楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
4月15日の週は軽い調整
2013年4月15日の週の株式市場は、軽い調整の週でした。
アメリカ財務省が公表した為替に関する報告書の中に、日本の円安政策を牽制する表現があったため、これを嫌気して日経平均は15日に前週末比209.48円安と大幅安しました。その後は一進一退を繰り返しています。G20がワシントンで18日午後(アメリカ時間、日本時間では19日早朝)開幕しましたが、今のところ日本の円安に対して目立った批判は出ていない模様です。15日に為替レートが対ドル、対ユーロともに円高に振れたために、株価の調整の原因の一つとなりましたが、その後は円安方向に戻しています。
G20の結果を注視する必要はありますが、G20で目立った円安批判がなければ、その後は為替レートに関する重要イベントは当面なくなります。22日からの週は押し目買いから一段高をうかがう方向に向かう可能性があります。日銀の大幅金融緩和とそれに伴う円安という、今回の大相場の根本要因には変化はないと思われます。
為替レートについて更に見ていくと、アメリカは「シェールガス革命」による資源ブームなどで景気がよくなっているため、大幅金融緩和の出口を探る段階に入っており、実質金利は上昇傾向に入っていますが、日本は大幅金融緩和が始まったばかりであり、実質金利はこれから下がる方向に行くわけですから、ここから考えるとドル高円安の傾向は変わらないと思われます。
また、アメリカはいわゆる「シェール革命」で化学工業の原料や電気代が安くなっており、ファンダメンタルズは強化される方向にあります。一方で日本は、円安で原材料価格が上昇しており、電気代も値上げになっているため、円安で業績改善が見込まれる輸出企業、グローバル企業を除くとファンダメンタルズがアメリカよりも弱い状態になっていると思われます。輸入物価の上昇が食品価格や日用品価格の上昇に結びつき始めていますので、一般国民の生活も苦しくなり始めていると考えてよいと思われます。高額消費は株で儲かった層、金銭的資産的に余裕のある層や、円安に惹かれて日本にやってきた外国人(例えば中国人、インド人、タイ人など)によるものが大きいと思われます。ここから考えてもドル高円安の傾向は趨勢的には変わらないと思われます。
円安関連と不動産関連の一段高も
G20が日本にとって何事もなく終了すれば、物色対象はまず為替レートが円安に触れていることから、自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、デンソー、日野自動車など)、機械・造船・プラント(小松製作所、三菱重工業、IHI、川崎重工業、日揮、千代田化工建設など)、電機(ソニー、シャープ、パナソニック、村田製作所、京セラ、日東電工など)の各セクター、銘柄と思われます。
このうち、ソニー、シャープ、パナソニックの民生用電機3社は、ファンダメンタルズの回復にはまだ疑問があるものの、決算の改善を期待して決算発表前に買う動きが出るかもしれません。村田製作所などの電子部品会社は、アップルの減速が気になりますが、これも円安メリットに期待した短期的な動きも含めての物色の動きがでる可能性があります。自動車は好業績が持続しており、造船、プラントもLNG関連ビジネスの商談が活発なので、決算発表を睨みながら新年度の業績に期待した買いが入る可能性があります。
また、決算に期待する動きとしては、三菱地所、三井不動産、住友不動産、長谷工、大京、大和ハウス工業などの、不動産、マンション、住宅関連が注目されます。大幅金融緩和が長期化する場合は、地価の上昇、住宅需要の増加が引き起こされると思われます。既に1億円以上の高額マンションの需要が増加していることが報道されています。東京では大小の古いビルを地上げして取り壊して再開発する動きが活発になり始めており、東京駅周辺などはこの影響で地価が上昇し始めています。決算の数字もさることながら、不動産、マンション住宅の各社が、このような市場環境をどう見ているかが注目されます。
株高と日本経済の先行きは別に考えたほうが良い
今回の日銀の大幅金融緩和が日本経済にとって良いのか悪いのは議論が分かれています。大幅金融緩和に伴って物価上昇率が2%以上に上昇したときに、名目金利は今よりも高い3~4%が適正と思われます。物価上昇率が2~3%以上になると、名目金利は3~6%以上になるかもしれません。もし名目金利が5~6%以上になると、年間約170兆円の国債を発行している日本の財政は利払い負担は、今よりもかなり重くなります。もしその時に、株高、地価高などで税収が十分増えていなければ、日本の財政は危機に陥るでしょう。この点を安倍首相や黒田総裁がどう考えているのか定かではありません。いわゆるリフレ派の人たちは、大幅金融緩和をやれば、物価が上がって税収は自然に増えると、かなり単純に考えているようですが、実際にそうなるかどうかはわかりません。
