楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
12月25日の週の日経平均株価は、先週に続き続伸しました。26日に第二次安倍内閣が発足したことを受け、為替レートが円ドルで1ドル=85円台、円ユーロで1ユーロ=113円台に入りました。株式市場では、自動車、電機などの輸出企業、総合商社、大手不動産、大手証券などが買われ、日経平均は27日終値で前回の今年の高値3月27日ザラ場高値10,255.15円を更新し、10,322.98円となりました。
大納会28日の前場も勢いは止まらず、為替レートは対ドルが86円台、対ユーロが114円台、日経平均は一時10,400円台に入りました。まさに掉尾の一振となりました。
銘柄を見ると、円安メリットの大きい大手自動車株、なかでもトヨタ自動車が上値追いの展開となっており、28日前場に、ザラ場で当面の節目となる4,000円台に入りました。トヨタを追って本田技研工業やデンソーも同じく上値を追っています。また、年末商戦でスマートフォン、タブレットPCがよく売れたことから、村田製作所、京セラなど電子部品株も上げています。
鉄鉱石価格がやや戻してきたこと、中国経済に明るさが見え始めたことから、鉱山機械大手である小松製作所や三菱商事、丸紅などの総合商社株も同様の展開です。
大幅な金融緩和が続くという見通しから、三菱地所、三井不動産も買われました。また、安倍政権で、これまで厳格化されてきた消費者金融の貸出枠が緩和されるのではという期待から、アイフル、オリコなど、消費者金融会社や信販会社が大幅高しています。
株価が急騰していた三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループなどの大手金融株もしっかりした動きです。
一方で、これも急騰してきた建設株は、割安感が薄れてきたこと、公共投資を増やす段になると、早々に財源問題が浮上すると思われることから、株価は一服となっています。
また、ガンホー・オンライン・エンターテイメントやNTTドコモから安価で面白いソーシャルゲームが配信され始めたことから、ディー・エヌ・エー、グリーなどのソーシャルゲーム関連の株価が伸び悩んでいます。
このように、全てのセクターが買われると言うわけではなく、強弱がついた相場ではありますが、相場の基調には強いものがあります。円安が続いていること、人事を含む様々な要因で、日銀が大幅金融緩和をせざるを得ない立場に追い込まれていることが、大きな支援材料です。引き続き銘柄を探して買いたい相場であると思われます。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
2013年1月2~4日のマーケットスケジュールを概観します。日本は1月4日が大発会で役所の仕事始めなので、統計の発表はありません。アメリカは2日からNY市場が開場します。
アメリカでは、1月2日に、12月のISM製造業景況指数が発表されます。3日には、12月のADP雇用統計が公表され、11月11、12日開催のFOMC議事録が公開されます。
4日には、12月のISM非製造業景況指数、11月の雇用統計、11月の製造業新規受注が公表されます。アメリカの年末景気が分かります。
特集:新年の株価を考える2
1.新年の日経平均は12,000円を目指すか
先週に引き続き、来年の相場を展望したいと思います。来年も、少なくとも来年度予算が成立する春から参議院選挙がある夏にかけてまでは、強い相場が続くと思われます。日経平均は当面は12,000円、勢いがつけば、12,000~14,000円のレンジも可能と思われます。
第二次安倍内閣の閣僚を見ると、首相経験者を含むベテラン揃いであることが、当面は買い手を安心させると思われます。内閣発足時に首相から強い経済を作ることが優先事項であるとのコメントがあったことも、買い材料になっていると思われます。
即ち、建設国債の増発等で公共投資を増やしても国債価格下落、金利上昇が起こらず、低金利が継続すること、物価上昇率が1%以上になり、持続的な株価上昇が既に大都市圏で上昇に転じつつある地価上昇を後押しし、株高、土地高が企業や個人の投資意欲、消費意欲を刺激する「資産効果」が本格的に現われ始め、これが銀行融資の増加につながることなど、日本経済復活に向けた前向きなトレンドが見えてくる必要があると思われます。
