楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
12月10日の週の日経平均株価は、週初から堅調な展開でした。13日には前日比161.27円高の9,742.73円になり、今年4月から8カ月振りに9,700円台を回復しました。12日にFRBが量的緩和強化の方針を示したことに伴い、13日の東京市場でも日銀の追加緩和への期待が膨らみ、為替相場では円安が進行。13日の円相場は対ドルで83円台、対ユーロで109円台に突入しました。
この動きを受けて13日の東京市場では、輸出株、金融株、不動産株など、円安と金融緩和に関連したセクター、銘柄が買われました。円安関連としては、村田製作所、京セラ、TDK、日東電工などの電子部品株、ソニー、シャープ、パナソニックの民生用電機、キヤノン、ニコンなどの精密、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業などの自動車、デンソー、アイシン精機などの自動車部品、任天堂、カプコンなどのゲームの一部などが買われました。
また、金融緩和関連としては、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングスなどの大手金融、三菱地所、三井不動産などの不動産などが買われました。
一方で建設株は、大手は買われましたが、それ以外はまちまちでした。また、ディー・エヌ・エー、グリーなどのソーシャルゲーム関連は売られました。
チャートを見ると、日経平均は、今年6月以降の上値抵抗線を上方にブレイクし、上放たれた格好となりました。下に詳細を述べますが、選挙で自公政権が成立すれば、円安関連、金融緩和関連中心にもう一段高する可能性があります。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
12月17日の週のマーケットスケジュールを概観します。
日本では、19日に11月の貿易統計が公表されます。輸出入の細目と、中国向けの詳細がわかります。また、19、20日に日銀金融政策決定会合が開催されます。金融政策と円相場の動きが注目されます。
アメリカでは、19日に11月の住宅着工件数、建設許可件数、20日に11月の中古住宅販売指数、10月のFHFA住宅価格指数が公表されます。また20日に、3Q(2012年7-9月期)のGDP確報値が公表されます。住宅関連データがまとめて公表される週になりますので、注意が必要です。
クリスマスが目前に迫ってきました。欧米はそろそろ休暇に入る時期です。クリスマス商戦の動きを示す記事等に注意したいと思います。
特集:選挙後の株価を探る
今後の株式市場は16日の衆議院選挙の結果によって大きく変わると思われます。各メディアの選挙結果予測では、概ね自民党大勝となっており、自民党が単独過半数に届くか、届かなくても公明党と連立を組めば、少なくとも衆議院では安定政権を成立させることができると言うものです。選挙結果を見るしかありませんが、こうなる確度は高いと思われます。ここでは、選挙の争点になっている主要な論点について、株式市場への影響を考えてみたいと思います。
金融緩和と中央銀行の独立性
財源の問題から国の財政投融資に大きな制約がかかっている状況では、景気刺激策は金融政策に過度に頼らざるを得ません。ただし、金融緩和によって円安になる場合は、輸出企業の収益には直接プラスとなります。自民党が唱える大幅な金融緩和と円安政策は基本的には経済と株価にはプラスと考えてよいと思われます。
一方で、日銀の独立性を侵す形で、政府が日銀に圧力をかけた場合、それが積み重なると、日本の中央銀行の独立性へ疑問が生じ、金利や為替相場に悪影響が及ぶ可能性も考えなければなりません。日本国債は日本の金融機関が大量に保有し、その日本の金融機関の金融商品を日本の個人投資家が大量保有しています。過度な動きが起こった場合は要注意でしょう。
復興と公共投資
東日本大震災からの復興のためには既に大型予算が組まれているため、これを着実に執行することが新政権に求められます。ただし、大型の自然災害に備える名目で大型公共投資を連発しようとすると、直ちに財源の問題になります。例えば、建設株は新政権発足当初に上昇したとしても、持続性には限界があるかもしれません。
TPP
日本の鉱工業製品の輸入関税は既に十分低い水準になっており、また、加工型製造業の海外生産も拡大しているため、TPPに加盟したから貿易の相手が増えるというような、大きなメリットがあるわけではありません。ただし、TPPに加入しない場合には、アジアという成長地域で貿易圏に加入しないデメリットが発生すると思われます。アジアの国際政治から日本だけが取り残されるリスクもあります。自民党を含む大半の政党が、TPPに反対か煮え切らない態度をとっていますが、これは日本経済にとってリスクでしょう。
エネルギー
原発には大きなリスクがあります。見た目はリスクが低いように見えても、一度事故が起これば、火力、水力、再生エネルギーでは比較にならない大きな災害と環境汚染を引き起こすことを、福島第一原発の事故で世界ははっきりと認識しました。発電における世界の潮流は、中国など一部を除いて、天然ガスを使ったガス火力と石炭火力になっており、この二つのタイプの火力発電所の発電コストが十分安いことが確認されています。原子力発電はリスクや様々な補助金まで勘案すると決して安くなく、むしろ割高な電源であることもわかってきました。
