今年も「なんとなく投資」から卒業するため、資産運用について考えていきましょう。今年最初のお題は「投資原資確保のための節約術」です。
節約というと投資の対極にある概念のように思えますが、実は節約が投資と密接に関わっているとしたらどうでしょう。なんとなく投資をしている人にとっても、投資についてはある程度ベテランに近づいている人にとっても、驚きの発見があるかもしれません。
これからの時代、投資原資をひねり出すのが難しくなる
2014年の最大のイベントはやはり消費税増税です。4月から消費税は8%に引き上げられますが、20代、30代の読者にとっては「社会人になって初めての消費税率引き上げ」だと思います。筆者が社会人になってすぐ、消費税5%に上がったわけですが、ずいぶん昔の話です。
これからの時代は、消費税引き上げに代表される「税率の引き上げ」が行われることも考えられます(証券税制も本則の約20%課税に戻りました!)。消費税が上がる、ということはそれに見合った年収増がない限り、相応の消費を断念しなければならない、ということです。あるいは貯蓄や投資に回す予定であった原資が減少することになります。もし消費税5%時代から10%時代に移れば、あるいはその後待ち受ける消費税15%ないし20%時代が到来すれば、なおさら投資原資の確保は困難になります。
また「社会保険料負担増」も続くと思われます。厚生年金保険料負担は18.3%までの引き上げ計画(2017年まで)で打ち止めの予定ですが、やはり不足するとして20%くらいまで上がることは可能性として否定できません(そうでなければ給付を引き下げるほかない)。あるいは健康保険料や介護保険料の引き上げも回避困難だと思われます。これらもじりじりと手取りを減らしてしまう要因で、消費生活ないし貯蓄原資に影響を与えます。
いずれにせよ、これに見合う「賃上げ」が実現されない限りは、何らかの対応が必要になります。8%はなんとか勢いで乗り切れたとしても、10%の消費税生活をなんとなく過ごすのは難しいでしょう。追加投資元本を確保する家計の見直しが必要になってきています。
会社員は売買の回転より追加原資投入が重要
普通の会社員の投資戦略について考えたとき、売買回転率を高めても必ずしも資産の効率的上昇につながらないという問題があります。特に資産が少額(といっても1000万円に満たない投資資金額)である場合、同じ収益率であっても、実際の収益額が小さくなってしまうからです。1000万円のトレードであれば、10万円を稼ぐために1%の運用益でいいのですが(税や売買手数料を考えれば、1.25%くらいか)、投資資金そのものが100万円くらいしかない場合、同じ1%の利回りで得られる収益は1万円にしかなりません。同じ銘柄を選び、同じ売買タイミングでトレードしても、投資額の多少は収益額に大きく影響してきます。
このとき「それなら10%稼げばいいのでは」と考えるのはなんとなく投資をしている証拠で、リスク管理も負担が重くなる割に、稼げる額は10万円でしかありません。もちろんうまくいかないトレードもあるでしょうから、確実に増えるどころか、短期的には資産がマイナスになることもあります。
資金額がまだ小さい個人投資家にとっては、「追加原資の投入」が重要な選択肢です。先ほどの例でいえば、1万円のリターンもあげつつ、毎月1万円追加資金投入できれば、資産増のペースは速まり、同じ1%のリターンで得られる収益も増加していくことになります。仮に運用益1万と追加元本1万を足して元本102万円にしたとすれば、次の期の1%の運用益は、10200円にアップします。追加元本をさらに足せば収益額も徐々にアップしていきます。
現役世代の個人投資家が取り組む投資においては、追加拠出を行うことは必須といってもよく、運用に余裕を持って臨めるようになる近道でもあるわけです。
節約の再チャレンジで投資原資を確保する
ここまでの論点をまとめますと、「資産形成において追加資金投入が重要」であるにもかかわらず、「追加資金確保が困難になっていく」という時代になるということです。普通の個人投資家ほど意識する必要があります。
