今日の為替ウォーキング
今日の一言
頭を使って正しく投資をすれば、金が自動的に金を生む。それが投資の面白さだ – ジム・ロジャース
Uptown Girl
日銀が利上げしたくない理由
「インフレ期待」とは、物価の行方を人びとがどう見るかの予想だ。インフレ期待が安定しているときは、物価の上昇が続かないと予想する人が多く、物価上昇の抑制効果がある。しかし、インフレ期待が不安定になると、物価の上昇が続くと考える人が多くなり、買い占めや売り惜しみ、あるいは賃上げ要求といった行動が発生しやすく、現実の物価を押し上げ加速させることになる。
中央銀行の仕事は、金利を調節することによってインフレ期待を安定させ、物価高との悪循環を防ぐことだ。まさに今、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が行っていることである。
FRBは1年間で述べ5%を超える利上げを続けたことで、ようやくインフレ率をピーク時の半分まで下げることはできた。それでも、インフレ率は依然としてFRBの目標値2%より高い水準にとどまっている。FRBがこのまま引締め政策を続けるなら、いずれかの時点で米経済が高金利に耐えられなくなり、深刻な景気後退が発生するリスクがある。中期サイクルのなかでの金利調整。それが、FRB利下げの理由だと説明されている。景気刺激のための利下げとは目的が違うのだ。
世界の中央銀行にとって、インフレ期待の不安定化は悪夢でしかない。しかし、日銀だけはそうなることを望んできたのだ。日銀は何十年もの間、インフレ期待を刺激することに全力を注いできた。円安を煽って輸入インフレに火をつけ、物価上昇を長く経験させることで、日本人にインフレ期待を形成させようとしてきた。その甲斐あって、ついに日銀はインフレの離陸に成功した。日本の消費者のインフレ期待は急激に上昇している。
日本のインフレはこれからどうなるのか。植田日銀総裁は「長期的に2%のインフレ目標が達成されたなら、インフレ予想も大体2%におさまる」と楽観的だ。物価目標を達成した暁には日銀は政策正常化するので、インフレが暴走することはないと考えている。しかしインフレが都合よく2%で止まるはずないのは、他国の例で明らかだ。
もっとも、日銀は利上げしたくても、絶対にできない理由がある。金利が上昇した場合の利払い費負担が国の財政運営にとって重大なリスクとなるからだ。将来税収で返済する必要がある国の長期債務残高、いわゆる「国の借金」は2023年12月末時点で1,286兆4,520億円だったと財務省が発表した。国民1人あたりで単純計算すると1,000万円を超える。債務残高はここ10年で1.5倍に急増した。日銀が利上げによってインフレを抑制することは、実質不可能な状態になっているのだ。
金利が上昇した場合の利払い費負担が財政運営にとって重大なリスクとなる。日銀が利上げによって円安を抑える、あるいはインフレを抑制することは、ほぼ不可能な状態になっているのだ。逆に言えば、日本経済にインフレを定着させることができれば、政府債務負担が実質的に軽減されることになって、財政の持続可能性がかなり改善することが期待できる。つまり日銀にとっての「正しい政策」とは、低金利をできるだけ継続してインフレ率をできるだけ高くすることである。財務省による為替介入は、円安の是正というよりスピード違反の取り締まりであり、真の目的は円安の長期定着である。したがって、日銀は利上げせず、円安も止まらず、日本のインフレはさらに高くなるのだ。
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