「相場読み」は投資の醍醐味のひとつだが

マーケットを読む、つまり「将来は今より上がる」「将来は今より下がる」ということを判断し、投資行動を決定することは投資の面白さのひとつです。比較軸を当日中とするか、今週中とするか、今季あるいは数年など、どう設定するかだけでも判断は多様化し、検討の面白さは増します。投資の醍醐味としての「相場読み」を否定することはできません。
(筆者は会社員3,400万人が利用できる汎用的投資教育を考える立場ですが、この「面白さ」を否定し、ストイックな投資のみを至上とするのは正しい投資教育ではないと考えています)

とはいえ、「相場読み」を私は個人への投資教育に際しておススメしていません。相場読みは、普通の会社員の投資において、労多くして益少なし、あるいは労多くしてむしろ害あり、の恐れがあると考えているからです。今回は、なぜ「相場読み」をしないほうがいいのか、少し考えてみます。

理由 1:本業としての仕事を疎かにする恐れ

本業としての仕事と、投資をどう両立させるかは誰においても難しい課題のひとつです。投資経験が浅いうちは、職場で時価変動が気になり、何度もヤフーファイナンスをチェックしてしまいます。これはこれで、投資経験の浅い人が通らなければならない通過儀礼のひとつです。

しかし、普通の会社員が相場読みをやることの大きな危険性は、本業である仕事を疎かにしてしまうことです。普通の会社員は生涯賃金2億円以上を稼ぐわけですが、資産運用の収益がこれを上回る人はほとんどいないと思います。せいぜい運用で行える蓄財は数千万円程度であり、運用益に期待できる部分は最大でも半分というところでしょう(それでも年4~5%の利回りを確保し続ける必要がある)。

どちらを優先すべきかといえば、明らかに仕事です。しかし、仕事も投資も中途半端になって、人事評価もマイナス、運用もマイナスということはよくあります。相場読みに夢中になる人は、バランス感覚を持つことが必要です。

理由 2:家庭に支障が出るおそれ

次に相場読みをおすすめできない理由は、プライベートの時間や家族との時間を奪う恐れがあることです。マーケットのニュースはほとんど24時間ずっと続きます。特に為替や外国株式の情報なども収集し続けようとすれば、仕事の時間外にも相場読みの情報収集は行うことになります。

最近ではニュースウォッチだけならスマホでできるわけですが、いつもスマホとにらめっこをして、妻の話を聞いていないとか、子どもとの時間をとれない、というのはいかにも寂しい話です。しかし、投資初心者の陥りがちなトラップはそこにあります。妻に指摘されて初めて相場にハマっている自分に気がつくのです。

家族と不仲になっても相場読みを続ける必要があるのか、あるいはそこまでしなくても投資を続ける方法はないのか、一度考えてみてはどうでしょうか。

理由 3:自信と勝率は無関係

相場読みの努力も、報われるところが大きいのであれば、失うものと天秤にかけて相場読みに集中することもありでしょう。家族の不興をかっても、それ以上の運用益を得て買い物をしてあげればいいのです。

しかし、相場読みの努力が極端なパフォーマンスの改善につながることはあまり期待できません。相場読みの陥りがちな罠は、自分の予想に対する自信過剰の状態ですが、強い自信が良い成績をもたらすならファンドマネージャーも苦労しないでしょう。

また、「自分の読みが当たった」「自分の勝率は悪くない」と主張する人は多いのですが、読みが外れた回数や割合、そのときの損失額も同時に話してもらわなければ、その人の自慢話の可能性が高く注意すべきです。つまり「うまくいかなかったとき」に相場読みの努力は報われないことも考慮したいところです。

理由 4:なんとなく投資になるばかり

また、相場読みに夢中になると、投資計画を立案するより、市場の騰落で波乗りサーフィンをするほうが楽しくなってきます。これもあまりよくないことで、理詰めで相場を読む努力を続けるうちはいいのですが、フィーリングで相場の騰落に乗ろうとし始めると、「なんとなく買い」「なんとなく売る」の状態に陥ります。

フィーリングで売ったり買ったりするのはとても楽しいことです。スリルを楽しむ回数も簡単に増やせます。しかし、運用のパフォーマンスを考えると、そのつど売買の手数料を払い、譲渡益がでるたび税金を払うのは無駄なコストを積み上げることになってしまいます。

本連載は「なんとなく投資」から個人投資家のステップアップを目指しているわけですが、なんとなく相場を読むなら、読まないほうが明らかにマシです。逆説的なようですが、「未来のことは読めない」「将来のことは考えてもなおわからない」と認めてしまうほうが、なんとなく投資をするスタイルから卒業することができるのです。

相場読みに依存しない投資方法を考えよう

今あえて、「相場は読めないと考えた方がいい」と述べましたが、普通に働いている会社員(3,400万人はいる)が、相場が読めるはずがない、と考えるほうが現実的だからです(本当に3,400万人の投資家が相場を読んで合理的に投資をすれば、騰落はもっとマイルドなものになるでしょう)。

逆にいえば、普通の人は、相場読みに依存しない投資方法を考えればいいわけです。例えば投資対象を決め打ちしないことは相場読みが裏目に出たときのダメージを軽減し、予想外の好況を拾うチャンスになります。投資信託を使って国内外の株式どちらにも投資するだけも十分にその効果は期待できます。

相場観を廃して投資を続ける方法としては積み立て投資もあげられます。値下がり時期には投資を留保してしまいがちですが、定額購入を続けておくと結果として安値仕込みになり、その後の上昇相場での利益を多くできます。これは相場読みを放棄しているだけではなく、合理的な投資手法にもなります。

「全額売り」「全額買い」をせずに部分的な利益確定を行う(リバランス)のも、相場読みに依存しない方法のひとつです。全額を売るタイミングの判断はとても難しいものですが、その後も投資を継続することを前提として、十分に得られた含み益の一部を利益確定することは、合理的でもあり相場読みに依存せずに投資を行う方法です。

相場読みはとても楽しいことですから、これをまったく行うなとはいいません。もし可能なら「相場読みを楽しむ投資金額」と「相場読みに依存しない投資金額」を分けてみてもいいでしょう。もちろん、相場読みを楽しむ枠は控えめな金額設定にします。

普通の会社員は相場読みにおぼれすぎないよう、意識しておくくらいがちょうどいいと思います。何度か距離感をはかりつつ、ほどほどに相場読みを楽しめるようになるといいでしょう。

「普通の」会社員は相場読みはほどほどに