楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

12月3日の週の日経平均株価は、じり高の展開となりました。日経平均は、安倍自民党総裁の大幅金融緩和の主張と円安発言に端を発した円安によって、11月中旬より上昇してきましたが、11月下旬から12月上旬にかけて、過去半年間のトレンドラインを上方に突き抜ける形となり、12月6日終値で今年4月以降の9,500円台に乗せました。12月6日の日経1面で12月16日の衆議院選挙で自民党が過半数の勢いと報じられたことが材料となり、広範なセクターが買われました。

選挙がどういう結果になるかは、結果を見なければわかりませんが、各種報道を見ると、自民党に過半数獲得の実感はないようです。しかし、各選挙区で1人のみが当選する小選挙区制で、かつ、今回のように新興政党を含む多数の政党が票を取り合う構図では、僅差であっても自民党が多くの選挙区で首位に立つことはありうることです。選挙後の新政権の枠組みは各政党の議席の数次第ですが、自民党が第一党となれば、円安をはじめとした経済にやさしい政策が期待できそうです。

仮に、このまま円安が継続して、1ドル=85~90円のレンジに入ってそれが安定的だという認識が広まれば、海外に出て行こうとする工場が日本にとどまり日本で能力増強をしたり、海外から日本に帰ってくる工場が出たりするかもしれません。そうなると、日本経済の構図がこれまでとは違ってきます。安倍自民党の政策には、原発容認、自衛隊の国防軍への改組など、そのまますんなり実現するとは思えないものも含まれていますが、大幅金融緩和と円安政策は、他党と比較すると際立っています。選挙結果と選挙後に期待が集まるところです。

少なくとも現水準の円安が続くとなれば、自動車・自動車部品(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、ダイハツ、デンソー、アイシン精機など)、電機・電子部品、特にスマートフォン、タブレットPC関連(村田製作所、京セラ、日東電工など)、精密(キヤノンなど)など円安関連銘柄を中心に、物色が続く可能性があります。円安により景気回復が期待できるまでになれば、大手金融(三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループなど)、大手不動産(三菱地所、三井不動産など)の株価上昇も続く可能性があります。日経平均はもう一段高が期待できる可能性があります。

表1:マーケット指標

グラフ1 日経平均株価:日次

グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

12月10日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では12月10日に、7-9月期GDPの第二次速報が公表されます。また、同じ日に11月の景気ウォッチャー調査も公表されます。続いて12日は10月の機械受注が公表されます。14日は日銀短観が公表されます。月曜日と金曜日に日本経済の状況を確認する重要データが公表されますので、これらの日は要注意です。

アメリカでは、11日に10月の貿易収支が公表されます。11、12日はFOMCが開催され、11日に政策金利が発表されます。14日は12月のミシガン大学消費者信頼感指数の速報が公表されます。

ユーロ圏に関しては、12日にユーロ圏鉱工業生産が公表されます。

クリスマス商戦も12月に入ってきました。クリスマス商戦中盤の状況に関する報道も多くなると思われます。統計とともにこれらの報道にも注意したいと思います。

特集:自動車セクター -トヨタ自動車、本田技研工業など-

今週は自動車セクターを取り上げます。日本とアメリカの販売動向を見ていきます。

新車販売は、日本は持ち直す、アメリカは順調持続

グラフ3、4は主要国、地域の新車販売台数と前年比のトレンドを見たものです。12月に入り日本、アメリカの11月の新車販売台数が発表されましたが、順調な販売動向を示すものでした。

表2、3は日本の新車販売台数の動きと中味を見たものです。日本は大震災後の反動増が順次薄れ、エコカー補助金も9月になくなったため、2012年9月は前年比3.7%減、10月は同6.7%減とマイナス成長となりました。しかし11月は、0.2%増と前年並みに持ち直しました。中味を見ると、小型車と軽乗用車が持ち直しました。今回のエコカー補助金の規模が前回ほど大きくなかったこと、登録車ではアクア、プリウス(トヨタ)、ノート(日産)、インプレッサ(スバル=富士重工業)など、軽ではN BOX(ホンダ)、タント(ダイハツ)など、燃費、走行性、居住性、安全性の各方面で優れた性能を持ち、かつ価格が手頃な新車が多いことが、マイナス要因を埋め合わせる要因となったと思われます。

表2 日本の新車販売台数と前年比

表3 2012年11月の日本の乗用車販売ランキング

また、表4はアメリカの新車販売台数の動きを示したものです。アメリカでは、10月前年比6.9%増だった市場が、11月には15.0%増と二桁増に戻りました。「財政の崖」を懸念した買い控えも増税を見越した駆け込み需要もほとんど出ていないと思われます。メーカー別には、トヨタがプリウスの好調で11月は前年比17.2%増と二桁増を持続しています。ホンダは、アコードが好調で38.9%増の大幅増になりました。日産もSUVのローグが堅調で持ち直しました。日本車の好調が目立ちますが、これも日本同様燃費や走行性能、居住性能と同時に価格が評価された結果と思われます。

表4 アメリカの新車販売台数と前年比

中国での販売減少が続いており、欧州も早期回復の気配が無い中、日本とアメリカは自動車各社にとって重要な市場です。このほか、アセアン諸国(インドネシア、タイなど)での日本車の好調も伝えられています。日、米、アセアン市場での順調さと、足元の円安を見ると、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、ダイハツ、デンソーなどに投資妙味があると思われます。