楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
12月17日の週の日経平均株価は、活況のうちに1万円台に乗せました。11月中旬の自民党安倍総裁による「円安、大幅金融緩和」発言以後、9,000円台に上昇していた日経平均は、12月16日の衆議院選挙において、自民党が単独過半数獲得で大勝したことを受けて騰勢を強め、17日は9,800円台、18日は9,900円台と商いを伴って上昇しました。そして、19日には終値10,160.40円と4月以来の10,000円台回復となりました。12日までは長らく20億株台以下の水準が続いた東証一部出来高も13日から急増し、19日は40億株を超えました。
銘柄を見ると、金融緩和で再建しやすくなるという観測からシャープ、パナソニックが大商いとなり株価も上昇しました。金融緩和継続と割安感から、野村ホールディングス、三井住友フィナンシャルグループなどの大手金融が買われました。金融緩和→地価上昇という見方から三菱地所、三井不動産などの不動産、RIETも買われました。
また、円安継続観測から、トヨタ自動車、本田技研工業、デンソーなどの自動車、キヤノンなどの精密が買われました。
ただし、村田製作所、京セラ、日東電工などの電子部品セクターは、アップルの業績とスマートフォン市場への懸念から上昇した後大きく売られる局面がありました。自動車もトヨタの株価が上昇を続けているのに対して、日産は上昇後売られているなど株価の動きに差が出ていますが、これは、円安メリットの差と今後の業績見通しの差によるものと思われます(日産は対ドル円安のメリットはありますが、対ユーロ円安のメリットはありません。低燃費車のラインナップもトヨタ、ホンダに比べ充実していません)。円安メリットがあるはずの任天堂も、新型ゲーム機の売れ行きがパッとしないこと、人気ソフトの品切れによって収益機会を逃していることが嫌気されているようで、株価は一旦上昇した後、押し戻されています。
このように、ファンダメンタルズの差によって同じセクターの中でも勢いよく上昇している銘柄とそうでない銘柄が出ていることは、今後の銘柄選別の際に注意すべきことでしょう。
今後を展望すると、株価上昇の環境はいよいよ充実してきています。日本銀行は、20日の金融政策決定会合で、追加金融緩和10兆円を決定するとともに、物価目標を設定することを検討すると表明しました。また自民党は組閣後直ちに10兆円規模の補正予算を組むことを表明しました。金融政策、財政政策の両面から景気対策が始まります。
一方チャートを見ると、日経平均は、12月に入って今年6月以降の上値抵抗線を上方にブレイクし、上放たれた後、12月19日にザラ場高値10,160.40円を付けました。前回高値の3月27日ザラ場高値10,255.15円に接近しましたが、これまでに急騰した反動と材料出尽くし感が台頭したことから反落しています。
また、楽天証券の信用取引評価損益率は、12月20日に0.45%となり、小幅ながら2011年2月以来のプラスに転換しました。これまでの経験則では、信用取引評価損益率がプラス転換した場合、その前後で日経平均が一旦ピークをつけ、調整に入るケースが多く見られます。この経験則に従えば、これまで短期間で株価が上昇してきたこともあって、一旦利喰う向きも多くなると思われます。
もっとも、円安基調が定着しつつあること、大幅金融緩和が継続する見通しであることから、調整があったとしても、株価は再び上昇基調に戻ると期待されます。
引き続き銘柄を探して買いたい相場であると思われます。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
12月24日の週のマーケットスケジュールを概観します。
日本では、28日大納会に11月の鉱工業生産指数(速報)が公表されます。11月の全国消費者物価指数も公表されます。国内の生産活動と物価動向が把握できます。
アメリカでは、27日に11月の新築住宅販売件数が公表されます。
年末ですが、日米で物価、住宅関連の重要データが公表されます。
- 経済カレンダー