2.安倍政権、自民党政権で注意しなければならないこと
安倍政権には気をつけておかなければならない問題もあります。来夏の参院選までは経済優先でも、参院選に勝利した後、自民党政権が経済優先を止め、原発、憲法改正、自衛隊の国防軍への改組など様々な問題に取り組むのではないかという懸念は消えません。TPPをどうするのかという問題も火種となりそうです。
円安、株高がこのまま続くと、地価が上昇し、銀行融資も増え、日本経済にお金が回り始めるでしょう。あるいは、1ドル=85~90円以上の円安になれば、海外に移転するはずの工場が日本で能力増強したり、一度海外に出た工場が日本に戻ってくることも考えられます。そうなると景気は回復軌道に乗り、日本経済再成長の道筋も見えてくると思われますが、参院選までにそれが十分達成されるわけではないと思われます。今回の経済政策で難しいのは、巨額の財政赤字を抱え、それを国債発行でファイナンスしなければ公共投資が出来ない日本に対して、日本国債売りを仕掛けようとしている勢力が少なからずいるということです。
安倍政権の目論みは、日銀にJ-RIETなど各種金融資産の購入を含む大幅金融緩和を継続させ、円安を持続させ、現在ゼロからマイナス圏内にある消費者物価上昇率をプラス2%まで上昇させることです。10年国債の利回りは現在1%未満ですので、物価上昇率(消費者物価指数の前年比)が1~2%になると、日本の実質金利はマイナス金利になります。こうなると預金にはコストがかかるため、預金を投資や消費に回すようにする個人や企業が多くなると思われます。
ちなみに、現在のアメリカは10年物国債利回りが1.7%前後に対して消費者物価指数前年比も1.7%前後なので、実質金利はゼロ近辺です。アメリカ景気が回復に向かっており、株価も堅調なのは、実質金利をゼロ以下にしたなりふり構わぬ金融政策によるところが大きいと思われます。
ただし、日本で実質金利がゼロにしても、それをしばらく継続しなければ(おそらく1年以上継続しなければ)、景気が上向いて、再成長の軌道に乗ることは難しいのではないでしょうか。また、景気が回復しかけた時に長期金利が上昇してしまうと、日本国債を大量に保有している日本の銀行や生損保に損失が生じてしまいます。従って、そうならないように、政府と日銀は難しいオペレーションを行わなければなりません。
そのような状況の時に、原発再稼働や憲法改正など反対意見が多い政策に手をつけると、多くのことが滞ってしまいかねません。今回の衆議院選挙で自民党は得票率トップではありましたが、小選挙区制の特性から、概ね4割の得票率で8割の議席を獲得したということを念頭に置いておく必要があります。
もし、安倍政権が参議院選挙後も経済一本で行って、日本経済の再生に成功するならば、安倍首相は歴史に名を残すことができるでしょう。そうなるかどうか、今後の政策を注視したいと思います。
3.自動車、総合商社、機械・プラントに注目したい
セクターを見ると、円安が続いているため、輸出産業の業績には、今期(2013年3月期)予想業績の上方修正と来期(2014年3月期)の業績続伸の期待がでています。特に自動車セクターがそうであり、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、デンソーなど、今期の業績変化率が高く、為替感応度の高い銘柄に注目したいと思います。
ちなみに表2は、今期の会社予想営業利益と、足元の円安が来期も続いたと仮定したときの営業利益の増加幅を比較したものですが、輸出企業にとっての円安の威力の大きさがわかります。今の円安はトヨタの営業利益を約30%押し上げる威力があります。富士重工業は為替要因だけで約60%営業利益が増えることになります。
電機では、ソニーが対ユーロ円安メリットで約60%営業利益が増えることになります。パナソニックも対ユーロ円安のメリットが大きくなります。欧州景気が復調したとは言えないため、ソニー、パナシニックに関するこの結果は割り引いて考える必要がありますが、電機セクター各社の業績に円安がプラスに働くことには疑いがありません。村田製作所は後述のように世界のスマートフォンが変調するかもしれないリスクがありますが、円安である程度吸収できる可能性があります。