ただし、日本財政が危機に陥るリスクが十分高い確率であるとしても、実質金利が下がって円安になる以上、株高は続くと思われます。足元のような低金利の下では、財政の一層の拡大と国債発行残高のさらなる増加の可能性さえあります。これも株価の材料になると思われます。
一方で、日本財政が危機に陥るという見通しが広まれば、あるいは、日銀が行っている債券市場からの国債の大量買い付けが、政府財政を日銀が負担する、いわゆる財政ファイナンスであるという見方が一般的になれば、歯止めのない円安になる可能性は否定できないと思われます。その場合、輸入物価上昇が一層原材料高、食品高に結びつき、多くの中小企業の経営と、国民の多くの生活が苦しくなる事態は避けられないと思われます。円安で物価が上昇するので、株価は上がると思われますが、この株高と日本経済の先行き、国民経済の中味がどうなるかという問題は、別の問題と考えておいたほうが良いと思われるのです。
要するに、今回の株高の構図は、日本経済全体がよくなると予想されるから株価が上昇するという構図ではなく、日銀や政府が人為的に作り出した構図であるということです。この構図が続く限り、株高は続くと思われます。中長期的には、行き着くところまで行く可能性もあると思われます。
なお、仮に安倍内閣が日銀の金融政策の妥当性に疑問を持ったとしても、現行の法律、制度の下では、黒田総裁を止めることができる存在はいません。安倍首相が白川前総裁をコントロールできなかったのと同じです。株高が続くであろうという筆者の見通しの中には、このことも下敷きとしてあります。
表1:楽天証券投資WEEKLY
グラフ1 日経平均株価:日足
グラフ2 日経平均株価:月足
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ4 ドル/円レート:日足
グラフ5 ユーロ/円レート:日足
マーケットスケジュール
2013年4月22日の週の日本での注目点は、26日公表の3月の全国消費者物価指数です。中味を注意してみたいものです。
アメリカは、22日に3月の中古中宅販売件数、23日に3月の新築住宅販売件数、24日に3月の耐久財受注、26日に2013年度第1四半期GDP(速報)が各々公表されます。注目度の高い週になりそうです。統計数値次第では株価と為替が動く可能性があります。
特集:2013年3月期決算発表スケジュール
4月22日の週から2013年3月期決算発表が始まります。今回は、22日の週の注目決算を解説します(以下断らない限り決算期は2013年3月期)。
まず、4月23日に日本電産があります。2013年3月期3Q決算で大幅下方修正を発表し、リストラに入っていましたが、成果がどの程度なのかが注目されます。パソコンへのSSDの普及は必ずしも進んでいませんが、タブレットPCはSSDが標準搭載されているものが多いため、HDDの需要縮小傾向は変わっていないと思われます。決算が注目されます。
24日は、キヤノン(2013年12月期1Q)と任天堂があります。キヤノンは円安メリットがその程度だったのか、今後どのように出てくるのかがわかってくると思われます。任天堂も円安メリットはありますが、それよりも、Wii Uのハード、ソフト、3DSのハードとソフトが売れているのかが焦点です。
25日は、小松製作所、川崎重工業、日野自動車、ダイハツ工業、京セラ、ファナックなどがあります。小松製作所は、中国市場の見方と中国以外の伸びがどのように2014年3月期業績に関わってくるかが焦点です。川崎重工業は、LNGタンカー、LNGタンクなどLNG関連事業の商談、受注状況を確認したいと思います。日野自動車、ダイハツ工業は2014年3月期の見方、京セラ、ファナックもスマホ向け中心に2014年3月期の見方が焦点です。
26日は、デンソー、アイシン精機、三菱重工業、三井造船、本田技研工業、野村ホールディングスなどがあります。デンソー、アイシン精機はトヨタグループ部品会社のTier 1企業です。業績見通しが注目されます。三菱重工業、三井造船は、LNGプラント、タンカーなどLNG関連事業の商談が注目されます。本田技研工業は、円安メリットと2014年3月期業績見通しが注目されます。野村ホールディングスは、株高による業績変化を確認したいと思います。
4月22日の週で、自動車、自動車部品、電子部品、造船・プラント、建機などの主要企業の決算が確認できます。株価が動く場合も多いと思われます。
表2:主要企業の2013年3月期決算発表予定日