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著者の白石 定之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 [動画で解説]米就業者数、実は前年比マイナス!?FRBは後手後手、株価はどうなる?」
家計調査の就業者数は前年比マイナス、FRBは後手に回った?
大注目の米国雇用統計における非農業部門雇用者数の発表が9月7日にありました。8月の速報値は14万2,000人の増加で、市場予想は下回りましたが、2桁の増加という結果になりました。
ただ、この非農業部門雇用者数の速報値については、毎回のようにのちに下方修正されているので、私自身、この速報値について論じること自体、正直意味があるのかと思っています。
今回の発表においても、先月の7月分は2万5,000人の下方修正がされ、ほとんど報道されていない先々月の6月分においては、なんと6万1,000人もの下方修正がされているという状況です。
私は、多くの人が注目している非農業部門雇用者数ではなく、ほとんど注目されていない家計調査の就業者数のほうを重視していますが、こちらのほうでは、実は1年前に比べてマイナスという、大きな景気後退に陥ったときにしか出ていないものが、今月しれっと出ています。
加えて、過去においては、この就業者数がマイナスに転じる前に、FRB(米連邦準備制度理事会)は何回か利下げをしているのですが、今回は利下げはまだしておらず、高い金利水準を続けているという、過去と比較してFRBは後手に回っているように見える状況にあります。
そこで今回、非農業部門雇用者数の下方修正の状況、家計調査における就業者数と米国政策金利の関係、それを踏まえて今後の株式市場をどのようにみているのかについて、お伝えをしていきたいと思います。
就業者数マイナス転換後も高金利政策を続けるFRB
まず、今年に入ってからの事業所調査における非農業部門雇用者数は次のとおりとなっています。
(表1)米国労働省 非農業部門雇用者数の推移
表を見ると、下方修正が繰り返されていることは一目瞭然で、1カ月後の改定値では平均3万3,286人、2カ月後の確定値では平均2万2,000人、最終的に、速報値と確定値では平均5万6,667人もの下方修正がされている状況にあります。
さらに、8月21日に米国労働省は、2023年4月から2024年3月までの1年間の非農業部門雇用者数について、81万8,000人もの下方修正の発表をしているというありさまで、もう投資家からすると何を信じたらよいのかという状況です。
このような状況なので、私は、家計調査の就業者数のほうを重視しているのですが、2000年からの前年比増減率の推移をみると、次のようになっています。
(グラフ1)米国労働省 家計調査における就業者数の前年比増減率
グラフにおける赤矢印は、就業者数が前年比でマイナス転換した時期を示したものです。2023年8月の就業者数が1億6,150万人であったのに対して、2024年8月は1億6,143万4,000人となり、前年比でマイナスに転じました。
この前年比でマイナスに転じたタイミングは、過去を振り返ってみると、2001年6月のITバブル崩壊時、2008年3月のリーマンショック前、2020年3月のコロナショック時と、景気が大幅に悪化したときにしか出ておらず、それが今回出たということになります。
次に、この就業者数が前年比でマイナスに転じたタイミングと米国の政策金利との関係をみると、次のようになっています。
(グラフ2)米国政策金利の推移
グラフをみると、過去において、就業者数がマイナス転換した時期は、すでにFRBが何回か政策金利を引き下げている局面であることが見て取れます。
しかし、今回においては、就業者数がマイナスに転じた現在も高い金利水準を続けている状態で、このグラフからもFRBは後手に回っているといえます。
コロナウイルス感染症拡大により通常時とは異なる状況だったというのはありますが、FRBは2022年に利上げを実行する前は「物価の上昇は一時的だ」と言い続け、その結果消費者物価が9%台にまでなるインフレを招いてしまいました。それにより、2022年3月から急激に利上げをするという後手後手の対応をする形になったと私は認識しています。
そして、今回の利下げ局面においても、後手後手になった感は否めないのではないかと私は考えています。
では、そのことによる株式市場への影響ですが、コロナショックという特殊要因があった2020年3月を除いて、2001年6月、2008年3月を見ると、ともに就業者数がマイナスに転じる前からすでに下げていて、転じた後もさらに下落していっています。
このため、今回も過去と同じように株式の大幅下落が起こる可能性もありますが、そうならない可能性も一方ではあると考えています。
ここが難しいところなのですが、まず過去においては、就業者数がマイナスに転じる前から株価は下落していたのに、なぜ今回は下落していないのかという点について考えてみたいと思います。