米大統領・議会選挙への思惑

 いよいよ11月5日には米大統領・議会選挙の投票日を迎えます。足元では、トランプ、ハリス両候補のどちらが勝つかの賭け市場で、トランプ氏が急速に優勢になりつつあると報じられています(図3)。議会選挙で民主党と共和党のどちらが勝つかの賭けは、少なくとも上院はトランプ候補と同じ共和党が優勢です。

図3:米大統領選挙掛け率(クリア・ポリティクス)

出所:Bloomberg

 このため、市場では、トランプ共和党政権返り咲きで、議会も両院を共和党が押さえる「トリプルレッド」を見越した投資・トレードが目立ち始めました。

 トランプ氏がより財政積極的であること、たとえ議会の優勢政党とねじれが生じても実現可能な関税の増税(むしろ、ねじれが生じると可能性が高まる)で、債券金利が上昇しています。それで株安になると、トランプ勝利を織り込む金利高が嫌気され…と解説され、株高になると、そもそもトランプ政権の方が株にはプラスと解説されるでしょう。要は、相場追認でどうとでも説明されるのです。

 過去数回の大統領選挙を振り返ると、世論調査も賭け市場も当てになりにくいほど、僅差の勝負になっています。実際、ふたを開けたら、どんでん返しという結果を何度も見せられました。

 このため、筆者は、せいぜい51対49という誤差ほどの違いで、トランプ候補が優勢かも…という柔軟姿勢で開票に臨む構えでいます。また、投資スタンスも、トランプ相場へ肩入れするよりは、期待の対象が異なるAI銘柄を軸に年末ラリーの可能性を追求する方が勝算を測りやすいと考えています。

 政策の実現性についても、トランプ氏の公約で可能な範囲を絞り、議会のねじれ、制度や国際関係の制約、マクロ経済動向から見極めればよいという目線です。また、もしトランプ候補が負けた場合、民主主義システムの信認が揺らぐような混乱がないかも、頭に入れています。

FOMCも気迷っている

 11月7日(日本時間8日午前4時)には、FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果が公表されます。市場は10月22日時点で、0.25%利下げを89%織り込んでいます。その後の利下げの織り込みは、12月60~70%ほど、2025年中には4回弱となっています(図4)。

図4:市場が織り込む米政策金利

出所:Bloomberg

 もっとも、利下げの織り込み具合も、FRB(米連邦準備制度理事会)のスタンスも、今後容易に変わる可能性を踏まえて臨む必要があります。今年だけでも3~4カ月ごとに、景気の強弱感、FRBのタカ・ハト観、そして、株のブル・ベア観がころころ変転してきたのです。

 FRB当局者も気迷っているさなかであることは疑いありません。8月に雇用統計が弱振れ過ぎて、9月には予防的に0.5%大幅利下げを敢行したものの、直後の10月公表の雇用統計が強振れ過ぎて、面食らっているはずです。金融政策はデータ次第と柔軟姿勢をとってきたけれども、3~4カ月ごとにスタンスの転換を余儀なくされ、彼らも確信的な判断は言い難い状況です。

 10月の雇用統計を素直に読みとれば、11月には利下げをパスする可能性すらも排除はできないと考えます。しかし、インフレ鈍化が進む中、高すぎる金利を修正する予防的措置について、0.25%利下げでスタンスの継続性を示すことは一理あります。

 おそらく、パウエル議長はFOMC後会見で、0.25%利下げをすれば、データを慎重に見ていくとしてハト調を抑制気味にし、万一利下げ見送りとなれば、発言自体はハト調をにじませて、市場の臆測がいたずらに傾かないよう配慮を見せると想定します。

相場対応

 論点をまとめます。経済指標については、事前予想が相場に波風立てるものでなくても、結果のサプライズの波紋に留意が必要です。

 決算についてはすでに発表が集中する週に入っていますが、決算ギャンブルのテクニカルリスクには留意します。

 米大統領・議会選挙への思惑に基づく対応は、投資家個々の考え方、スタンスの問題ですが、筆者は、ねじれ無しの場合の政策動向を念頭に置きつつ、結果を確認してからの対応、あるいは、期待の対象が異なるAIなどのテーマへの集中を基本と考えています。

 FOMCもまた気迷いがある以上、波風立てることはないとみますが、万一利上げ見送りサプライズとなる場合は、パウエル議長が会見で手厚くフォローするとみています。

 全体として、年末ラリーを追求する中で、相場地合いのベースは景況感のしっかり度で見つつ、イベントの結果のかく乱リスクを常に留意して臨むのが基本です。最近の米株が上げも下げも速いのは、投資家にも気迷いがあり、買い遅れ焦燥も、上がった後のはしご外し警戒も強く現れやすい面があるからと言えます。大手を振って一方向の相場を追求できない、神経質なステージでないことを踏まえて構えます。

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