楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日米首脳会談に注目したい

2013年2月18日の週の株式市場は、高値持ち合いの状態で推移しました。日経平均株価は2月15日に一時11,000トビ台に下落しましたが、18日の週になると急速に戻しました。20日にはザラ場で11,510.52円となり、2008年10月ぶりに11,500円台を付けました。ただし、その後は一進一退となっています。22日は前日比76.81円高の11,385.94円で引けました。

日経平均が高値持ち合いの状態にある理由の一つは円高です。為替レートが対ドル、対ユーロともにやや円高になっていますが、先のG20で日本政府は通貨安政策を採らない旨を諸外国に対して言明したため、閣僚やそれに準ずる立場の人たちが為替レートに言及することがはばかられるようになりました。また、対ドルに対しては、FRBの量的緩和第3弾(QE3)が早期に変更されるという見方がでています。加えて、23日の日米首脳会談を控えて、TPP参加問題やアメリカの自動車産業の円安批判を考慮すると、当面はドル高円安に向かいにくくなっていると思われます。

また、対ユーロに関しては、24、25日のイタリア総選挙の結果に対する不安が台頭しており、更に、スペイン経済に対する不安もあることから、ユーロ安懸念が発生しています。

もっとも、日本の個人金融資産約1,500兆円の中で外貨建て比率は数%であり、円の需給は構造的に円安方向であると思われます。急速な円高が起こる可能性は少なく、逆に中長期的には緩やかな円安の可能性のほうが大きいと思われます。

当面は、23日の日米首脳会談の結果に注目する必要があります。国内に根強い反対勢力が存在するため、日本がTPPに無条件で参加することはないと思われますが、参加しない選択肢は輸出産業にとって厳しいものとなる上、日米関係の安全保障面に亀裂が入るリスクがあります。貿易面での不利益を被らないことだけでなく、中国との紛争をも考えると、TPP参加は日本にとって必須ですが、どうなるか注視する必要があります。

中長期的には緩やかな円安か

足元で起こっている軽い円高に伴い、輸出株が調整しています。ただし、自動車、商社など円安メリット株の代表セクターは、今後もポートフォリオのコアであり続けると思われます。

足元で食品、外食、美容理容など各種個人向けサービスなど、輸入食材、輸入原材料を扱う分野において、卸売りだけでなく小売りで値上げの動きがあります。昨年11月から今年2月までに円ドルレートは19%円安になっていますが、これによる損失を取り戻すために、20%以上の値上げを打ち出す卸売業者、小売業者がでています。特に卸売り業者の値上げでは、過去値上げできなかった分を含めて「値戻し」を一気に行う動きもあります。企業向けでも、輸入資材の値上げが起こり始めています。

一方で、小売業者は消費者離れを懸念して、価格転嫁に臆病にならざるを得ませんので、現在は値上げをしないか、小幅値上げにとどまる小売業者も多いようです。しかし、7月に電気料金が家庭向けで10%以上値上げされると思われます。そこで、商品、サービスにもよりますが、今年の夏までに、10%以上値上げされそうな商品、サービスが増える可能性があります。

もしそうなれば、足元でマイナスの物価上昇率が、早ければ今年夏にも前年比ゼロ%以上になる可能性があります。1ドル=90円台前半の円安が続けば、意外に早く日本経済はデフレから脱却する可能性があるのです。アベノミクスは円安によって株価を引き上げ、物価下落の動きをとりあえず止めるという、一定の成果を収めつつあります。しかし、あまりにも急ぎすぎたために、この物価上昇は経済のあちこちに歪を生じさせ始めています。

もし物価上昇率が1~2%を超えて上昇する場合には、それに連れて現在1%未満の長期金利が1~2%以上に上昇する可能性があります。この長期金利上昇は利払い費の増加を通じて財政を圧迫し、利回り上昇=国債価格下落は株価下落要因となります。この結果、更に円安になる可能性もあります。本来なら過度な物価上昇を抑えるために、金融政策を緩和から引き締めに転換する必要がある場合でも、日本のような重債務国ではそれがしにくいため、実質金利が大きくマイナスになり、バブルが発生する可能性があります。しかし、この動きが起こっても、いずれバブル崩壊と経済の危機に結びつく可能性があります。

円安でメリットを受ける輸出企業は日本企業の中でほんの一部ですが、輸入物価上昇によるデメリットが発生する範囲は、食品、各種資材とエネルギー価格などの上昇を通じて、企業の大多数と一般大衆の広い範囲にわたることに注意する必要があります。問題解決には、企業の売上高を増やし、個人の所得を増やす必要がありますが、円安が足元で問題になっている企業が多いため、急な実現性は不透明です。

中長期的な円安の可能性とセクターと企業の成長性を考慮すると、足元で調整中の輸出株、特に、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、デンソーなどの自動車株、グローバル展開している総合商社株(三菱商事、三井物産、丸紅など)などはポートフォリオのコアと言えると思われます。逆に、内需系企業、例えば建設などは、輸入物価上昇のデメリットを受け始めていることに注意したいと思います。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

2013年2月25日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では、25日に1月の企業向けサービス価格指数(速報)が公表されます。27日は1月の大型小売店販売額(速報)、28日は、1月の鉱工業生産指数(速報)が公表されます。

アメリカでは、26日に1月の新築住宅販売件数が公表されます。27日は1月の耐久財受注が公表されます。28日は2012年4Q(10-12月期)GDP改定値が公表されます。

1月の日本の鉱工業生産指数と、アメリカの耐久財受注に注目したいと思います。数字次第では、円安、円高どちらにも振れる可能性があります。