楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は強含みの展開に

2013年7月1日の週の株式市場は、先週末の強い地合いを引き継ぎ強く始まりました。2日には日経平均は5月29日振りに終値で14,000円台に乗せました。各種メディアでは、7月21日の参議院選挙で自公圧勝が観測されています。当面は、参議院選挙での結果を予想しながら、それ強気に相場に織り込む展開、即ち、強い相場展開が予想されます。外部要因に新たな悪材料がなければ、選挙までに日経平均が15,000円台に乗せる可能性もあると思われます。

先週末から今週初めにかけて日経平均株価が高くなった背景は、概ね次のようなものと思われます。

デフレ脱却がはじまったか

まず、前週金曜日6月28日に公表された全国消費者物価指数と東京都区部消費者物価指数の前年比が、全国(生鮮食品を除く)は4月0.4%減、5月0.0%、東京都区部(生鮮食品を除く)は4月0.3%減、5月0.1%増、6月(中旬速報)0.2%増となり、全国では2012年10月以来、先行指標となる東京都区部では2009年4月以来のプラス転換となりました。表1を見ると、電気代、ガソリン代中心にエネルギー関連費用の増加が大きく影響していますが、全般的に前年比のマイナス幅が縮小するか、プラス転換する分野、品目が増え始めています。日本経済はデフレ脱却に向けて踏み出していると考えてよいと思われます。デフレ脱却はまず企業の売上高を増やす方向に働きます。いずれは原材料費、賃金なども上昇すると思われますが、コスト上昇は物価上昇に遅れる場合があるため、当面は物価上昇率のプラス転換は企業業績にプラスに働くと考えてよいと思われます。

もちろん、物価上昇率が前年比プラスに転換して、プラス幅が拡大していくと、自然な形であれば、金利は長期、短期ともに上昇します。物価上昇率が前年比1%以上になれば、長期金利は1~3%程度に上昇する可能性がありますが(実質金利を0~2%程度として)、長期金利が2%前後に上昇して下がる気配がない場合は、国債利払いが増えることを心配しなければなりません。ただし、長期金利が上昇しつつあるとはいえ(グラフ11)、今の金利水準では直ちに国債利払い費の増加を心配する必要はないため、目先は企業業績の改善期待が先行し、これが相場に対してプラス要因となると思われます。

表1:東京都区部の消費者物価指数細目(2010年=100):前年同月比%

チャートがいい形になってきた

前週末6月28日に消費者物価指数前年比のプラス転換を織り込む形で日経平均が上昇しましたが、その結果、それまで75日移動平均線を下回って推移していた日経平均は、75日線の上側にジャンプしました。そのため、中期線である75日線は上昇を続けています。日経平均は7月1日の週もじり高の展開となっているため、短期線である25日移動平均線も上向き始めました。6月27日に25日線が75日線を上から下に突き抜けるデッドクロスが示現しましたが、日経平均がじり高から本格的な上昇に転じる場合、25日線が75日線を下から上に突き抜けるゴールデンクロスが示現する可能性が、この1~2週間のうちにあると思われます。チャートの形は買い乗せを示唆しているように見受けられます。

日銀短観も良い結果が出た

7月1日に公表された日銀短観(6月調査)でも、大企業中心にいい結果が出ました。製造業のDI(「良い」と答えた会社の比率から「悪い」と答えた会社の比率を引いたもの)は「最近」で3月調査のマイナス8から6月調査のプラス4に改善しました。そして「先行き」はプラス10になりました。特に自動車の「最近」が3月調査のプラス10から6月調査のプラス16に改善しました。先行きはプラス14ですが、これは控えめな回答によるものでしょう。電機、機械なども自動車ほどではないにせよ、DIの改善が見られました。

非製造業でも「最近」のDIは、前回調査のプラス6からプラス12に改善しました。特に建設、不動産の改善が目立ちます。

日銀短観の結果は、私が本稿において書いてきたことを概ね裏付けるものです。引き続き、製造業では自動車、電機、機械などの輸出・グローバル関連、非製造業では不動産に焦点を当てたいと思います。

表2:日銀短観:業況判断

懸念材料は新興国と参議院選後

懸念材料がないわけではありません。中国を含む新興国の経済と株式市場の動きには、引き続き注意する必要があります。中国のシャドー・バンキング問題(正規の預金、融資以外に「理財商品」による高利の資金調達とリスクの大きな投融資を銀行が行っていること)、アメリカの金融緩和縮小により新興国からアメリカに資金が逆流する懸念のほかに、新興国に根強い政治問題にも注意したほうが良いと思われます。トルコ、ブラジルのデモに続き、エジプトでは軍部のクーデターが起こる事態となりました。

