楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

謹賀新年

明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。

マーケットコメント

2012年12月25日の週の株式市場は、まさに「掉尾の一振」というべき展開でした。21日に一時1万円台を割った日経平均は、円安と26日の第二次安倍内閣成立を受け、25日から再び1万円台に乗せ、28日大納会は前日比72.20円高の10,395.18円で2012年を終えました。

2013年1月の株式市場を展望すると、11月中旬からの上げ相場で既に約24%の上昇を見せています。楽天証券の信用取引評価損益率は12月20日と27日に小幅ながらプラスになっており、経験則から考えると、程度はともあれ、調整に入ったとしてもおかしくない状況です。4日は活況で、日経平均は引け前で300円近く上げています。来週の相場が注目されます。

一方で、アメリカでは暫定的合意の色彩が強いとは言え、いわゆる「財政の崖」を回避する共和党、民主党間の交渉が妥結しました。これを受けて、NYダウは急騰しており、12月31日13,000ドル台で2012年を終えた後、1月2日に13,412.55ドル、31日比308.41ドル高で新年をスタートしました。3日は反落したものの、13,000ドル台を維持しています。為替レートも反応しており、円ドルレートは1ドル=87円台、円ユーロレートは一時1ユーロ=115円台に乗せ、現在も114円台で推移しています。この為替レートが続けば、2013年3月期の業績見通し上方修正と、2014年3月期の業績好調が見込まれる輸出企業が沢山あります。

このように、新年の相場を展望すると、経験則からは調整入りの可能性があるものの、アメリカと為替は日本株を更に上昇させる要因となっています。流れにつく相場、押したら買いの相場と思われます。

参考銘柄として、以下のような銘柄群を挙げておきます。

円安メリットの大きい自動車関連 トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、デンソーなど
グローバル企業の筆頭ともいうべき総合商社。中でもLNGと食料に関連した会社 三菱商事、三井物産、丸紅など
金融緩和継続で事業拡大が見込まれる大手金融 三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングスなど
大幅金融緩和と株価上昇が地価上昇に結び付くことを期待して、また、東京等大都市圏で活発化する再開発関連として大手不動産 三菱地所、三井不動産など
自民党政権で予想される規制緩和によって貸出枠緩和が期待され、また、金融緩和継続で資金調達コスト低下が見込まれる消費者金融、信販会社 アイフル、オリコなど
復興関連、防災、土木インフラの改修関連で、建設、建機、トラック業界の各社 大林組、大成建設、NIPPO、ライト工業、小松製作所、日野自動車、いすゞ自動車など
まだ不確実性は高いが再建に期待がかかる民生用電機 ソニー、パナソニックなど

一方で、リスク要因もあります。

まず今年度補正予算と来年度予算の財源です。いずれも景気対策のための大型予算となることが予想されますが、そのことが国債の需給を弱める可能性もあります。金利の変動は株式市場の変動を通じて地価と景気に結びつく可能性がありますので、国債市場が補正と来年度予算にどう反応するか、注意が必要です。

次に原発です。安倍首相は原発の再稼働のみならず、新増設にまで言及していますが、復興も終わらず原発事故の総括も終わっていない現状では時期尚早の発言というべきでしょう。自民党政権は一部メディアを通じて原発を再稼働しないと電力不足が起こると盛んに伝えているようですが、本稿でかねてより指摘のとおり、電力不足は老朽火力発電所の更新で解決できます。ガス火力であれば電力代は大きくは上がらないと思われます。

そもそも、設備の競争入札を行えば、軽く20%以上は設備コストが節約できますから、政府が言う電源別発電コスト(原発の発電コストが最も安いことになっています)は当てになりません。CO2が気になるならば、補助金を出して吸着装置をつければよいのです。このあたりは、技術革新の問題でしょう。老朽火力発電所の更新は、日立、東芝、三菱重工業などだけでなく、総合商社にとって大きなビジネスになります。

逆に、今の包括原価方式では、コストが高ければ高いほど電力会社にとってメリットが大きいため、政府が原発新増設の可能性に言及した途端に、電力会社は老朽火力発電所の更新をやらなくなるかもしれません。原発再稼働も新増設も簡単に進む話ではありませんので、政府の原発対応によって、逆に代替電源の開発が遅れ電力不足が深刻化する可能性もあります。このあたりのリスクは今後気をつける必要がありそうです。

もう一つの問題は、円安の問題です。円安は輸入物価を引き上げますから、これまで円高で輸入コストが低い状態で利益が出ていた業界、会社にとってはネガティブな問題です。円安によって、いずれ国内景気が良くなって輸入物価の上昇を無理なく吸収できるようになると思われますが、そうなるまでにはタイムラグがあります。

また、電力、ガス、小売りなど輸入が多いセクターだけでなく、例えば、長らく続いた円高に対応して、ドル仕入とドル売上を対応させた会社、あるいは、ドル仕入のほうを多くした会社、例えばソニーや任天堂などは、少なくとも営業利益に対しては円安メリットが出にくくなっている可能性があります。この問題は、1月下旬から始まる3Q決算で明らかになるでしょう。

最後に中国との問題です。中国国籍の船舶と航空機による領海侵犯が続いています。中国政府内の、あるいは軍部の一部は日本に対して本気で武力紛争ないし戦争を仕掛けてきている可能性があります。中国比率が高い会社に対しては引き続き注意が必要です。

もっとも、このようなリスク要因はあっても、当面はそれを乗り越えて相場の基調は強いと思われます。引き続き銘柄を探して買いたい相場であると思われます。

表1:マーケット指標

グラフ2 日経平均株価:月次

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

2013年1月7日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では、7日に日銀から12月のマネタリーベースが公表されます。金融緩和の程度が分かります。10日には、11月の景気動向指数(速報)が、11日には、12月の景気ウォッチャー調査と11月の国際収支が公表されます。

