフロー・マージンも54.5%あり、大変キャッシュを生み易い収益構造になっています。

同社の負債総額は130億ドルで、自己資本の41%に相当します。つまり同社は他社に比べてアグレッシブに業容を拡張し過ぎたので、バランスシート・リスクがあるということです。

サウスウエスタン・エナジー

サウスウエスタン・エナジー(ティッカーシンボル:SWN)は上記の2社に比べると事業規模は小さいです。ほぼ天然ガスだけしか採掘していないので、天然ガス価格が低迷した過去4年間は厳しい経営環境が続きました。

それにもかかわらず同社はしっかり業績を伸ばしています。

同社はシェールガス関連企業の中でも最もロー・コストで天然ガスを生産できる企業として知られています。またバランスシートも保守的です。

EOGリソーセズ

EOGリソーセズ(ティッカーシンボル:EOG)はシェールガス、シェールオイル関連では横綱級の銘柄です。同社はテキサス州のイーグルフォード、ノースダコタ州のバーケンなどのシェールオイルが採れる地域に積極展開しており、その戦略が当たって業績はすこぶる好調です。

同社のバランスシートにはムリはありません。

パイオニア・ナチュラル・リソーセズ

パイオニア・ナチュラル・リソーセズ(ティッカーシンボル:PXD)は生産の40%がシェールオイル、20%がNGL(ナチュラル・ガス・リキッド)、残りがシェールガスです。マーケティングの際に有利なシェールオイルとNGLが全体の6割を占めている関係で、業績の伸びは目覚ましかったです。

同社の主力油田は西テキサスのスプラベリーならびに南テキサスのイーグルフォードです。とりわけスプラベリーの「ウルフキャンプ」層からの生産は未だ始まったばかりであり、将来の増産が期待できます。