これらの騒動を外から見ていると、従来のような民主主義実現の政治的要求だけではない、新しい動きを感じます。ブラジルでは、ワールドカップの開催のために政府の金を使うよりも教育と福祉の向上が要求されました。多くの新興国では、安い税金と新しいインフラで海外企業を引き込み、多くの雇用を生み出してきました。その結果GDPは高い率で成長し続け、雇用も増えてきました。しかし、多くの新興国では所得の再配分機能がほとんどなく、社会福祉も貧弱であり、所得格差と富の偏在が拡大し続けています。法人税率、所得税率が低く、累進課税がないか不十分であるため、政府は意外に財源を持っていない場合も多いのです。国民の側も、給料の大半が手元に残るため、景気が良いときは消費生活を楽しむことができるのですが、インフレになったり、景気が減速したりすると、日々の生活や教育、医療に不安を覚えるようになるのでしょう。

もし、国民がこのような不安から免れたいのであれば、欧州や日本のような福祉国家を目指すしかありません。即ち、適正な法人税と所得税を取って財源を作り、それを公共投資や教育、医療、各種の社会福祉に回すという、西欧や日本のような民主国家、福祉国家の考え方を導入するしかないということです。このような転換が行われる場合は、新興国経済は最終的に今よりも安定した、よりよい状態になると思われますが、一時的に停滞したり混乱が起きたりする可能性があります。もしこの可能性があるとして、それに備えるには、新興国だけでなく、日本とアメリカ中心に先進国でも事業展開している企業を投資対象に選ぶべきと思われます。

参議院選挙後の日本の政治も懸念材料の一つです。自民党の公約の一つに「憲法改正」が入っていますので、自公完勝、特に自民党が単独過半数を獲得すれば、憲法改正が安倍政権の最優先課題となる可能性があります。いわゆる「アベノミクス」は他の閣僚や官僚に任せて、安倍首相自身は憲法改正にかかりきりになるという可能性がないわけではないと思われます。もしそうなれば、その時点でアベノミクスは実質的にお休みになるでしょう。

もちろん、自公完勝の場合、衆参のねじれ解消を背景に、安倍政権が経済政策に集中してこれを加速させる可能性もあります。これについては、選挙後の動きを見るしかないと思われます。また、選挙後は各党の獲得議席数の組み合わせ次第で、様々な政治状況が生まれることが考えられます。これについても、選挙の結果を見るしかありません。

このようなリスクがあるにせよ、というよりもあるからこそ、今の上昇波動を獲得したいという投資家の動きが強くなる可能性があります。楽天証券の信用取引評価損益率は一時期10%以上だったものが、相場の回復と信用残の整理によって急回復してきました。個人投資家は動きやすくなっていると思われます。

また、7月22日の週から2014年3月期1Qの決算発表が本格化します。自動車セクターは円安メリットと海外での好調な自動車販売が決算に現れると思われます。特に、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、日野自動車など車の売れ行きがよく(特にアメリカでよく)、新車が出る会社に注目したいと思います。また、自動車の生産台数が上方修正含みで推移しているため、デンソーのような大手自動車部品メーカーにも注目したいと思います。

電機を見ると、ソニー、パナソニックはリストラの成果が決算に現れると思われます。また、ソニーはスマートフォンの「エクスペリア」シリーズの売れ行きが世界的によいことが決算に反映されると思われますし、米ヘッジファンドの映画、音楽部門の上場要求にどう応えるかということも注目点です。電子部品では村田製作所のスマートフォン、タブレットPC向け、自動車向けの部品受注が高水準で推移している模様です。

不動産もオフィス賃料の値上げの浸透具合、再開発への取り組み、マンション、特に高額マンションの売れ行きが注目されます。三菱地所、三井不動産、住友不動産、平和不動産、東急不動産、トーセイなどに注目したいと思います。

7月5日(金)の日経平均株価は、前日比291.04円高の14,309.97円で引けました。参議院選挙までに一段高する展開になる可能性があります。

表3:楽天証券投資WEEKLY

グラフ3 日経平均株価:日足

グラフ4 日経平均株価:月足

グラフ5 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ6 ドル/円レート:日足

グラフ7 ユーロ/円レート:日足

マーケットスケジュール

2013年7月8日の週の日本での注目点は、8日公表の景気ウォッチャー調査、10~11日の日銀金融政策決定会合です。

アメリカの注目点は、12日公表の7月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報)です。

10~11日の日銀金融政策決定会合に注目したいと思います。「異次元」の金融緩和で新たな展開があるかどうかがポイントです。また、アメリカは5日の雇用統計次第で株価、為替、金利が動く可能性があります。5日金曜日の夜には要注目でしょう。