楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
日経平均株価は、前週末から9月20日木曜日まで72.41円下落しました。
9月19日の金融政策決定会合において、日本銀行は金融緩和強化策を決定しました。それによれば、日銀は、国債などを買い入れる資産買い入れ基金の枠を10兆円増額し、80兆円にします。買い入れ期間は2013年6月末から2013年12月末までに延長し、長期国債などの買い入れ入札の下限金利(0.1%)も撤廃することになりました。
これを受けて日経平均は19日後場に一時9,200円台に上昇しました。ただし、翌日20日には海外からの反応がいまひとつだったことを嫌気して、再び下落し、9086.98円で引けました。
21日前場も日経平均は鈍い動きが続いています。海外では、今回の日銀の金融緩和強化策は踏み込み不足と受け取られたようですが、欧米に比べて財政の悪化著しい日本の中央銀行が、自らのバランスシートを拡大させることには限界があります。また、日本が中国との間で武力衝突ないし戦争リスクを抱えていることにも(近い将来不幸にしてそうなった場合に、長期にわたる戦費調達の準備が必要になることにも)留意する必要があります。
為替を見ると、金融緩和協会策→円安の連想から、19日は一時対ドル、対ユーロとも円安になりましたが、長くは続きませんでした。円安メリット株として、任天堂や、ソニー、トヨタ自動車などの輸出関連が動意付きましたが、任天堂は新型ゲーム機の売れ行きを見定めたいと思う投資家が多いと思われ、急騰した後は株価は軟化しています。結局、円高安定の中で、業績による選別が進んでいると思われます。
楽天証券の売買代金上位銘柄を見ると、20日から東京ゲームショーが開催されており、グリー、ディー・エヌ・エーの売買が活発です。日本航空もPERの安さもあり、売買代金上位に入っています。一方、iPhone 5の予約好調からソフトバンクが週初に買われましたが、KDDIとの競合を懸念してか、週後半は軟化しています。
また、金融緩和強化策を受けて、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループなど金融株が動意付いています。国際的に見て、日本のメガバンクの資産内容は良く株価バリュエーションは安いため、相場の持続性が注目されます。
トヨタ自動車、日産自動車など自動車株も売買代金上位に入っていますが、単に円安関連というよりも、今後の持続的な成長を期待したものと思われます。
信用取引評価損益率を見ると、三市場評価損は9月14日申込み分でマイナス14.62%(前週比3.23%ポイント改善)と、改善しています。楽天証券のそれも、マイナス11.67%(同3.64%ポイント改善)と改善しました。また、9月に入ってから日経平均の上昇に伴い、楽天証券の信用買い残が急減しています(グラフ2)。信用買い残の急減と信用取引評価損益率の改善を考慮すると、買い余力が増していると思われます。今後の展開が注目されます。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
9月24日の週のマーケットスケジュール予定を見ます。この週も動きのある週になりそうです。
まず、24日に、8月8、9日分の日銀金融政策決定会合の議事要旨が公表されます。25日は、7月のS&Pケース・シラー住宅価格指数が発表されます。アメリカ住宅市場に関してよいニュースが出るかどうか注目されます。
続く26日は8月のアメリカ新築住宅販売件数です。
27日は、アメリカの2QのGDP確報値と8月の耐久財受注が発表されます。
28日は、日本で8月の鉱工業生産、同大型小売店販売額(いずれも速報)、消費者物価指数などが発表されます。アメリカでは8月の個人所得・支出と9月のミシガン大学消費者信頼感指数(確報)が発表されます。
セクター情報、企業情報
今回は、IHI(7013)、エイベックス・グループ・ホールディングス(7860)を取り上げます。
IHI(7013)
IHIは切り口の多い会社です。元の社名は石川島播磨重工業で、造船、重機械、プラントなどに多角化していました。本社所在地が東京の豊洲にあるため、本社工場の跡地を利用した不動産業にも進出しています。
まず、中国との関係が不穏なものになるにつれ、防衛産業の重要性が増してくると思われます。IHIの防衛省向けは、平成23年度の防衛省調達実績で7位354億円となっています。前年の平成22年度は、IHIとしては9位280億円でしたが、造船子会社のアイ・エイチ・アイ・マリン・ユナイテッドが護衛艦等を納入したため、同社が5位785億円となりました。防衛省向けの中味は、護衛艦(船舶・海洋部門)、航空機用エンジンと整備用の部品(航空・宇宙部門)などです。
