楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

週前半はアメリカ長期金利の上昇が響いたが、後半は日経平均は戻り歩調へ

2013年6月24日の週の株式市場は、週前半はアメリカ長期金利の上昇が響き、日経平均は一進一退の展開となりました。

グラフ10のように、アメリカ10年国債利回りは、5月上旬から上昇トレンドにありますが、6月19日のアメリカFOMC後のバーナンキ議長の、「経済が予想通り改善すれば、年後半から量的緩和政策のペースを落とすのが望ましい」という趣旨に発言によって更に上昇してきました。アメリカ長期金利の動きと、5月31日発表の5月中旬の東京都区部消費者物価指数において、その前年比(生鮮食品を除くベース)が0.1%増と、わずかですが前年比プラスとなったことで、将来の物価上昇と金利上昇が見え始め、日本の長期金利も少しずつ上昇してきました。その結果、日経平均は6月中旬から、下値を切り上げつつも、75日移動平均線の下で一進一退を続けてきました。

日本の株式市場には、昨年11月以降、多種多様な参加者が参入しており、日本経済や日本企業のファンダメンタルズに関して必ずしも十分な知識を持っていない投資主体も多くなっているようです。そうなると、チャート、それも教科書的なチャート分析を目安にする投資家が多くなっていると思われます。チャートの重要性が増していると思われるのです。

そこでチャートを見ると、日経平均は5月23日までの急騰の反動と長期金利の上昇等の要因で、5月24日から調整局面入りしています。6月上旬からは中期線である75日移動平均線を下回る状況が続いており、その後のバーナンキ発言により新興国からの米国資金の引き上げ懸念や、中国のシャドーバンキング問題(不良債権問題)などによるアジア株の下落の影響も受け、6月27日には25日移動平均線が75日移動平均線を上から下に突き抜けるデッドクロスを示現しました。

ただし、上述のように下値は切り上がっており、デッドクロス後の日経平均が上に行くのか下に行くのか注目されたのですが、FRB関係者の講演内容などによるとアメリカの金融緩和縮小についてはFRB内でも異論があるようで、15,000ドルを割り込んでいたNYダウは、アメリカの金融緩和縮小懸念の後退を受け、25、26、27日と続伸しました。これを受けて日経平均も上昇し、6月28日は25日線と75日線の上に飛び出す形となりました。当面の経済状況に大きな変動(悪い方向への)がなければ、日経平均は、反騰ないし戻り相場に至ると思われます。

バーナンキ発言を振り返ってみると、当面は経済指標を見ながら国債等の購入額をゆるゆると減らし始めようという程度のものであり、いきなり引き締めに至るというものではありません。株式市場では過剰反応した後の揺り戻しが起き始めていると思われます。

輸出・グローバル関連か内需・金融緩和関連か

反騰ないし戻り相場が到来するとなると、ある程度積極的に動くことを考えてもよい状況であろうと思われます。そこで直面するのは何を買うのかという問題です。自動車、電機などの輸出・グローバル関連か、不動産、金融などの内需・金融緩和関連のどちらかという問題ですが、実は経験則から言えるのは、両方ともとりあえず戻る可能性があるということです。選別が必要になるのは一定の戻り相場が実現した後になる可能性があります。

まず注目したいのは、為替が円安になっていること、日本とアメリカの景気が堅調であることに注目して、自動車、電機、精密、機械などの輸出・グローバル関連です。円安メリットが大きく、グローバル展開しているトヨタ自動車、本田技研工業の大手、富士重工業、マツダの中堅、日本の復興需要と再開発需要の恩恵と、新興国の物流需要増加に恩恵を受けている日野自動車、いすゞ自動車の商用車メーカー、日本メーカー、外国メーカー問わず自動車生産増加で恩恵を受けるデンソー、アイシン精機の大手自動車部品メーカーです。また、豊田通商はトヨタグループのグローバルな部品物流を担っており、中南米、アフリカなどの新興国での自動車販売網を持っていることが注目されます。昨年、アフリカに強いフランス商社のセファオの買収を決定しました。

電機では、ソニー、パナソニックなどの民生用電機メーカー(ソニーは円安ドル高でデメリットが発生しますが、円安ユーロ高でメリットが出ます)、村田製作所などの電子部品メーカー、小松製作所、三菱重工業、日揮などの機械・プラント関連などです。

特に、株価の動きを見ると、自動車セクターの株価が他の輸出・グローバル関連に先行して動意が見られます(グラフ7)。日経平均が戻る局面となると、自動車セクターに注目する動きが強くなる可能性があります。

一方の内需・金融緩和関連では、不動産セクターに注目したいと思います。東京の山手線周辺中心に首都圏で大型再開発が活発です。東京駅の丸の内、大手町、日本橋から東京証券取引所のある茅場町にかけての再開発を、三菱地所、三井不動産、住友不動産の大手3社と平和不動産などが手掛けています。渋谷では、東急渋谷駅の地上駅が地下に移設になったことで、東急電鉄、東急不動産による渋谷の大型再開発が始まります。また、品川駅から田町駅の間の広大な車両基地が近い将来不要になる見込みであり、いずれ所有者の東日本鉄道(JR東日本)が再開発計画を策定すると思われます。これを大手不動産会社、中堅不動産会社が注目している模様です。中型規模の再開発やマンション、オフィスビルのリノベーションでは、トーセイのような中堅不動産会社の動きも活発です。

