米ISM製造業景況指数悪化、1ドル=145円前後まで円高ドル安進む

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長がジャクソンホール会議の講演(8月23日)で、「政策調整の時が来た」と発言しました。この発言を受けて、市場の利下げ期待が高まり、ドル/円は1ドル=143円台まで円高に行きました。

 しかし、その後、米経済指標の好結果を受けて、米景気のソフトランディング(軟着陸)期待が強まり、株高、ドル高となりました。

 29日発表の米2024年4-6月期GDP(国内総生産)改定値(2.8%→3.0%)は個人消費(2.3%→2.9%)とともに速報値から上方修正されました。また同日に発表された失業保険申請件数は減少。そして、30日にはFRBが注目する物価指標、7月PCE(個人消費支出)デフレーターが発表されましたが、ほぼ予想通りの内容でした。7月個人消費支出が前月を上回ったことから米景気のソフトランディング期待が高まりました。

 さらに30日には、8月のミシガン大学消費者信頼感指数の確報値が上方修正され、1年後のインフレ期待は2.8%と7月の2.9%から低下し、2020年12月以来の低水準となりました。それにより、過熱も冷え込みもないゴルディロックス相場再来ムードとなり、ダウ工業株30種平均(NYダウ)は史上最高値を更新しました。

 28日の米半導体大手エヌビディアの四半期決算発表も市場予想を上回ったものの株価は下落しました。同社株の下落が他の半導体関連銘柄を大きく巻き込むには至らず、世界株価は全般に落ち着いた動きとなったことも米株式市場に安心感を与えたようです。

 ところが、ドル/円は9月に入って、1ドル=147円台に乗せましたが、円売りは続かず1ドル=145円台前半まで円高が進みました。1ドル=147円台へのドル高は、経済指標の好結果をきっかけに8月23日のパウエル議長の発言でいき過ぎたドル売りの反動と思われますが、FRBの利下げ期待は消えてはいません。9月の利下げ期待がドルの上値を重くし、為替相場も米雇用統計を前により神経質になっているようです。

 日本銀行の利上げ継続姿勢が確認されたことも円高の要因でした。植田和男日銀総裁が3日の経済財政諮問会議で、物価見通しが実現すれば引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整する方針を改めて示しました。この発言で、市場では10月か12月の追加利上げ期待が高まり、1ドル=146円を割れる円高となりました。

 そして海外市場ではNYダウの大幅下落や8月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数が予想をわずかに下回ったことから、1ドル=145円台前後まで円高が進みました。

8月米雇用統計次第でドル高かドル安に

 市場ではFRBの9月利下げはほぼ織り込まれ、利下げ幅も0.25%の見方が大勢となっています。また、市場は年内1%の利下げを引き続き期待しており、この期待がドル/円の上値を重くしているようです。1%の利下げだと年内の9月、11月、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、1回は0.5%の利下げを前提としています。景気は順調で物価も落ち着いてきている中で、FRBは年内に1%の利下げをするのかどうかが今後の焦点になります。

 アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁は8月28日、「インフレ鈍化が自身の予想より速く、失業率が想定以上に上昇する中、利下げに動く時かもしれないが、実際に踏み切る前に月次雇用統計と二つのインフレ統計で確信を得たい」と述べ、9月の利下げそのものに慎重な姿勢を示しています。市場の過度なハト派への傾きをけん制した発言のようにも捉えることができます。

 パウエル議長は8月23日の講演で、雇用の下振れリスクが高まっているため政策の軸足を物価よりも雇用に移したことを説明しました。この発言を受けて9月6日の米雇用統計に市場はかなり神経質になっています。予想では非農業部門雇用者数が7月の11.4万人増から16.5万人増に伸びが回復し、失業率は7月の4.3%から4.2%に改善と、景気の堅調さが期待される予想となっています。

 雇用統計の内容が良かった場合、0.25%利下げがなくなるとは思えませんが、年内1%利下げの期待が後退し、ドル高が予想されます。

 逆に悪化した場合、FRBは9月に0.5%利下げへ動くのではないかとの期待が一気に復活する可能性があり、ドル安になることが予想されます。