楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
11月12日の週の日経平均株価は、前週11月6日のアメリカ大統領選挙において、オバマ大統領の再選が決まったことを受け、いわゆる「財政の崖」に対するNY市場の懸念を反映して安く始まりました。しかし11月14日の衆議院での党首討論において、野田首相がいくつか条件を付けながらも、11月16日の衆議院解散を明言したことから、日経平均は15日から急伸しました。15日の日経平均は前日比164.99円の8,829.72円、16日は14時過ぎで前日比170~180円ほど上げ、9,000円台を回復しています。出来高も増えており、15日は22億株、16日はそれ以上のペースになっています。
大震災からの復興がままならず、円高、中国リスクと国難が続く中、久しぶりに市場に良いニュースが出ました。12月16日の総選挙での結果がどうなるかはわかりません。おそらく自民党が第一党になるとの予想が大半ですが、維新の会、太陽の党など、いわゆる第3極がどの程度票をとるのか、民主党が解党するのか、存続するのかも含めて、政治からは目が離せません。
今後の注目点としては、まず為替レートがあります。衆院選で第一党が自民党ということになれば、新首相は自民党総裁の安倍氏ということになります。安倍氏が積極的金融緩和論者をあることを反映して、足元では対ドル、対ユーロともに円安となっています。この傾向が続けば、これまでの海外展開とコストダウンによる収益力強化に円安が加わることで、自動車、電機を中心に、輸出産業の業績が大きく改善すると思われます。
復興もまさに喫緊の課題です。しかし、既に成立済みで手付かずの予算があります。この使い方は、2009年の民主党政権成立まで長期政権を担ってきた自民党のほうがうまくやれるでしょう。予算が大きいため、2013年、2014年ぐらいまで復興需要が続きそうです。それによる景気底上げ効果をいかに長期的なものにしていくかが、新政権の課題となるでしょう。
中国リスクをどう克服するかも重要です。これまでの中国の態度を見る限り、非常に交渉が難しい相手であることは自明です。安倍氏が右寄りな考え方をもっていることで、中国との武力衝突をも想定しうる現状を考えると、経済によってはよい傾向ともいえます。
また、円安が続き、復興本格化、中国リスクを合わせて考えると、日本に工場を回帰させようという動きが出てくるかもしれません。次期政権は文字通り日本の命運を担うものとなるでしょう。
ただし、リスクもあります。一つはアメリカの「財政の崖」で、これは他国の政策のことであり見守るしかありません。もう一つは安倍氏の健康問題です。今のところ問題なさそうですが、注意は必要でしょう。
注目セクター、企業は以下の通りです。
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円安メリットがあり、かつ中国リスクが小さいセクター、企業
自動車(トヨタ自動車、富士重工業、ダイハツ、日野自動車など)
電機・電子部品(ソニー、村田製作所、京セラ、日東電工など) -
復興関連
建設(大林組、大成建設など)
トラック(日野自動車、いすゞ自動車)
セメントなど建設資材(太平洋セメントなど) -
防衛費増加、特に海上自衛隊と海上保安庁の大幅増強が実現するならば
防衛関連企業(三菱重工業、川崎重工業、IHIなど)
当面は、衆院選の結果を見守りたいと思います。日経平均については、9,000円トビ台に200日移動平均線があるため、一旦この辺りでもみ合いになり、そこから1万円台を目指せるかどうか、相場環境を分析する必要があると思われます。ただし、個別銘柄を探して投資すべき時期に来ているように思われます。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
11月19日の週のマーケットスケジュールを概観します。
日本では19~20日に日銀の金融政策決定会合が開催されます。更なる金融緩和があるかどうか注目されます。21日には10月の貿易統計も発表されます。中国向けが大きく減少しているようなら、多くの日本企業が中国から離れる大義名分を得ることができます。
アメリカでは、19日に10月の中古住宅販売件数、20日に10月の住宅着工件数、建設許可件数が発表されます。住宅関連の指標がでる要注意の週になります。
また、22日(木)はアメリカはサンクスギビングデー(NY市場は休場)です。この日を境にアメリカはクリスマス商戦入りします。ゲーム、玩具、家電製品、個人用のコンピュータ関連製品、ネット通販などの業績と株価を左右する時期に入ります。
特集:2013年3月期2Q決算のまとめ1 -ソニー、村田製作所など-
2013年3月期2Q決算が概ね終了しました。今週は、電機・電子部品について、四半期ベース、通期ベースの営業利益をまとめました(表2)。
民生用電機3社(ソニー、パナソニック、シャープ)の中では、ソニーが概ね会社想定を上回る業績だったのに対して、パナソニック、シャープが通期業績見通しの大幅下方修正を行いました。ソニーの業績が先行して回復してきました。
ソニーについては、テレビの営業赤字が縮小しています。テレビの営業赤字は、2013年3月期1Q66億円(前年同期147億円)、2Qは102億円(同407億円)です。1Qに対して2Qは、テレビの価格下落が響いて赤字が拡大しましたが、通期の赤字見通し800億円(2012年3月期は2,080億円の赤字)を大きく下回る赤字縮小ペースとなっています。下期に大きな赤字拡大要因はありませんので、テレビのみを見ると、ソニーには会社予想営業利益1,300億円に対して上乗せ要因があります。
ソニーのテレビ以外の部門を見ると、デジカメはスマートフォンに需要を喰われて先細りとなってきましたが、デジタルカメラに搭載するイメージセンサー(ソニーが世界トップ)が伸びており、ソニー・モバイル(旧ソニー・エリクソン)ではスマートフォンも製造しており、補っています。また、映画、音楽、金融が、各々波はありながらもコンスタントに稼いでいます。持続的成長の見通しが立ったとまでは言いがたいですが、黒字体質に浮上してきたと言ってもよいと思われます。
パナソニックは、主に減損と構造改革費用の計上で大幅赤字見通しとなりました。今後と展望すると、現在国内の量販店では、冷蔵庫でハイアールのアクアブランド(旧三洋電機白物家電部門)が伸びており、上位に喰い込んでいます。この傾向が続き、冷蔵庫だけでなく、洗濯機にも及べば、パナソニックは国内の白物家電市場という重要な収益源を失いかねません。
シャープについては2013年9月に予定される転換社債約2,000億円の償還問題が控えており、下期の営業黒字化とともに、スポンサーを見つける必要があります。また、アップルの株価が下げ止まらないことから、今後同社が部品コストの削減による業績強化策を行う可能性があります。その場合、シャープが業績回復の目玉としている小型液晶の収益性に問題が生じかねません。
電子部品を見ると、各社とも通期業績見通しを下方修正しましたが、業績トレンドには差が出てきました。1Qから2Qにかけて村田製作所、京セラの営業利益の伸びが大きいのに対して、TDK、日本電産の伸びが鈍くなっています。村田製作所はスマートフォン向け、京セラはスマートフォン向けと太陽電池の出荷増加が寄与していると思われます。一方で、TDK、日本電産は、パソコン向けHDDの磁気ヘッド(TDK)、スピンドルモーター(日本電産)が収益源ですので、パソコンの動きが鈍いことが響いていると思われます。この差が今後の成長格差に結びつく可能性があります。
表2 2013年3月期2Q決算-営業利益