年収も大きく増えるわけではなく、手取りが下がる時代だからと、資産形成を中断していいわけではありません。将来の年金給付が下がり、将来も負担が増していくリスクを考えれば、資産形成ニーズは後退するどころか、むしろ高まっていきます。特に老後資産形成を考えれば必要な準備額は今よりも上方修正が必要です。
そうなると、「収入は一定」「税等の負担は増大」「資産形成はむしろ増やしたい」という投資条件が見えてきます。これは「出費を減少」させなければバランスは合いません。つまり節約が必要になるわけです。
リスク資産運用に取り組む個人にとっては、相場で資金を増やすことこそが王道であり、節約のような形でちまちま投資原資を確保するなんて矮小なものに思えるかもしれません。しかし、これこそが「なんとなく」の落とし穴です。お金が仮に1万円増加したとすれば、運用益であろうが、節約であろうが同じ資産増です。むしろ節約のほうががんばれば確実に効果が生じる分、割のいい「運用」かもしれません。
お金を増やす方法(正確には稼いだお金の流出を抑えることで手元に多く残す方法)として、節約を再評価し、そこで得られた資金を投資に回す方法を考えてみましょう。
投資家のための節約の基本的戦略・戦術
節約については少し本気を出して調べれば、ネットや雑誌でいろんなネタがみつかります。しかし、投資家が取り組む節約についてはもう少し、戦略、戦術の部分を整理しておきたいと思います。基本的なステップは以下のとおりです。
- 今行っている貯金額や積立投資額は維持する方向で節約に取り組む……目標はできるだけ明確にしたほうがよく、負担増に相当する分を最初の目標と置く。「なんとなく」節約は避けるほうがいい。目標額の明確化は達成感にもつながる。
- 固定支出の削減をまず行う……毎日の買い物の見直しは優先順位としては2番目。最初に削るべきは固定支出の見直し。預金通帳から自動引き落としされている項目、クレジットカードから引き落とされている項目を全てチェックし、不要なサービスは停止手続きしたり、代替の割安サービスに置き換えられないか検討する。面倒な手間を惜しまないほど節約の効果が生じる。
- 日常消費の削減を次に行う……固定支出の削減を終えたら、日常的な買い物のコストカットに取り組む。単にガマンしたり安い買い物をするのではなく、「同じ満足を割安で得られる消費」はないだろうか、「消費しなくても不満足がほとんどない消費」がないか、毎日の消費項目を点検して一カ月生活する。情緒的に絞るのではなく、インテリジェントに節約をしていくといい。
- 節約された原資は投資に回す……賃金減少時代の節約は賃下げ分を補うための節約であったが、負担増時代の節約は節約分でまず負担増を埋めることになる。さらに、残った資金は投資資金として証券口座に入金するなどして、消費してしまわないようにする。
2014年は節約と運用のバランスで乗り切る
これだけ大幅な株価上昇が起きた2013年を受けての2014年最初のコラムが「節約」というのは不思議な感じですが、「なんとなく投資」を卒業するための本連載の着眼点としては悪くないと思います。
2013年の相場を乗り切った年初の感覚としては個人投資家は投資でうまく稼げた気分があって、節約意識がやや遠ざかっているかもしれません。しかし2014年はむしろ気を引き締めるべきです。運用益を取り崩して高額消費をするのも、もう数年待った方がいいと思います。
2014年1月からの譲渡益税率20%、2014年4月の消費増税8%、2015年10月予定の消費増税10%の3つの増税を乗り切ってなお、資産形成が継続できるめどを立ててからでも「ご褒美消費」は遅くありません。
(もしかすると、この1年のあいだにさらなる負担増が顕在化する可能性もあります)
節約と運用はあなたの資産形成において表裏一体のものです。ぜひ節約を運用の力に代え、さらなる資産増を目指してみてください。