FOMCの想定シナリオと注目点

(1)9月利下げシナリオ

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の利下げ時期は7月見送り、9月利下げとの見方が大勢で、市場でもほぼ織り込まれています。7月FOMCでは9月利下げを示唆するのかどうかが注目されています。物価の鈍化傾向や労働市場の減速から年内複数回の利下げが示唆されるのかどうかも焦点です。

 複数回の利下げが示唆されれば、さらにドル安円高が進むことが予想されますが、直近発表された4~6月期GDP速報値は実質年率2.8%増と予想を上回り、前期1.4%増から加速しました。GDPの7割を占める個人消費が2.3%増と前期1.5%増から伸びが拡大し、底堅い消費が経済をけん引しているようです。
 このような堅調な米経済状況では利下げも慎重になり、複数回の利下げは難しくなることも想定されます。

 ただ、9月利下げについては、FRBが物価の目安として注目する、26日発表の6月個人消費支出物価指数(PCE)コア指数(除食品・エネルギー)は前年同月比2.6%上昇と予想を上回りましたが、前月と同じだったことから市場の9月利下げ観測は変わっていないようです。

 9月利下げが示唆されれば、いったんドルは売られるかもしれませんが、年内の追加利下げに慎重姿勢であれば、すかさずドルは買い戻されるかもしれないため注意が必要です。

(2)利下げ示唆するも時期を明示しない場合

 7月のFOMCでは、年内の利下げを示唆しても時期は明確に示さないかもしれません。その場合、利下げ期待で売られてきたドルは、買い戻される可能性もあるため注意する必要があります。

 9月利下げについては8月22~24日の経済政策シンポジウム・ジャクソンホール会議でFRBのパウエル議長が示唆するシナリオも想定されますので注意する必要があります。

(3)今後の注目点

 日銀もFRBも、今後の政策変更の道筋、すなわち、今後の利上げや利下げの道筋についていち早く示した方が、相場の中期的なトレンド形成に影響を与えるという点には留意する必要があります。

 逆の言い方をすれば、慎重姿勢を続けた方の通貨は、これまでと同じトレンドを続けるということになりそうです。

 つまり、日銀が追加利上げに慎重姿勢を取れば円売りが復活し、FRBが年内や来年の利下げに慎重姿勢を取り続ければ、ドル売りは抑制的な動きになるということです。毎回の決定会合で今後の政策の道筋をどのように示しているかを見極めることが、今後より重要になってくると思われます。

 日米とも、7月の会合、8月のジャクソンホール会議(8月の金融会合は日米とも開催されません)、9月の会合で、年内や来年に向けた政策変更の道筋をどれだけクリアに示すのかどうかを市場は注視しています。

8月は荒れる為替相場、日米金融政策の変わり目

 このコラムでも何回かこのテーマを取り上げてきましたが、必ずしも8月に円高に行くということはないようです。1990年のイラクのクウェート侵攻や2007年のパリバショックのように、8月に起こった経済的、軍事的大事件によって大きく円高に動いた印象が強く残っているのかもしれません。
 また、8月はマーケット参加者が少なくなることも影響していると考えられます。日本ならお盆休み、欧米の投資家にとっても夏休み休暇中のため、本来なら夏枯れ相場になりやすいのですが、参加者が少ないため値動きが荒くなりやすいのかもしれません。

 ちなみに過去4年の動きを見てみると、8月は円安相場でした。2020年や2021年の8月は、コロナ禍だったこともあり、月間値幅は各年2円程の動きでした。月初と月末の値幅も2020年は約10銭の円安、2021年は約30銭の円安でほとんど動いておらず、夏枯れ相場となりました。

 2022年の8月の値幅は約8円70銭、月初と月末の値幅は約5円60銭の円安相場、2023年の8月の値幅は約5円80銭、月初と月末の値幅は約3円20銭の円安相場でした。

 このように過去4年間は円安相場となっており、特に2022年、2023年はFRBの利上げが円安の背景にあります(FRBは2022年3月から利上げを開始、2023年5月までに計11回5.25%の利上げを実行)。

 今年の8月は日米中央銀行の政策の変わり目の時期に当たるため、相場が動きやすくなるかもしれません。夏枯れ相場と言うよりは、荒れやすい相場に注意した方がよいかもしれません。

8月に発生した経済的、軍事的大事件

日時 起こった出来事
1971年8月15日 ニクソンショック。金・ドル交換停止、10%の輸入課徴金
1990年8月2日 イラク軍がクウェートに侵攻
2007年8月9日 パリバショック
2008年8月7日 北京オリンピック開催中に南オセチアでグルジア軍と軍事衝突。翌8日にロシアが軍事介入→欧州経済悪化も加わり、ユーロ/円が8円の円高
2011年8月8日 米国債務問題から米国債が格下げされ(5日)、翌週8日に世界同時株安
2015年8月24日 中国景況感の悪化から上海株が急落し、世界同時株安に。上海株が一時8%近く急落した日は、ドル/円の値幅が6円近くの荒れ相場に
2019年8月5日 米中貿易戦争激化の中、人民元安と米国の中国「為替操作国」指定で円高に。ダウ工業株30種平均は、一時960ドルを超える下げ
2022年8月2日 ペロシ米下院議長の台湾訪問報道により米中悪化懸念からアジア株が軟調、ドル/円は2円程度円高が加速