特集:新年の株価を考える 1
今週から来年1月初頭まで数回にわたって、新年2013年の株価がどうなるかを考えてみたいと思います。
上昇に転じる日経平均
まず、短期と長期の両面から日経平均株価の位置を確認してみたいと思います。短期は上のグラフ1であり、2012年6月を起点とする上昇ボックス圏を12月に入って上方にブレイクし、今年3月の高値に接近しています。達成感から一旦調整する可能性がありますが、金融環境と経済政策の両面から見て、調整となったとしても、短期間で再び上昇に転じる可能性が高いと思われます。
一方、グラフは日経平均月足から見た長期トレンドです。1万円あたりに節目がありますが、現在その節目を抜きつつあるところです。次の節目は11,000~12,000円どころであり、金融緩和と円安で企業収益がどう上向くかを確認しながら抜く展開となると思われます。
その上は、14,000円前後に節目があり、更にその上には、今も下降しつつある長期の上値抵抗線が16,000円あたりにあります。日経平均がこの14,000円、16,000円あたりの節目を捉えるには、安倍新政権の経済政策と日銀の金融政策がうまくかみ合わなければならないでしょう。
即ち、建設国債の増発等で公共投資を増やしても国債価格下落、金利上昇が起こらず、低金利が継続すること、物価上昇率が1%以上になり、持続的な株価上昇が既に大都市圏で上昇に転じつつある地価上昇を後押しし、株高、土地高が企業や個人の投資意欲、消費意欲を刺激する「資産効果」が本格的に現われ始め、これが銀行融資の増加につながることなど、日本経済復活に向けた前向きなトレンドが見えてくる必要があると思われます。
今度こそ金融緩和効果が表れるか
また、グラフ4は国債利回りと全国消費者物価指数の動きから実質金利を計算したものです。これまでも日銀は金融緩和を進めてきました。しかし、おそらく後手後手に回ったためと思われますが、実質金利は1%前後に止まっており、緩和効果がなかなか発揮されていないと思われます。ただし、日銀の更なる金融緩和と、足元で株価、地価が上昇に転じ始めたことから、上述のように資産価格上昇が事業意欲を刺激するという形で、融資が活発になり、市中にお金が回り始めることが期待されます。
当面の政治スケジュール
次に安倍新政権発足後の政策の時間軸を考えてみたいと思います。
まず、日銀との駆け引きはとりあえず安倍新政権に分があると見えます。日銀は大幅金融緩和を継続せざるを得ないでしょう。
また、安倍新政権は発足後直ちに10兆円規模の補正予算を組むと思われます。
そして、来年度予算が3~5月頃に成立すると思われます。注目点は公共投資の規模と財源です。公共投資は景気対策という面のほか、老朽化が進んだインフラ(トンネル、橋、道路など)の更新を進めなければならないという側面があります。夏には参院選挙がありますから、夏に1回目の有権者の審判が下ります。ここで参議院でも自民党の優位を固めておかなければ、安倍新政権は不完全燃焼のまま終焉するリスクがあります。
日本経済と安部政権を取り巻くリスクは色々あります。
- 円安と大幅金融緩和の一方で、中央銀行の独立性と、円、日本国債の信認の問題が顕在化すること
- 復興を進め、公共投資を増やす中で、どう財源を確保し、財政規律を維持するか
- インフレターゲットが行き過ぎて、インフレになったりバブルが発生するリスク
- TPP、参加するのかしないのか
- エネルギー政策、原発再稼働をやるのかどうか
- 安全保障と周辺国との関係
- 多種多様な政策目標を持っているため、肝心の経済政策が生煮えになるリスク
このようなリスクを材料に、円売り、日本国債売り、日本株売りを企てる向きが海外のヘッジファンド中心に少なからずいるようです。安倍新政権は円安、株高から始まりましたので、上述のように株高が地価高に結びついたり消費や投資に結び付く資産効果がこれから発揮される可能性があります。これは公共投資や景気対策を効率的に行うことを助けるでしょう。民主党政権は、円高で始まったため、政策効果が円高で減殺されましたが、安倍新政権は円安株高の分だけ有利に政策を進めることができるはずです。
