7月後半からの円高は一服、米景気鈍化懸念がFOMC後に後退

 9月17~18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では市場の予想通りとはいえ、0.50%の大幅利下げが決定されました。この直後にドルが売られ、1ドル=140円台半ばへと円高に傾きましたが、その後FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の記者会見を受けて、1ドル=142円台後半へとドルは反発しました。

 また、19~20日の日本銀行の金融政策決定会合では政策金利は据え置かれましたが、植田和男総裁の記者会見を受けて、1ドル=144円台半ばまで円安となりました。

 その後は1ドル=143円、144円台の動きとなっています。一連の動きで1ドル=140円近辺が底堅くなり、7月後半からの円高は取りあえず一服したようです。

 FOMC前には、メディアの観測記事や前ニューヨーク連邦準備銀行総裁の0.50%利下げ示唆発言によって、一時1ドル=140円割れのドル安円高となりました。この動きによって0.50%利下げがかなり織り込まれたため、FOMCで実際に0.50%の利下げ決定となっても、再び1ドル=140円を割る円高にはなりませんでした。

 そして、パウエル議長がFOMC後の記者会見で「0.50%利下げが今後継続するペースだと想定すべきではない」、「今後の利下げペースは急がない」と発言すると、米金利の下げ幅縮小とともにドルは1ドル=142円台後半へ反発しました。

 ドル反発の背景には、FOMCの経済・金利見通しで2024年末までの利下げが0.50%と市場予想より利下げ幅が小さかったことや、2024年の実質GDP(国内総生産)見通しが、前回6月時点の2.1%から2.0%に下方修正されたものの、修正幅は0.1%と小さく、2025年、2026年の予想は2.0%で修正が全くなかったこともあるようです。

 この見通しによって景気鈍化懸念が後退し、株高、金利上昇、ドル高となったようです。また、0.50%の大幅利下げによるハト派色を、利下げペースは急がないとの発言によって弱め、景気はそれほど悪くないとの安心感を市場に与えたようです。

日銀は追加利上げに前向きトーンから慎重姿勢、円安に傾く

 一方、日銀の植田総裁は前回7月の会合では、政策金利について「0.50%を壁として特に意識していない」と追加利上げに前向きなトーンでしたが、今回は追加利上げ時期を慎重に見極める考えを示しました。

 植田総裁は9月会合後の記者会見で、「経済・物価見通しが想定通りなら少しずつ利上げをしていく姿勢に変わりはない」ことを強調しましたが、一方で、7月会合後の円高進行によって「物価が上振れするリスクは減少している。政策判断には時間的な余裕がある」と述べ、追加利上げを急がない考えを示しました。

 同時に「米国経済の先行きは不透明で、金融市場も不安定な状況にある。当面、これらの動向を極めて高い緊張感で注視する」との考えを示しました。追加利上げについて7月の前向きトーンから慎重姿勢に大きく変わったことを市場に印象付ける内容であったため、次回10月利上げ期待は後退し、円安が進行しました。

 利下げは急がないと記者会見で強調したパウエル議長と利上げに慎重姿勢を示した植田総裁によって、日米金利差縮小期待が7月から大きく後退し、縮小ペースが鈍くなるとの思惑からドルは買い戻され円安に動いています。

1ドル=145円の円安まで振れないのはなぜ?米景気に市場は確信持てず

 しかし、ドル買い戻しの勢いは1ドル=145円が近づくにつれて鈍くなり、150円には届いていない状況です。

 その背景として本邦大手輸出企業の社内レートが1ドル=145円近辺であることも影響しているのかもしれません。1ドル=160円だと、社内レートから大きく円安になっているため安心して相場を見ることができたのですが、わずか2カ月で約20円も円高に動き、しかも一時1ドル=140円を割る円高になった動きを見ています。1ドル=145円に近づくとやれやれの安心感からドル売りヘッジの為替予約をしてくることが予想されます。そのことがドルの上値を重たくしているようです。

 そして、ドルが1ドル=145円を超えて150円方向になかなか行かないのは、米国景気動向や米国利下げペースについて、市場はまだ確信していないからかもしれません。