東証上場企業のEPSを増加させるドライバー

 EPS(一株当たり利益)を増加させるドライバーが三つあります。【1】海外での利益成長、【2】インフレ、【3】自社株買いです。この三つを合わせて、EPSは年率平均5.9%増加すると予想しています。それが5年続くと、EPSは33.2%増加します。

東証上場企業のEPS増加要因

出所:楽天証券経済研究所予想

【1】海外事業による利益成長:年率寄与度(予想)2.2%

「人口が減少する日本の株は魅力がない」と言う人がいます。もし、日本企業が日本国内だけでビジネスを行っているのならばその通りですが、実際には日本企業は人口が増加するアジアや米国などで幅広くビジネスをやっています。これからも巨額M&Aで海外企業の買収を積極的に進めていくと思います。
 日本企業の海外事業の成長が、東証上場企業のEPSを年率2.2%増加させると予想しています。

【2】インフレ(CPI総合指数の上昇率):年率寄与度(予想)2.4%

 日本のインフレ復活が、日本の企業業績・株価を上昇させる要因となります。日本企業は長年にわたり、ゼロ・インフレに苦しんできましたが、日本にも今後2%台のインフレが定着すると予想しています。インフレ定着は国民生活にとってネガティブですが、企業業績・株価にとっては追い風となります。

日米の総合インフレ率(CPI総合指数の前年比上昇率)比較:2020年1月~2024年9月

出所:総務省および米労働省より楽天証券経済研究所が作成

「インフレ率が高いとなぜ株が上がるの?」と今一つ理解できない方のために説明すると、「インフレ率が高くなると、企業の売上高が大きくなる→名目GDP(国内総生産)の伸びが高くなる→税収が過去最高に拡大する→株価も上がる」ということです。以下、名目GDPの伸び率が高まっていることをご覧ください。

日本の名目GDP成長率:1981年~2023年(実績)・24年(予想)・25年(予想)

出所:IMFより作成

【3】自社株買い:年率寄与度1.2%

 東証上場企業は、毎年約10~12兆円の自社株買いを実施すると予想しています。自社株買いによって、毎年EPSが約1.2%増加します。

 12兆円の自社株買いをやると、発行済み株式数が平均で約1.2%減少します。発行済み株式総数が約1.2%減少するので、利益総額が変わらないでも、EPSは約1.2%増加します。

 日本企業は、米国企業に比べて、これまで自社株買いに積極的ではありませんでした。それは日米のカルチャーの違いもあります。日本企業は、経営危機になった時でも従業員を解雇せずに生き延びられるように財務余力を残そうとする傾向があるからです。めいっぱい自社株買いをして株価を上昇させて、経営危機になったら簡単に破綻する米国企業とは異なります。そのカルチャーは簡単には変わらないと思います。

 ただし、日本企業の財務的ゆとりがかなり大きくなったにもかかわらず、自社株買いをやらないために株価低迷が続き、PBR1倍割れ企業が半数を超える状況が続いています。この現状を憂慮して、東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して株主価値改善策の開示・実施を要請したことが、話題になっています。

 こうした変化を受けて、今後は日本企業でも年間12兆円くらいの自社株買いが行われるようになると予想しています。12兆円は控えめの見通しです。実際にはもっと自社株買いは増える可能性があります。ただし、日本企業の経営者が経営危機に備えて財務余力を温存しようとするカルチャー自体は変わらないと思います。そういう中で、年間12兆円くらいの自社株買いと予想しました。