国内商品先物銘柄の値動きを追う上で「海外市場」の存在から目を離すことはできません。
今回は、世界の商品市場のメイン市場である「ドル建て」市場と、国内商品先物市場の「円建て」市場の動きの関係について触れてみたと思います。
例えば、同じ金(ゴールド)でも日本では「円」で、中国では「元」で、欧州では「ユーロ」、英国では「ポンド」など、商品は同じでも取引される際の通貨が異なるケースはあたりまえのようにあります。それぞれの金を「円建て(えんだて)」「元建て」「ユーロ建て」「ポンド建て」と呼びます。
その中で、「ドル」については、やはりドルが現在の世界の基軸通貨であると認知されている以上、(金に限らず)「ドル建て」の商品の値動きは、他の通貨建ての同じ商品の値動きの指標になる傾向があります。
つまり、国内商品先物銘柄の中で金や原油やトウモロコシなどの国際商品の値動きは、多くの場合において同じ商品の「ドル建て」価格を映しているということです。
売買が少ない中突如大きな注文が出る、納会絡みで突飛な動きとなる、海外市場が休場、などの例外的な場合を除き、「円建て」は上記の立場を維持するものと考えられます。
ただ、ここで1つ、大きな留意点があります。それは、「ドル建て」と「円建て」では通貨が異なるため、(この場合はドルと円)2つの通貨の強弱が、「ドル建て商品」と「円建て商品」の値動きに影響を及ぼします。
“影響を及ぼす”とは、基本的には円建てはドル建てに追随するものの、ドル円の動きによって時には、円建てが“ドル建てよりも大きく上昇”、“ドル建てよりも大きく下落”、“ドル建ては上昇したが円建ては下落”、“ドル建ては動かないが円建ては動いた”・・・など、強弱に差が生じることがままにあり得ます。
これらのことを言い換えれば、以下のとおりとなります。
- 基本的には「ドル建て金」の値動きは「円建て金」の値動きの指標である。
(「円建て金」は「ドル建て金」を主とし、従属的な立場にある)
- 「ドル円」の動きは、異なる2つの通貨建ての金の主従関係に差をもたらす。
(この場合の“差”とは、円建て金において、円安が強含み要因、円高が弱含み要因となること)
“ドル建てを主とした、ドル建て・円建ての主従関係にドル円が強弱を加える”とすることができそうです。
以下は、2008年から2017年5月までの「ドル建て金」と「円建て金」の値動きです。
図:ドル建て金・円建て金の価格推移 (四半期終値)
ドル建て(右軸) 単位:ドル/トロイオンス
円建て(左軸) 単位:円/グラム
同じ金でも、2つの異なる通貨建ての金が同じように動いている時もあれば、2014年後半から2015年初めにかけて見られたような方向性が異なる動きとなることもあります。
では、このグラフに主従関係に強弱を加えるとした「ドル円」を加えた上で、2つの金とドル円の動きについて、いくつかのケースに分けてみたいと思います。
図:ドル建て金・円建て金およびドル円の推移 (四半期平均)
ドル建て(右軸) 単位:ドル/トロイオンス
円建て(左軸) 単位:円/グラム
ドル円 (下)単位:円/ドル
上記のケースを分類すると以下のとおりとなります。
- ドル建て追随型・・・円建ては、基本路線であるドル建て追随を維持。ドル建て上昇時、ドル円が円高に進めばドル建てほど上昇せず。ドル建て下落時、ドル円が円安に進めばドル建てほど下落せず。(ドル円が動かない場合を含む)
- 相殺型・・・円建ては、ドル建ての上昇(下落)・ドル円の円高(円安)の強弱両方の材料により、ほぼ横ばい。
- 主従相反型・・・円建ては、ドル建てが上昇(下落)しているものの、ドル円が大きく円高(円安)に動いているため、基本路線のドル建て追随とならず、ドル円の動きに従い下落(上昇)。
- ドル円追随型・・・円建ては、基本路線であるドル建てが動かないため、変動要因をドル円に求め、円安(円高)であれば上昇(下落)。
- ドル円拍車型・・・円建ては、基本路線であるドル建て追随を維持。ドル建て上昇(下落)時、ドル円が円安(円高)に振れることで、ドル建ての振れ幅よりも円建ての振れ幅が拡大。
メインシナリオは、①の円建てはドル建てに追随するとする基本路線を踏襲した“ドル建て追随型”ですが、ドル建てが動かない、ドル円の動きが大きいなどの場合、②③④⑤の型となる場合もあります。
これらの5つの筆者が考える型を、以下の換算表にあてはめてみたいと思います。
図:換算表
計算方法 : 円建て価格 = ドル建て価格 × ドル円 ÷ 31.1035
例)4,501円 = 1,250.0ドル × 112.0円 ÷ 31.1035
※31.105 = ドル建て金の重量の単位であるトロイオンスを円建て金の重量の単位であるグラムに換算する際の値。1トロイオンス = 31.1035グラム
※表内の円建て価格はあくまでの上記の式に基づいて作成した計算上の値であり、将来の価格を予想するものではありません。
上記の換算表を元に、4,501円を「0円」とした表に置きなおした上で、5つのパターンのイメージを記したいと思います。
①ドル建て追随型の換算表のイメージ
円建ては、基本路線であるドル建て追随を維持。ドル建て上昇時、ドル円が円高に進めばドル建てほど上昇せず。ドル建て下落時、ドル円が円安に進めばドル建てほど下落せず。(ドル円が動かない場合を含む)
②相殺型のイメージ
円建ては、ドル建ての上昇(下落)・ドル円の円高(円安)の強弱両方の材料により、ほぼ横ばい。
③主従相反型のイメージ
円建ては、ドル建てが上昇(下落)しているものの、ドル円が大きく円高(円安)に動いているため、基本路線のドル建て追随とならず、ドル円の動きに従い下落(上昇)。
④ドル円追随型のイメージ
円建ては、基本路線であるドル建てが動かないため、変動要因をドル円に求め、円安(円高)であれば上昇(下落)。
⑤ドル円拍車型のイメージ
円建ては、基本路線であるドル建て追随を維持。ドル建て上昇(下落)時、ドル円が円安(円高)に振れることで、ドル建ての振れ幅よりも円建ての振れ幅が拡大。
以上のようなイメージとなるかと思われます。
円建て金の値動きに注目する際は、主となる「ドル建て金」と主従関係に影響を及ぼす「ドル円」の両方の動きに注目する必要があります。円建て金、そしてドル建て金とドル円に着目の上、その時“どの型”で円建て金価格が推移しているのか?を知ることで、その後の円建て金価格の推移を想像しやすくなるものと思います。
※レポート内の換算表はあくまでも本文中の式に基づいて作成した計算上の値であり、将来の価格を予想するものではありません。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。