確定拠出年金のマッチング拠出が始まる

2012年1月から、企業型の確定拠出年金(日本版401k)に大きな制度改革がありました。それはマッチング拠出の容認です。

マッチング拠出とは、従来は会社のみが負担していた確定拠出年金の掛金について、従業員自身も追加入金ができるようになるものです。企業型の確定拠出年金は、会社の退職金や企業年金がベースになっていたため、掛金負担できるのは会社だけでした。しかし税制上のメリットはとても大きいものがあり、ここに個人ベースで掛金を追加入金できることへの期待がありました。

麻生内閣の頃、2008年10月の追加経済対策としてマッチング拠出の実施が掲げられ、2011年8月にようやく、その法律が通りました。そして、2012年1月から順次マッチング拠出が実施されることになったわけです。

確定拠出年金制度はすでにスタートして10年を経過、410万人が利用しています。会社員の母数が約3,300万人ですから、8人に1人の会社員が利用している計算です。大企業も中小企業も利用の多い点に特徴があります。

筆者の一番専門は確定拠出年金なのですが、皆さんの会社ですでに確定拠出年金が実施されており、今後マッチング拠出を利用できるようになった場合、運用方針にどのように位置づけていけばいいかポイントをまとめてみます。

会社員にとっては垂涎の税制メリット!

まず、制度上のメリットです。確定拠出年金は資産運用をする人にとって垂涎の税制メリットが用意されています。

まず、「自分の老後のために拠出した全額」を所得控除されます。つまり非課税ということです。積み立てたお金は自分の老後のためにのみ管理・運用され将来受け取れますので、これほどおいしいことはありません。仮に税率10%相当としても、最初から11%の運用益を得ているようなものだからです。

また、「確定拠出年金資産にかかる運用益のすべて」が非課税になります。確定拠出年金では定期預金、保険(定期預金に類似した商品)、投資信託などが運用の選択肢ですが、定期預金(保険)の利息収入、投資信託の売却益、投資信託の収益分配金のいずれもが非課税で全額手元に残ることになります。定期預金の利息がいかにわずかであっても、証券税制優遇があったとしても、課税されることを思えば、これほどありがたい話はありません。これは確定拠出年金が老後資産形成を支援する制度であるからです。

その他、受取時は退職金や企業年金に準じた税制優遇が受けられます。会社が負担したわけでもない、自分で負担したお金についても「退職所得控除」の対象に合算して計算することが認められます(一時金受取の場合)。普通の会社員であれば非課税で全額受け取れるか、課税されてもごくわずかですむほどの非課税枠です。

試しに試算をしてみます。ケースAは1万円の所得に10%の税金を引かれた後運用開始、運用部分の50%は定期預金とし年利0.5%は20%課税されたとします。投資信託で運用した50%は収益分配金も含めた運用益が年2.5%であったとして、本則の20%課税であったとします。ケースBは1万円の所得をマッチング拠出し、非課税のまま運用、運用益も非課税であった例です。どちらも30年続けてみます。

違いは一目瞭然で、ケースAが390万円のところ、ケースBは454万円まで資産が成長します。投資信託について長期保有をし続け、売却益への課税は60歳時点のみとすれば、Aのケースの受取額が若干高まりますが、それでも大勢には影響しないほどの差が出ます。運用条件は同一ですから、課税の有無だけで50万円の差がついたことになります。

資産運用経験者としては、確定拠出年金がうらやましくなってきます。

マッチング拠出利用の注意点

ただし、このマッチング拠出にも利用の条件があります。

第1に、会社がマッチング導入を決定した場合にのみ利用できるということです。
マッチング拠出が可能かどうかは、企業型確定拠出年金を実施する会社が判断します。マッチング拠出を認めない場合もあります。もし労働組合に意見を述べられるのであれば「会社にマッチング拠出導入をリクエストすべきだ」と声をあげてみると実現するかもしれません。

第2に、拠出金額には制約があるということです。
もともと確定拠出年金には毎月51,000円という制限があります(他に厚生年金基金、確定給付企業年金など企業年金を併用している場合、半分の25,500円)。会社掛金と本人掛金の合計でこの51,000円を超えることはできません。仮に会社が35,000円出している状態であれば、本人が出せるマッチング枠は16,000円までです。
また、会社の掛金より多くマッチングすることはできません。会社が15,000円であった場合は、51,000円との差額(36,000円)ではなく、15,000円が上限になります。

第3に、中途解約は原則不可能ということです。
確定拠出年金の税制優遇は老後の生活使途に用いることで認められているものです。そのため、60歳にならなくては受け取れないのが原則となっています。つまり、子の教育資金や日常生活費の不足のために取り崩すようなことができないのです。

強力な税制優遇は、やはり何らかの利用制限がなければ受けられない、というわけです。その他、会社ごとに「1,000円単位で指定」とか「毎年度X月にのみ受付」といったようなルールを設定した場合は、それに従わなければなりません。これは会社の説明資料でチェックしてみてください。

使えるなら可能な限り使うのがベスト!

制約は気になるものの、「利用できる人は利用しないと損!」といえるのがマッチング拠出です。税制優遇はきわめて強力であり、会社員が運用しながら節税するチャンスはほとんどありません。しかも自分の老後のためにお金を貯めたら節税できるのですから、これを利用しない手はありません。

老後のために取り崩さない予定で積み立てているお金があれば、そのままマッチングに移すのが一番いいやり方でしょう。
今まで老後のために貯金していなかったという人も、これをいい機会としてマッチングを利用し、無理のない範囲で積立をスタートしてみてください。

まだ法律が施行されたばかりで、マッチング拠出できる会社は多くありません。しかし、今年の春や来年の春以降、企業型確定拠出年金を導入している企業ではマッチング利用可能になる会社が増えてきます。
あるいは、新規に確定拠出年金を導入する際、「希望者はマッチングもできる」とする企業が出てきます。

資産運用のお金ですから、有利なところに置くほうがいいのは当然です。マッチング拠出について、ぜひ覚えておいてください。

ところで、確定拠出年金の税制メリットをそのまま個人ベースで利用できる「個人型確定拠出年金」というものもあります。所得控除、運用益非課税はそのまま利用できます。

残念ながら執筆時点では楽天証券では取り扱いがないのですが(ぜひ取り扱いをしていただきたい!)、興味のある人は「個人型 確定拠出年金 比較」などのキーワードで調べてみてください。

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マッチング拠出活用のポイント