なお、IHIの造船部門はJFEの造船部門「ユナイテッド造船」と11月に経営統合されるため、11月以降造船部門はIHIの持分法対象となります(造船新会社の持ち株比率はIHI 45.93%、JFE 45.93%、日立造船 8.14%)。これは造船不況に対応したものです。
護衛艦建造は、この新会社が継続します。IHIが最近建造している護衛艦は、「ひゅうが」型といい、大型のヘリコプター搭載護衛艦です。全通甲板型といい、見た目は航空母艦そっくりです。東日本大震災の時は、東北沖に展開し被災者救援や医療面の手当てなどで大活躍した艦種です。おそらく、改良すれば小型空母への展開も可能と思われます。1番艦「ひゅうが」(2009年3月竣工)、2番艦「いせ」(2011年3月竣工)は既に納入され、現在3番艦を建造中です。4番艦の計画もある模様です。
また、1,000t、2,000t級の海上保安庁巡視船の建造も手掛けています。
部門別に見ると、資源エネルギー分野では、LNG(液化天然ガス)の貯蔵設備等に強い会社です。世界的なガス発電ブームの中で引き合いが増加している模様です。
社会基盤分野では、港湾設備、水門、橋梁などの大手です。地震対策や津波対策の需要が期待できる可能性があります。
物流・産業機械では、物流機械、製紙機械、製鉄機械などを手掛けています。クレーンなどの運搬機、駐車設備、新交通システム、製鉄、製紙機械など各分野が好調です。
回転・量産機械では、自動車用ターボチャージャーで世界4位の会社です。独フォルクスワーゲンが進める小型エンジンとターボチャージャーの組合せによる「ダウンサイジング」が世界中でヒットしていますが、この流れの恩恵を受けています。
航空・宇宙は、防衛省だけでなく、民間航空機用エンジンとその部品需要が好調です。
2013年3月期の会社予想業績は、一桁営業減益となっていますが、これは円高の影響と、ターボチャージャーの需要が世界的に好調なので、増産投資を行うために一時的なコストが発生するためです。来期は増益が期待できると思われます。
株価バリュエーションガ低いことにも注目できます。PERは10倍台、PBRは1.1~1.2倍のレンジです。
エイベックス・グループ・ホールディングス(7860)
内需系の小型株にも注目したいと思います。
音楽業界は大きな構造変化の中にあります。2000年代に入ってから、それまで収益源だったアルバムの販売が減少トレンドに入りました。それを補っていた音楽配信もフィーチャーフォンからスマートフォンへ携帯電話がシフトするにつれ、2010年から減少に転じました。
これを補うために日本の音楽業界大手のエイベックスが行ってきたのが、映像分野の拡大です。アニメDVDでは「ワンピース」が大当たりしました。また、NTTドコモとの合弁事業である動画配信サイト「BeeTV」「Videoストア」が成功しており、現在は前4Qから始めた「Videoストア」の会員数が急拡大しています。
もう一つ重要なのがコンサート市場です。最近の音楽ファンは、単にアルバムを携帯音楽プレーヤーで聞くだけでは飽き足らず、好きなアーティストとの濃密な音楽空間を楽しみたいという欲求が強くなっています。そのため、大ホールを使ったコンサートだけでなく、中小規模のライブでもアーティストを選べばお客が入ってくれます。コンサート市場が拡大しているのです(表4)。
また、アルバムを販売する際、コンサート券とファンミーティングのチケットを同梱するのも重要なマーケティング手法になっています。
アルバムは減少していますが、シングルが増えていることは、熱心な音楽ファンが増えていることを示唆しています(表4)。
表4 日本の音楽市場の推移
表5 エイベックスの2013/3期1Qセグメント別業績
エイベックスが音楽CD、コンサート企画、アーティストマネジメントの各分野で契約しているアーティストは、J-POPでは、浜崎あゆみ、幸田來美など、K-POPでは、東方神起、スーパージュニア、BIGBANGなど大物から若手まで多数います。今後の成長のための経営資源は揃っているといってよいと思われます。
例えば、東方神起が4月に行った東京ドーム、京セラドームでの公演は、約15万人動員しました(12/3期は20万人以上)。スーパージュニアが春と夏に行った公演も盛況でグッズもよく売れた模様です。
コンサートの利益率は、アルバム、ビデオ、音楽配信よりも低いため、事業として単純な比較は出来ませんが、各媒体の販売、生産金額を足すと、音楽CDの減少をコンサートとグッヅ販売が補って、音楽市場全体としては底打ちするところまできたようです。
エイベックスの2013年3月期1Q決算は一桁減益でしたが、映像配信、コンサート・ライブ事業の拡大を、全体の利益成長に結びつけることが出来るようになってきたと思われます。
エイベックスのPERも低く、9倍台です。
表6 銘柄データ