今日の為替ウォーキング
今日の一言
来るものは最大限に利用し、去るものは最小限に関わる
Will You Still Love Me Tomorrow?
米雇用統計ではNFP(非農業部門雇用者数)はもちろん重要だが、それ以前の問題として、果たしてその数字が正確なのかということがある。7月と8月NFPは、合計で予想に比べて8.3万人少なかったが、9月は逆に予想より12.4万人も多かった。このようにブレが非常に大きいのだ。
数ある経済データの中でもトップランクに位置する重要指標である雇用統計は、FRBの政策決定に非常に大きな影響を持っている。そしてFRBの政策はECB(欧州中央銀行)や日銀など世界の中央銀行に影響を与える。おおげさに言えば、雇用統計が不正確であるために、世界の金融市場が間違った方向に進むリスクがあるのだ。
雇用統計の精度が低い原因はいくつかある。まず、BLS(米労働省)の雇用者増加数の季節調整モデルが、雇用市場の構造変化に対応できていないことだ。例えば、これまで1月の雇用者は、前年末のクリスマス商戦の反動で減少するのがパターンだった。しかし、新型コロナ流行後は、そのような季節性を無視して雇用者が急増するようになっている。
また、データ数が少ないこともある。米国の重要な経済指標の多くはアンケート調査に基づいている。一般に、家計調査の回答率が60%を下回るとそのデータの信頼性は低くなるといわれるが、雇用に関する企業の回答率は新型コロナ流行の時期に大きく下がり(ロックダウンの期間中にわざわざ出勤してアンケートに回答しようとする社員が少なかったため)、40%程度しかない。また、統計には副業やスタートアップの小さい会社の雇用状況も正確に反映されていない。
回答率が低いだけではなく、データが存続している事業所のものに偏っていることも問題だ。倒産企業からのデータがほとんど得られないことで、実態よりも失業者は少なく、就業者は多い結果になるのは当然だ。そのため雇用市場の本当の弱点が見過ごされてきたおそれがある。
BLS(米労働省)は今年の8月、2023年4月から2024年3月までの雇用者数が81万8000人程度の下方修正になったと公表した。月ベースでは約6.8万人少なくなる計算だ。つまり、雇用統計の不正確性とは、「実勢よりも多めに計上されている」ことにあるのだ。これは雇用者数が予想よりも多くても割り引いて考えた方が良いということであり、逆に少ない場合には、雇用市場が予想以上に悪化しているということになる。雇用市場の過熱状態はすでに消えているのに、FRB(米連邦準備制度理事会)のデータ重視政策が利下げ判断のタイミングを誤らせた可能性もある。