また、中国経済に回復の兆しが見えてきたことで鉄鉱石市況がやや持ち直しています。エネルギーの分野では、自民党政権が原発再稼働に動こうとしても、それは容易なことではなく、結局、発電コストが安く環境にも比較的やさしいガス火力に注力せざるをえないと思われます。世界有数のLNGの取り扱い業者である三菱商事、三井物産、天然ガスの権益から輸送船団、火力発電所の受注と運営に注力している丸紅のような総合商社の存在感には大きなものがあります。特に円安になると、総合商社の海外権益の円建て価値が増加します。
IHI、日揮などのLNGプラント会社も注目できます。LNGを日本に運んでくるには、天然ガスの権益確保、天然ガスの液化設備と港湾設備、日本側の受け入れ設備の建設、輸送船団の調達、日本に数多い老朽火力発電所の更新などが必要で、1つのサプライチェーンをつくるのに1兆数千億円かかります。それが、日本全体でいくつも必要になるのです。原発にこだわっても、電力確保が滞るだけですが、ガス火力は直ちに投資が始まるのです。
また、新興国の資源開発と都市開発、アメリカの住宅市場回復、日本の復興需要という観点から、また、円安メリット株という観点から、小松製作所にも注目できると思われます。
4.内需関連にも妙味
内需関連では、復興需要絡みで大手から中堅までの建設、トラック、建機などのメーカーに妙味があると思われます。ただし、先行して大幅に上昇し、PERが高くなった大林組、大成建設などの大手建設よりも、いすゞ自動車、日野自動車のようなトラックメーカーや小松製作所のような建機メーカーを内需関連として見る見方もあると思われます。
不動産とRIETも重要です。東京を中心として主要都市での再開発が続いています。特に東京では、東京駅の再開発によって国内外の観光客が東京駅周辺に来るようになり、これまでビジネス一辺倒だった東京駅周辺、丸の内、大手町の在り方が変わり始めています。特に、三菱地所、三井不動産の大手2社が、この規模の大規模開発を手掛けています。
J-RIETは日銀の購入対象になっているということもありますが、今後地価が上昇し、家賃が上昇するとすれば、その恩恵を受けることになります。国債利回りや上場企業の配当利回りに比べ予想分配利回りが3~7%台と高いことも魅力です。
5.注意が必要なセクターもある
注意しなければならないセクターもあります。
電機では、スマートフォンの動きに注意する必要がありそうです。大手スマートフォンメーカーから日本の大手電子部品メーカーに対する発注が、スマホメーカー、部品メーカーにもよるようですが、必ずしも好調とは言えません。大手電子部品メーカーの受注は、夏に一度前月比で伸びた後、前月比で緩やかな伸びを示してきましたが、12月からは季節的な下降局面に入る見通しです。今は良く言えば高原状態、普通に言うと思ったよりも伸びがない状態です。そして、2013年1-3月期は、2012年10-12月期よりも売上高は減る見通しです。来年度を見ると、LTE(第4世代データ通信)の普及によって、スマートフォンへの部品搭載個数が増加するであろうというプラス材料はありますが、来年度のスマートフォン市場がどうなるかは、2013年の春ごろにならなければ実際には分かりません。
普及率を気にする向きも多くなり始めました。アメリカとイギリスではスマートフォンの普及率は足元で50%以上になっていると思われます。欧州大陸と中国でも40%以上になっていると思われます。日本はおそらく30%前後と思われますが、これはアメリカに比べて通信品質はよいものの通信費が2倍以上かかるという事情と、昨年までは携帯電話とスマートフォンとの性能差が海外ほど大きくなかったという日本固有の事情によると思われます。
従って、普及率が高くなり、ユーザーの買い替えサイクルが長くなれば、来年度の世界のスマートフォン出荷台数は減少に転じる可能性があります。もしそうなれば、日本の電機セクターへは様々な形で影響がでるでしょう。まず、村田製作所、京セラ、TDKなどの電子部品メーカーですが、ソニーはスマートフォン本体とカメラセットやイメージセンサー、シャープはセットと小型液晶パネル、パナソニックはセットと部品など、電子部品メーカー以外にもスマートフォンに関わっている企業は多いのです。ただし、円安で吸収できる部分もあります。今後の動きに注意したいと思います。
また、もしスマートフォンの購入サイクルが長期化すると、ゲームなどの各種コンテンツの購入度合いにも影響を与える可能性があります。同じスマートフォンを持ち続けていると、各種のコンテンツを買う頻度は下がると思われます。