海外では、8日にユーロ圏失業率が公表されます。10日には、イングランド銀行と欧州中央銀行の政策金利が公表されます。11日には、アメリカの11月の貿易収支、1月のミシガン大学消費者信頼感指数速報値が発表されます。

特に、12月の景気ウォッチャー調査が注目されます。

特集:音楽業界

お正月ですので、新年最初の特集では音楽業界に焦点を当ててみたいと思います。

1.増加に転じた日本のレコード生産

長らく減少が続いた日本のレコード生産が2012年に増加に転じる見込みです。邦楽では、AKB48、Mr.Children、JUJUなど、K-POPでは少女時代のアルバムがミリオンセラーになったこと、K-POP、ビジュアル系、美少女系などの各分野で、アーティストがファンミーティングなどで充実したファンとの交流を行ったことが、ライブ売上高だけでなくアルバム売上高の増加につながったことなどが挙げられます。この増加が持続的かどうか不透明な面はありますが、ライブとレコードを合わせた音楽売上高全体が増加傾向になったには確かではないかと思われます。

表2 音楽ソフトの生産動向

表3 コンサート・ライブ年間売上高

2.質への回帰と適正価格の模索

ゲーム、音楽、映画などのエンタテインメント業界には、重要な変化が起きています。

まず、質への回帰と適正価格の模索が始まっているということです。先週お伝えした任天堂の3DS用「とびだせ どうぶつの森」が好調です。12月17~23日に37万本売れましたが、依然として品不足が続いています。4千円台で長く楽しく遊べる「どうぶつの森」のような優良ゲームに需要が集中しているのです。日本型ソーシャルゲームの世界でも、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」のように、比較的お金をかけなくても面白く遊べるゲームが登場し、人気になっています。また、音楽、映画、舞台では、日本型ソーシャルゲームのように、極端な価格はもともとありません。例えば、舞台鑑賞では、S席が概ね1万円前後、グッズ合わせて1万数千円で楽しめるような価格設定になっています。質が高いこと、ユーザーが繰り返し楽しめる適正価格であること、ファンサービスが良いことが、音楽、映画や舞台が長く続くエンタテインメントになっている理由だと思われます。

3.定額制配信の普及が始まる

次に、システムの変更が起き始めていることです。音楽、映画配信の分野で1曲づつ購入してダウンロードするiTunesに対して、月間定額制で多くの曲を視聴できる「スポッティファイ」(音楽配信、イギリス、日本では事業展開していない)や「ネットフリックス」(映像配信、アメリカ、同)、「Music Unlimited」(音楽配信、ソニー、日本を含む世界展開)が登場しており、ユーザーを増やしています。日本では、エイベックス・グループ・ホールディングスがNTTドコモ向けに2009年から携帯電話向け放送局「BeeTV」を開局して、月額315円で専用ドラマ、音楽番組、アニメなどを見放題で提供しています。これに加えて2011年11月から「VIDEO ストア」を月額525円で配信開始しました。ドラマ、映画、音楽、アニメ、BeeTV専用ドラマなどが見放題となっています。また、ソフトバンク向けに同種のサービスで「UULA」(ウーラ、月額490円)を近々開始する予定です。会員数は2012年9月末現在で、BeeTV 148.3万人、VIDEO ストア 275.2万人と大きな数字になっており、エイベックスの重要な収益源になりました。

4.リアルへの回帰

最後にバーチャルからリアルへの回帰です。音楽ライブが大ホール、中堅ホールともに活況です。エイベックスが昨年企画した「東方神起」「スーパージュニア」などK-POPの日本公演はいずれも大成功しています。アミューズでは、昨年少し休養していた「福山雅治」が今年からライブ活動を本格化する可能性があります。2012年3月期は「福山雅治」の全国ツアーが約70万人動員し、アミューズの好業績に結びつきました(2013年3月期見込みは約20万人の動員)。

音楽だけでなく、舞台、歌舞伎などのファンも増えています。アミューズが昨年3~5月に公演した「海盗セブン」は、大地真央、寺脇康文、岸谷五郎などの一流どころに、若手トップクラスの三浦春馬を組み合わせ、大ヒットしました。会社想定の約8万人を大きく上回る約12万人を動員しました。また、佐藤健、石原さとみを起用した「ROMEO AND JULIET」が6万人を動員しました。「佐藤健」「三浦春馬」といったアミューズの若手二枚看板はドラマ、映画、CMなどで忙しいようなので、舞台がいつかは不明ですが、来期に向けて何らかの企画がある可能性はあります。

5.割安感だけでなく株主優待も魅力

アミューズ、エイベックスなどのエンタテインメント会社は、人気商売なだけに中長期的な業績見通しが描きにくいため、PERが割安である場合が多いです。現在のPERは、アミューズが7倍台、エイベックスが約11倍です。一方で、事業展開が難しい業界なので上場企業は多くはありません。アミューズ、エイベックスともに大物、ベテランから有望な若手まで豊富なアーティスト群を抱えており、事業基盤は厚いと言えます。今後の事業展開を考えると、両社共に株価には割安感があると思われます。

また、このようなエンタテインメント会社の魅力の一つは、株主優待です。エイベックスは、同社のアーティストが勢揃いするライブ「a-nation」の株主向けチケット優先予約制度が大変人気です。アミューズの株主優待では、イベント、演劇、映画などへの抽選招待があります。何が当たるかはわかりませんが、著名アーティスト出演の演劇などを期待して株主になる人は少なからずいるようです。

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