今日のまとめ

  1. 医療機器はインベーシブ(観血的)な方が付加価値は高い
  2. 研究開発(R&D)が重要である
  3. 景気後退に強い
  4. 財務力がある企業が多い

医療機器セクターの概観

今日は医療機器セクターについて解説します。医療機器は1.インベーシブ(観血的)と2.ノン・インベーシブ(非観血的)という二つのグループに大別できます。

「観血的」とは聞きなれない言葉かも知れませんが、文字通り「血を見る」という意味です。つまりその医療機器が使用されるとき、体内に埋め込まれる、ないしは手術器具のように身体を切開する際に使われる場合がインベーシブです。

これに対して病院のベッドのように、使用に際して体内に入り込まない医療機器はノン・インベーシブに分類されます。

なぜこのような分類が重要かといえばペースメーカーのように体内に埋め込む機器、脳外科手術のように正確に身体を切開するための器具はそのデバイスの安全性、信頼性、正確性、機能性などに関して高いスペックが要求され、従って製品価格も高価である場合が多いからです。そのようなプレミアム製品は利幅も大きいし、絶え間ない研究開発(R&D)が必要となります。このグループに属する企業は財務的にもピカピカの企業が多いです。

一方、病院のベッドのようにノン・インベーシブの製品の場合、その器具の性能が患者の命に直接関わる可能性は低いです。その場合、自ずと値段がリーズナブルな商品を病院は買い求めるため、主に値段で競争せざるを得なくなります。つまりどうしてもコモディティ色が出てしまうのです。一般に、このグループに属する企業は、財務的にはインベーシブな製品を作っている企業より劣ります。

そこで今日はインベーシブな医療機器を主に作っているメーカーを紹介したいと思います。

技術革新の重要性

インベーシブな医療は、日進月歩で進歩しています。より効果的な治療で、より早く病院から退院できるような治療を可能にする医療機器は、発表と同時にあっと言う間に普及する傾向があります。このためインベーシブな医療機器メーカーの株価形成は、ハイテク株やバイオテクノロジー株と似たような、成長株の特色を多く持ち合わせています。

景気後退に強い

もうひとつの特徴は、ヘルスケアのセクターは、比較的景気に左右されないという点です。ハイテク株より医療機器メーカーの方が長期投資の対象として好ましいと考える論者の多くは、この点を指摘します。実際、後で見ますが、長期での医療機器メーカーの業績は安定していることが多かったです。

リスク

それを断った上で、医療機器メーカーの株式にリスクが無いわけではありません。先ず高価なデバイスは医療保険の払い戻しが受けられるかどうかによって売れ行きが大きく左右されますし、他により優れたデバイスが登場すれば時代遅れになり、誰にも買われなくなります。また機器の欠陥から訴訟を招くリスクもあります。今年1月から「オバマケア」の一環として医療機器に対して2.3%の消費税が課せられることになりました。このような税制の変更も売上高に影響を及ぼします。

新しいデバイスが登場したとき、それを使用した治療がブームになり、過剰診療を招く場合があります。そこでは利益を追求する医者が必要のない大手術をどんどん奨励するなどの悪用が起こります。

財務パフォーマンス

一般にインベーシブな医療機器を作っているメーカーの業績は平均的な米国株より財務パフォーマンスが良いです。下は医療機器メーカー各社の営業キャッシュフロー・マージンのグラフです。なおバリューライン平均とは「アメリカの四季報」と言われるバリューライン・サーベイの調査範囲に入っている945社(=これをバリューライン・インダストリアル・コンポジット指数といいます)の平均です。

医療機器メーカー各社の営業キャッシュフロー・マージン(%、2013年予想、バリューライン)

営業キャッシュフロー・マージンとは、或る企業が商品やサービスを売ることで得た売上高から原材料費などの支出を引く事で得られる現金収支を指します。いまその営業キャッシュフローを売上高で割り算したものが営業キャッシュフロー・マージンということになります。上のグラフに見る通り、主要医療機器メーカーの営業キャッシュフロー・マージンは、いずれも素晴らしいです。

次に各社の過去5年間の年率キャッシュフロー成長率を見ます。

医療機器メーカー各社の過去5年のキャッシュフロー成長率(%、年率、バリューライン)

いずれもバリューライン平均を上回っています。

次に株主資本利益率を見ます。

医療機器メーカー各社の株主資本利益率(%、2013年予想、バリューライン)

各社とも問題ありません。

次に利益のどれだけを配当に回しているかの尺度であるペイアウト・レシオを見ます。

医療機器メーカー各社のペイアウト・レシオ(%、2013年予想、バリューライン)

ペイアウト・レシオは、或る程度高いことが好ましいですが、高すぎ(50%以上)てもいけないと思います。

CRバード(ティッカーシンボル:BCR)

CRバードは血管(売上の29%)、泌尿器(26%)、腫瘍(27%)、外科専門用品(15%)向けの医療機器を作っています。海外売上比率は33%です。同社の収益はきわめて安定しています。またバランスシートも強固です。

CRバードの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

【略号の読み方】

  • DPS 一株当り配当
  • EPS 一株当り利益
  • CFPS 一株当りキャッシュフロー
  • SPS 一株当り売上高

バクスター・インターナショナル(ティッカーシンボル:BAX)

バクスター・インターナショナルはバイオサイエンス(売上高の44%)と医療機器(56%)の二つの事業を展開しています。バイオサイエンス部門では血友病、免疫系疾患、感染症、腎臓病などの薬を製造しています。また同社の製品は腎臓透析センターやリハビリセンター、病院などで使われています。業績の見通しは極めて立てやすく、バランスシートは強固です。

バクスター・インターナショナルの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

ベクトン・ディッキンソン(ティッカーシンボル:BDX)

ベクトン・ディッキンソンは医療機器(売上高の53%)、診断装置(33%)、臨床研究向け(14%)の三つの事業から成っています。注射針、麻酔装置、透析装置、サンプル採取などいろいろな製品があり、売上は極めて安定しています。バランスシートも強固です。

ベクトン・ディッキンソンの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

コビディエン(ティッカーシンボル:COV)

コビディエンは医療機器(売上高の68%)、薬品(17%)、メディカル・サプライ(15%)などの事業部から成り、軟組織修復製品、酸素飽和度測定器、気道製品、血管製品など幅広い医療機器を提供しています。もともとタイコ・インターナショナルの一部門でしたが、1994年にスピンオフされた経緯があります。

コビディエンの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

メドトロニック(ティッカーシンボル:MDT)

メドトロニックは心臓・血管関連(売上高の52%)と回復治療関連(48%)の医療機器メーカーです。海外比率は45%です。時価総額ベースでは医療機器グループで最大の企業です。業績は極めて安定しており、財務内容はピカピカです。

メドトロニックの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

セント・ジュード・メディカル(ティッカーシンボル:STJ)

セント・ジュード・メディカルは心調律管理(売上高の52%)、心臓・血管関連(24%)、神経調整関連(8%)などの製品を販売しています。日進月歩で技術が進化する、高付加価値の分野で競争しているため、成長も高いですが、それだけリスクも他社よりは高いです。財務内容は申し分ありません。

セント・ジュード・メディカルの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)

ストライカー(ティッカーシンボル:SYK)

ストライカーは間接置換術関連(44%)、手術用機器(38%)、脳神経、脊椎関連(18%)の医療機器を作っています。業績は予想しやすく、バランスシートは強固です。「オバマケア」に関連して医療機器の消費税増税の悪影響を受けた企業のひとつです。

ストライカーの業績(ドル、2013年以降は予想、バリューライン)