電機セクターについては、原発再稼働がどうなるか、原発敷地内や周辺の活断層の評価がどうなるかが、原子力事業の評価を決めることになると思われます。廃炉になる原発が多くなれば、来期中とは言いませんが、いずれ、日立製作所、東芝、三菱重工業の原子力事業は減損が必要になる可能性があります。
また、世界の潮流になっている火力発電については、大型ガスタービンで国際競争力を持っているのは三菱重工業だけです。特に、火力発電所の競争力では日立製作所の競争力低下が著しいようです。福島第一原発事故が起こる前までの日本の原発優先政策の帰結が、結局こういうことだということでしょう。
6.ゲームセクターに揺らぎも
また、ゲームにも注意が必要になってきました。高額課金によって高水準の業績を挙げているディー・エヌ・エー、グリーに対して、ガンホー・オンライン・エンターテイメントやNTTドコモが、より低額で面白さをアピールできるゲームの配信を始めています。この動きが本格的になれば、ディー・エヌ・エー、グリーだけでなく、バンダイナムコホールディングス、スクウェア・エニックス・ホールディングスなど、ディー・エヌ・エーやグリーにゲームを提供しているゲームソフト専業メーカーへネガティブな影響が出てくると思われます。
任天堂にも「揺らぎ」が見られます。今年の日本のクリスマス商戦、年末年始商戦における一番人気のゲームソフトは任天堂の3DS用「とびだせ どうぶつの森」(日本では11月8日発売、海外では2013年予定)です。定価は4,800円ですが、家電量販店ではパッケージ版が4,200~4,300円で販売されています。パッケージ版とダウンロード版がありますが、ダウンロード版はダウンロードしたハードでないと使えず、ハードが壊れると使えなくなり、また中古屋さんに売ったり、友人との貸し借りができません。そのため、パッケージ版の人気が高く、ダウンロード版は出荷本数の約4分の1にとどまっている模様です。パッケージ版、ダウンロード版合わせて、12月16日までに154万本売れました(VGChartz)。
このパッケージ版が深刻な品不足に陥っています。「とびだせ 動物の森」は、プレイヤーが村長になって村を建設したり、遊んだりする自由度の高いゲームで、小中学生や若い女性の間で大変な人気になっていますが、高速読み出しができる特殊なROM(読み出し専用メモリー)を使っています。任天堂は、2005年に出たDS版の前作が日本で533万本、全世界で1183万本売れたにも関わらず、「とびだせ どうぶつの森」の人気を過小評価したため、十分な量のROMを調達しませんでした。特殊なROMなのでメーカーも急な増産は難しいようです。12月10-16日に約17万本売れましたが、実需はこの2倍以上あると思われます。実需を満足させる供給がいつ実現するのかは目処が立っていない模様です。
今のユーザーは欲しいソフトが品不足の場合、代わりのソフトを買おうとはあまりしません。無い場合は、それが供給されるのを待つ傾向が強くなっています。今回のクリスマス商戦で、任天堂のビジネスは予定通りにはいかなかったと思われますが、これは、Wii Uの売れ行きが、日米欧で会社予想よりも振るわなかったと思われること、本来なら人気が出ているはずの国内3DS市場が、「とびだせ どうぶつの森」の供給不足のために盛り上がらなかったことによると思われます。
任天堂の開発者は、発売されているソフトを見る限り、今も面白いソフト、売れるソフトを作ることができると思われます。任天堂は、世界で最も能力の高い開発者を集めている会社だと思われます。しかし、今の任天堂は、売れるソフトを売る能力、即ち、どの程度売れるかを測り、部材を調達し、ユーザーのもとに届けるという企業にとって当たり前のことが十分できない会社になってしまったようです。この状態から脱しない限り、今の低収益から抜け出すことは難しいかもしれません。
9月から始まった「楽天証券投資WEEKLY」も今週号で17回目となりました。いつもお読みいただき、まことにありがとうございます。来年2013年もより一層内容を充実させて、皆様のお役に立ちたいと思います。
2013年はへび年です。蛇は自ら脱皮することで生まれ変わり、新しい運を呼び寄せると言われており、お金の世界にとって大事な神様です。様々な変数はありますが、良い年になるのではないかと思われます。
来年もどうぞ宜しくお願い致します。良いお年をお迎えください。