一方で、麻生政権末期から積み上げて民主党政権時に巨大化した国債発行残高があります。普通国債の発行残高は民主党政権が発足した平成21年度(2009年度)末で594兆円(GDPの1.25倍)でしたが、平成24年度(2012年度)当初予算ベースでは709兆円(同1.48倍)に膨れ上がりました。安倍新政権はこれが制御不能となって拡散することがないようにしながら、かつ、公共投資や景気対策を行わなければなりません。そして、おそらく投機筋とも闘わなければなりません。
安倍新政権が経済に集中すれば、より一層の株高が期待できると思われる
ちなみに、12月19日付けのテレビ朝日「報道ステーション」によれば、安倍氏の後見役である麻生氏は、「夏の参議院選挙が終わるまでは、外交、防衛、憲法には一切触らず、景気経済一本で行け」とアドバイスしたとのことです。批判はあるでしょうが、よいアドバイスでしょう。意図するところは別にしても、安倍新政権が目指す日本経済復活は、かなり集中度を高めなければ出来るものではありません。更に言えば、日本経済建て直しを本気で考えるならば、次の衆議院選挙までの4年間景気経済に集中すべきだと思われます。
逆に他のこともやり始めた場合、新政権が景気経済から離れてしまうリスクもあります。経済以外のことには厄介な問題が多いのです。例えば、原発再稼働をやる場合、下北半島の東通原発をどうするのかという大問題に向かい合わなければなりません。敷地内に活断層がみつかり、かつ、近くの沖合に大きな断層が見つかったところです。もし再稼働後地震が起こって原子力事故に発展した場合、津軽海峡が放射能で汚染される可能性があります。津軽海峡は外国商船、艦船が自由に通航できる国際海峡ですから、もしそのようなことになれば、日本はその責任を厳しく問われるでしょう。また、下北半島には核燃料処理施設もあります。ここが地震で被害を受けた場合、日本の原子力政策が根底から覆されることになります。先週も指摘しましたが、電力不足を解消するには、日本全国にある老朽火力発電所を更新すれば済みます。
当面の筆者の意見ですが、来年度予算が成立する2013年3~5月までは、円安、大幅金融緩和、デフレ脱却、補正予算、復興などを材料に、日経平均は12,000円を目指す展開となる可能性があると思われます。また、もし安倍氏が麻生氏のアドバイスを受け入れるならば、来年夏までに12,000~14,000円もありうると思われます。
ただし、夏の参院選に勝利した後、憲法、国防軍、原発再稼働などの諸問題に取り組むようなら、経済政策は生煮えになってしまい、日経平均は12,000~14,000円のレンジでピークをつけて、その後下降局面入りする可能性があります。しかし、安倍氏が参院選が終わっても経済政策に集中するならば、日経平均は今後3~4年で18,000~20,000円のレンジまで上昇することもありうると思われます。
このようにリスクは沢山ありますが、短くとも来年春から夏までは、株価上昇材料が豊富とは言えないまでも着実にあると思われます。当面は買いたい相場が続くと思われます。
当面の注目セクターと銘柄は以下の通りです。金融緩和と円安の下では、大きなお金が動き易くなると思われます。そこで時価総額の大きい銘柄で、各セクターの上位1~3位程度の大手のみか、大手数社に中堅優良企業数社を組合せ、その中から低PER、低PBR銘柄を選びたいと思います。
自動車 | トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、ダイハツ工業、デンソー、アイシン精機、日野自動車、いすゞ自動車など |
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建設 | 大林組、大成建設、NIPPO、ライト工業など |
総合商社 | 三菱商事、三井物産、丸紅など |
機械・プラント | IHI、日揮など |
大手金融 | 三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングスなど |
不動産 | 三菱地所、三井不動産、住友不動産、RIETなど |