また、金利の上昇局面で、かつ2014年からの消費税増税(2014年4月1日に5%→8%、2015年10月1日に8%→10%)が予定されているため、マンション、戸建てなどの住宅販売が活発になっています。再開発地域やマンションの人気地域での地価上昇も目立ってきました(例えば、東京駅周辺、武蔵小杉、品川など)。

一方で、不動産株は将来の地価上昇、賃料上昇を織り込む形で先行して上昇したため、三菱地所、三井不動産などの大手中心にPERが高いことが投資する上での難点です。ただし、株価の下落によってPER水準も低くなっており、一旦リバウンドの過程に入ってきたと思われます。

6月28日の日経平均は、前日比463.77円高の13,677.32円で終わりました。この間の調整で6月13日ザラ場安値12,445.38円まで下がりましたが、これは、5月23日ザラ場高値15,942.60円から22%下落した水準であり、2012年11月14日終値8,664.73円から5月23日ザラ場高値の半値押し12,303円に近い水準です。とりあえずは十分調整したと思われます。チャートを見ると、買い乗せを誘う形になり始めています。私は、どちらかと言えば、円安メリットが見込まれて、PER水準が安く、もともとの会社予想業績の変化率が高い自動車セクターに注目しています。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ4 ドル/円レート:日足

グラフ5 ユーロ/円レート:日足

表2:自動車、電機等の主要企業の為替感応度

セクター分析:自動車セクター

今回は、自動車セクターの分析を行います。

世界の自動車市場は順調に拡大中

世界の自動車市場は順調に拡大しています。アメリカがリーマンショック後の落ち込みから順調に回復しています。中国も堅調。日本は新車効果でエコカー補助金後の落ち込みが予想よりも軽くなっています。

また新興国の市場は、今後株価下落による逆資産効果の影響が考えられるものの、今のところは多くの国で順調な販売の伸びが見られます。中東、アフリカなどの地域の自動車販売の伸びも大きくなってきました。地域別に見ると、欧州がマイナス成長になっています。

この中で日本の自動車メーカー各社は、低燃費の小型車中心に販売を増やしています。アメリカでは、景気回復、シェールガス革命の影響でガソリン価格に先安感が出ており、中型車、大型車、ピックアップトラックが売れています。日本メーカーの小型車は伸びが鈍化していますが、円安メリットが出ているため、インセンティブ(販売奨励金)を積み増したり、値下げを行ったりして販売政策を柔軟に行っています。

アセアンでは、トヨタグループ中心に乗用車、商用車ともに、日本車のシェアが高い状況が続いています。インドネシアのような人口の多い大国では、消費主導の経済成長になる可能性もあるため、自動車販売の伸びが続く可能性があります。

今後のフロンティアは中東、アフリカ、中南米です。中東、アフリカでは日本メーカーではトヨタ自動車が先行しています。これに関連して豊田通商は、アフリカの旧フランス領での自動車販売に強いフランス商社のセファオを買収しました。今期から連結決算に反映されます。

また、新車も各社から活発に出る見込みです。今年特に注目されるのが、6月のアコードハイブリッド(ホンダ)、秋の新型フィットの世界展開(ホンダ)です。ホンダはこれにあわせて生産能力を増強中です。

技術革新は低燃費に加え自動危険回避装置、自動ブレーキ

日本車の技術革新の方向性を見ると、低燃費に加え、「安全」がキーワードになってきました。低燃費では、小型車でJC08燃費で30km/L以上走る車が多くなり、排気量2L以上の中型車でも、トヨタのクラウンハイブリッド、ホンダのアコードハイブリッドなど従来にないレベルの低燃費車が出てきました。クラウンハイブリッドは日本での月間販売ランキングで上位に入っています。

また、富士重工業の自動危険回避装置「アイサイト」が人気であり、インプレッサ、フォレスターなどの人気の要因の一つになっています。

自動危険回避装置を一歩進めた「自動ブレーキ」は2014年から欧州と日本で国の安全評価基準に採用されることになっており、各社でこの分野の開発が活発になっています。

業績は順調に拡大中

自動車各社の業績は順調に拡大中です。これは、過去数年にわたって、日本、アメリカ、アセアンの各地域で売れる車造りに注力してきたこと、1ドル=80円を超える円高でも利益が出るような徹底的なコストダウンを生産の海外展開とともに注力してきたこと、その後に円安になったことによります。2014/3期の各社の想定レートは概ね控えめであり、トヨタ、富士重工業、マツダのように、売れ行きが順調ながら年度販売台数を控えめに見積もっている会社もあるため、今期会社予想業績は上乗せの期待が持てます(表2、表7)。

特に注目したい銘柄は、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソー、豊田通商です。

表4:日本:メーカー別新車登録台数

日本:軽四輪車総台数

表5:日本車のアメリカでの販売動向

表6:日本車の燃費

表7:自動車各社の2014年3月期会社予想

マーケットスケジュール

2013年7月1日の週の日本での注目点は、1日公表の日銀短観、2日公表の6月のマネタリーベースです。

アメリカの注目点は、2日公表の5月の製造業新規受注、4日公表の6月のADP雇用統計、5日公表の6月の雇用統計です。

また、欧州では4日に欧州中央銀行(ECB)政策金利が発表されます。

1日の日銀短観と、5日の雇用統計に注目したいと思います。今後の日米金融政策を考える上で重要な統計です。株式市場と為替市場へ影響する可能性もあります。

なお、1日は香港、カナダが休場、4日は独立記念日でアメリカが休場になります。