ところが自民党を中心として、事実上の原発容認ないし推進を唱える政党が第一党になりそうな勢いです。しかし原発支持の意見が世論の大勢を占めると考えるわけにはいきません。今回のように多数の政党で小選挙区制の選挙を行う場合、たとえ自民党の得票率が20~30%であっても、他の政党が10~20%以下の得票率ならば、自民党議員が大量当選することになるでしょう。しかし、選挙後に原発を稼働しようとすると、世論の過半数が反原発、脱原発であって、とても再稼働できる状況にないことが分かるかもしれません。そもそも敦賀原発のように原子炉の下に活断層が通っている原発は多いと思われますが、原発再稼働を推し進めようとすると、様々な障害によって、電源確保、電源開発がかえって遅れることになりかねないのです。
また、世界の趨勢である火力発電から日本が距離を置いてしまうと、日本において火力発電の技術革新(発電効率を上げて安い電力を作る技術革新や環境面での技術革新)が停滞してしまい、結果的に日本の火力発電関連メーカーが不利益を被ることになりかねません。
更には、電力会社の経営問題がより深刻になる可能性があります。原発再稼働を政府が唱えるならば、電力会社は本来必要な老朽火力発電所の更新をせず、原発再稼働を待つことになるかもしれません。しかし、なかなか再稼働できず、赤字が膨れ上がってしまうこということが起こる可能性があります。
要するに、原発推進論ないし容認論は日本経済にとってリスクであると思われます。
これに対して、火力、水力という従来型の分散型電源と太陽電池を中心とした再生エネルギーを組み合わせたほうが、発電コスト、環境への負荷(放射能汚染はCO2よりも怖いということも分かりました)、以下に述べる安全保障上の観点からみても、望ましい電源構成であると思われます。
そして、この電源構成を実現しようとするならば、全国で投資ブームが起こる可能性があるのです。
設置後30~40年以上経過した老朽火力発電所は全国にあります。効率が悪く、すぐに壊れるため、これを更新しただけで電力不足は解決します。ガス火力、石炭火力を組み合わせるならば、電力価格も大幅な上昇を免れると思われます。
老朽火力発電所の更新は、発電機、ガスタービンだけでなく、LNGプラントや輸送船の需要も引き起こします。数兆円単位の投資が直ちに発生すると思われます。再生エネルギーも同様です。しかも、原発が特定の地方自治体しか潤さないのに対して、火力、水力、再生エネルギーは、分散型電源であるがゆえに全国各地に資金が投下されることになり、経済に対する波及効果がより大きいと思われます。景気対策の観点からも、火力や再生エネルギーは原発よりもはるかに大きな威力を発揮すると思われるのです。
次期政権が原発再稼働を進めるならば、日本は電源開発と発電所の技術革新が停滞するという大きなリスクを抱えることになりかねません。
安全保障
自民党中心に安全保障政策で積極的に発言する人たちが多くなっています。筆者は防衛予算の増額は望ましいと考えています。尖閣諸島を巡る中国との関係はもはや話し合いで解決できるものではありませんし、防衛予算の拡大は景気対策としても評価でき、技術革新をもたらすものになると思われます。
ただし、自衛隊の国防軍への改組を主張する人たちの多くが、同時に原発推進論者ないし容認論者と思われることには違和感を覚えています。外部電源を遮断して自家発電装置を破壊すれば、一日で原子炉は暴走を始めます。原子力事故を起こすのに原子炉を直接攻撃する必要はないのです。このことは「フクシマ」以後世界の誰もが知るところとなりました。そして、その後の現実もです。原発推進論者の安全保障論に、原発に対する安全保障上の考察が見られないことは、奇異としか言いようがありません。ちなみに、火力発電所が爆発事故を起こしても、福島第一のようなことにはなりません。
発電コスト、環境に対する負荷、経済に対する波及効果の面だけでなく、安全保障の観点からも、火力、水力のような従来型の分散型電源と太陽電池を中心とした再生エネルギーを組み合わせることが、最も望ましい電源構成だと思われます。しかし、予想される次期政権は、これと反対の政策を採る可能性があります。中長期的に考えて、このことは日本経済に対してリスクとなる可能性があります。
また、自衛隊を国防軍とすることは、これまで漸進的に事実上の解釈改憲を行ってきたこれまでの日本のやり方とは、明らかに異なるものです。アジア各国だけでなく、同盟国のアメリカからも無用な疑念を持たれないことも限りません。もしそうなれば、様々な局面で国際政治や経済に影響を与えかねないでしょう。
このように、選挙後自公連立政権あるいは自民党政権が成立しても、中長期的には決して安定的とは言えず、様々な問題を抱えることになり、日本経済も上述のようなリスクを抱えることになると思われます。
ただし、選挙後の株価を考えると、当面は大幅金融緩和と円安が目玉になると思われます。そこで、足元の相場のように、円安関連、金融緩和関連が引き続き物色される可能性が高いと思われます。物色されている銘柄には時価総額が大きい銘柄が多いため、日経平均は選挙後一段高する可能性があります。
具体的な注目セクターと銘柄としては、自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、ダイハツ、デンソー、アイシン精機など)、電機・電子部品(村田製作所、京セラ、日東電工など)、ゲーム(任天堂)、大手金融(三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループなど)、大手不動産(三菱地所、三井不動産など)を挙げておきます。