楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

11月19日の週の日経平均株価は、一段高となり、5月1日以来の9,300円台を奪回する展開となりました。2013年3月期2Q決算が前週で出揃い、日本企業のファンダメンタルズが、業種や市場シェアによるばらつきはありながらも、概ね堅調であることが確認される中で、11月15日に自民党の安倍総裁から、総選挙での公約として、日銀法改正、無制限金融緩和、日銀の国債引き受け等の意表をついた発言があったことを受け、為替レートが円安に振れる展開となりました。安倍総裁のややフライング気味の発言に対して自民党幹部から若干の軌道修正発言はあったものの、円安の勢いは止まらず、11月13日に1ドル=79円台だった円ドルレートは、21日には82円台に入りました。円ユーロレートも、同じく1ユーロ=100円台から105円台に約1週間で下落しました。

為替相場が急速に円安になるに伴って、株式市場では、輸出製造業中心に物色されました。対ドルで円安メリットが大きい自動車セクター、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業などが買われたほか、自動車部品メーカーも大手のデンソー、アイシン精機などが物色されました。円安に加え、通信、自動車向けが伸びている村田製作所、京セラ、日東電工などの大手電子部品会社も買われました。やや出遅れましたが、任天堂も買われました。

また復興関連、内需関連でも、公共投資に熱心な自民党が総選挙の結果第一党になるという世論調査が新聞各紙から出されていることから、大林組、大成建設などの大手建設株が物色されました。

12月16日の衆議院選挙までは各党共に有権者に配慮した発言を続けると思われます。新政権が成立すれば、現実的な政策に軌道修正されると思われますが、この3週間は株式市場は思わぬポジティブな展開をすることも予想されます。楽天証券の信用取引評価損益率は21日にマイナス5%台になっており、個人投資家の投資余力は増していると思われます。引き続き銘柄を探して投資する局面と思われます。

表1:マーケット指標

グラフ1 日経平均株価:日次

グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

11月26日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では29日に10月の大型小売店販売額の速報が公表されます。また、30日には10月の鉱工業生産速報が公表されます。いずれも、9月から起こった中国における反日デモの影響が反映された統計ですので、中味が注目されます。

アメリカでは、27日に、10月の耐久財受注、11月の消費者信頼感指数、9月のS&Pケース・シラー住宅価格指数が公表されます。28日はベージュブック(アメリカ地区連銀経済報告)、29日は3Q(7-9月期)GDP速報が公表されます。

ユーロ圏では、30日にユーロ圏失業率が公表されます。

今週は特にアメリカで27~29日に重要な統計が相次いで発表されます。11月22日のサンクスギビングデーが終わるとアメリカと欧州はクリスマスシーズンに入ります。そこでの消費は経済と株価を動かします。統計から目の離せない状況が続きそうです。

特集:2013年3月期2Q決算のまとめ2 -トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業など-

先週に続いて2013年3月期2Q決算のまとめを行いたいと思います。今週は自動車セクターです。

表2は、日本の自動車メーカー(商用車メーカーを含む)の営業利益の推移を見たものです。リーマンショック後の需要減退や東日本大震災後の部品不足を克服し、順調に業績が回復していることがわかります。2013年3月期通期見通しを下方修正した会社もありますが、中国の問題、一部新興国での制度改変の影響(インドネシアの2輪車頭金規制など)、円高の影響などが各社ごとに影響しており、一様ではありません。トヨタ自動車、富士重工業、日野自動車、いすゞ自動車は通期見通しを上方修正していますが、これは車が良く売れたこと、コストダウンに成功したことなどで、円高を克服したためです。

例えば、トヨタはプリウス中心にハイブリッドカーが良く売れました。日本だけでなく、アメリカでもプリウスシリーズが主力車種になりました。富士重工業はインプレッサが日本だけでなく、北米でも在庫が不足するヒットとなりました。日野自動車、いすゞ自動車は、国内では復興需要、東南アジアでは経済成長に伴う需要増加の恩恵を受けました。これらの好調要因は、下期も継続すると思われます。

表3、4は、足元の円安が続いた場合に、自動車各社の営業利益にどのような影響が出るか試算したものです。大手3社(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車)の為替感応度は中堅各社に比べ大きくなります。中でもトヨタの円安メリットは大きく、足元の円安が続いた場合、営業利益を10%以上押し上げると思われます。次いで日産のメリットが大きいと試算されます。日産は、欧州でルノーと共同で部品を仕入れているため、対ユーロでの円安メリットがほとんどありませんが、対ドルの円安メリットがホンダよりも大きくなります。ホンダは北米での現地生産が日産より先行していますので、円安メリットはトヨタ、日産よりも小さくなります。

また、中堅メーカーではマツダの円安メリットが大きくなりますが、これは広島の主力工場での生産比率が大きいためであり、海外展開が遅れていることの裏返しでもあります。

日本とアメリカでは、2012年後半から2014年にかけて新車ラッシュになります。特に、大手3社が積極的な新車投入を計画しています。トヨタは、今年12月にクラウンのフルモデルチェンジを行う予定です。ハイブリットバージョン(排気量2.5リットル)はJC08燃費でリッター23.2km走ると報じられています(月間自家用車2012年12月号)。現行のハイブリットクラウンがリッター14kmですので、大幅な性能向上になる見込みです。

ホンダは、2013年夏に、フィットのフルモデルチェンジを行う計画と報じられています。フィットハイブリットはJC08燃費でリッター30km超(フジサンケイビジネスアイでは36km/リットル)と報じられており、トヨタのアクア(同35km/リットル)に匹敵する燃費性能を目指している模様です。

2011年にマツダが「スカイアクティブ」技術を搭載したデミオ(1.3リットルでリッター25km走る(JC08燃費))を発売して以降、ハイブリットカー、ガソリン車の超低燃費車が入り乱れて燃費競争が活発になっています。今年後半から来年に掛けて、中型者、小型車ともにもう一段高いレベルの燃費競争になると予想されます。この動きは、日本車の国際競争力を一層強化すると思われます。

表2 自動車セクターの営業利益

表3 自動車各社の会社想定レート、為替感応度

表4 足元の円安が続くと仮定した場合の自動車各社の業績への影響度合い

表5 銘柄データ