確定拠出年金導入企業がさらに増えるが…

AIJの余波、というわけではありませんが、確定拠出年金(日本版401k)導入企業が増えつつあります。昨夏に加入者400万人を突破し、今春もソニー、エーザイ、TOTOを含む多くの企業が新規採用に至っています。
今春導入した企業を加味すると加入者は440~450万人規模に達すると見込まれています。これは会社員の7人に1人が確定拠出年金で自己責任運用を行うまで普及したことを意味します。

確定拠出年金制度(企業型)は、会社の退職給付制度(退職金・企業年金)の一部として採用されるものの、会社が責任を負うのは掛金の拠出と制度運営に限定されます。運用方法はひとりひとりの従業員が自己責任で決定し、その運用成果も自己責任で負います。
企業年金は制度設計上見込んできた運用利回りをなかなか確保できない局面が続いており、積立不足の発生は、企業のコスト要因になります。厳しい国際競争が続く中、大きな負担となっており、確定拠出年金への移行が進む要因となっています。

確定拠出年金は退職給付会計上の債務認識も不要であることも大きな特徴です。退職金・企業年金の積立不足は企業の負う債務として今後より明確にすることが予定されており、従来型の退職給付制度の維持(特に積立不足の放置)が、企業の株価を押し下げる要素になっています。
確定拠出年金を採用すれば、本業とは関係のない退職給付制度の積立状況が企業評価を悪化させる要因を取り除くことができることになります。実際、上場企業ほど確定拠出年金制度の採用比率は高くなっており、これも確定拠出年金制度の普及を進める要素のひとつです。

こうした理由もあって、一般には「確定拠出年金は会社のリスクを社員に押し付けるもの」といわれます。
しかし、そういう発想は「なんとなく」形成された固定観念かもしれません。確定拠出年金制度を「なんとなく資産運用」から脱却させるため、少し考えてみましょう。

確定拠出年金は会社員にとっていいところも多い

実は、確定拠出年金制度には長所もたくさんあります。あまりメディアでは指摘されていないのですが、制度を正しく理解しておくことはとても重要です。

1 リスクを「自身の資産管理分のみ」に限定できる

従来型の企業年金制度や退職金制度は、会社というグループで世代間の支え合いをしている側面があります。公的年金と異なり、日本の企業年金は事前積立を行っていますが、積立不足が生じた場合、OB世代はこれを負わず、現役世代の生み出した売り上げからのみ補てんされます。
確定拠出年金制度は、ひとりひとりが専用口座を持ち自己責任での運用を求められますが、他世代の運用リスクを背負わされることはありません。リスクは自分の運用責任だけに限定されることになります。「世代間の支え合い」といいながら負担ばかりだと感じている若い世代にとっては、確定拠出年金はむしろメリットがあります。

1 会社の都合で減額することがほとんど不可能

従来型の企業年金制度や退職金制度は、給付減額の可能性を常に秘めています。受取見込額の退職金水準が仮に示されていたとしても、実際に受け取る直前に労使合意が成立すれば給付は減額されることがあり、広く行われています(制度によっては厚生労働省の認可を要することもある)。
OBになって年金受取を開始していても同様で、運用成績が低迷したものの業績悪化などの影響により穴埋めが困難になれば、給付の減額や制度の解散終了になる可能性があります。

確定拠出年金制度は、実はこうした減額を実施することができません。唯一減額可能なのは「勤続3年未満での退職の場合、掛金分を回収できる(運用益は不可)」ことと「来月からの新しい掛金を減らす(労使合意と厚生労働省の認可が必要)」ことだけです。
すでに積み上がっている資産については、勤続3年以上であれば手出しはまったくできません。経営が悪化しているという理由で確定拠出年金の積立金を会社が手をつけることもできませんし、OBになってからも一切手出しができません。
どんな会社も業績の悪化や倒産の可能性がある時代において確定拠出年金は、実は受給権確保に優れた仕組みになっているわけです。

メディアのニュースだけ見ていると、「確定拠出年金のいいところ」は気がつきにくいのですが、実は個人にとって有利な仕組みもあるわけです(自己責任を押しつけられた見返り、ともいえます)。

個人投資家としての確定拠出年金フル活用の仕方

それでは個人投資家が資産形成において、確定拠出年金をどのように活用すればいいか考えてみましょう。

1 手元資産と統合したポートフォリオを意識する

個人の手元資産と、確定拠出年金の資産は、統合したポートフォリオとして意識することが重要です。これは会社の投資教育や制度説明会などでは、絶対に教えてくれないことです(会社に求められているのはあくまで確定拠出年金制度の教育であるから)。

リスク資産のウエート決定も、手元資金と確定拠出年金内資金との合算で考えなければならないのは当然です。手元で預貯金を高額保有しているなら確定拠出年金内では投資信託のウエートを上げて、全体でリスクウエートをX割にする、というように考えればいいのです。会社は個人の資産状況まで気にかけた教育をしてくれませんから、しっかり自分の頭で考えることが大切です。

1 運用益非課税のメリットを活かす

確定拠出年金の最大のメリットは運用益非課税です。売却益、収益分配金などは全額受け取れ再投資できます。これは他の運用手法では得られないメリットです(受取時に課税されるが老齢時の課税率は低く抑えられる)。もちろん売却損が出たときは確定拠出年金であろうとなかろうと課税はありません。

となると、期待リターンの高い商品については確定拠出年金内で優先的に保有し、高利回りの実現時にはその全額を享受するほうが運用の選択肢として合理的です。先ほど述べた、自分の資産全体のポートフォリオマネジメントをする中で、確定拠出年金内運用を意識していくわけです。

確定拠出年金で提示される投資信託は、銀行窓販等と比して信託報酬が低いことも多く、これも手取りの運用益を押し上げる要因になりえます。その点でも確定拠出年金内の投資信託活用には大きな妙味があります。

3 投信による長期積立投資向きの運用戦略を構築する

確定拠出年金の難点のひとつに、原則60歳以降でなければ解約できないことがあります。また投資信託を中心とした運用になり売買指図もリアルタイムで反映されません。また売却代金の受け渡しが完了しないと次の購入が行われないため、投信から投信の売買については1週間ほどかかることもあります。
こうした特性は、短期的には改善は難しく、むしろ逆に活かしてみる方法を考えたいところです。

まず、確定拠出年金の枠は老後資産形成枠と考えていくといいでしょう。もともと退職金ですし、資産形成が疎かになりがちな部分ですので、意識的に老後資産形成を進めるいいきっかけになると思います。
また、売買頻度は落とし、毎月の追加入金をベースに長期保有していくことを運用戦略としたほうが確定拠出年金は効率的です。となると、インデックス型の投資信託を組み合わせたポートフォリオにして、運用見直しの頻度も下げるアプローチが考えられます。
機動性のある売買を行いたい場合は手元資金での運用で枠を設けるといいでしょう。

いずれにせよ、「企業年金」の枠で確定拠出年金を考えるのではなく、「個人の資産形成」の枠に確定拠出年金という口座もある、と考えるといいと思います。

確定拠出年金の運用テクニックについてはまだお話しできることがありますので、今後も機会があれば取り上げていきたいと思います。

なお、マッチング拠出として本人が追加掛金を入金できる仕組みを採用している場合の注意点については「確定拠出年金のマッチング拠出が利用できるなら最大限使おう」も参照してください。

確定拠出年金はリスクの押しつけだけではない

個人投資家ならではの確定拠出年金の活用