日銀の利上げ期待と米6月CPI伸び鈍化で円高に

 相次ぐ政府要人らからの「金融正常化要請」の発言によって、7月の日本銀行の金融政策決定会合で利上げ期待が高まり、予想以上に円高が進みました。ドル相場は、11日公表の米6月CPI(消費者物価指数)前の1ドル=161円台後半から152円割れまで、値幅は約10円となりました。

 IMMの通貨先物の23日時点の円ショートポジションは10万7,108枚(約1.3兆円)と、前週の15万1,072枚(約1.9兆円)から4万3,964枚の大きな減少となりました。CPI発表前の7月2日時点の18万4,223枚(約2.3兆円)と比べると42%の減少となります。かなりポジションが調整されたようです。

 一方、1ドル=152円割れで止まったのは、日本政府による円買いの為替介入と米4月雇用統計後に付けた5月3日の1ドル=151.86円近辺を意識した水準と推測されます。この水準から7月の1ドル=161円台後半まで円安となったのですが、今回の一連の円高でこの円安が帳消しになったと言えるかもしれません。

 今週の30~31日の日銀の金融政策決定会合と米国のFOMC(連邦公開市場委員会)では、一段と円高が進み、円売りポジションの巻き戻しがさらに進むかどうか、あるいは期待通りではなかったことによる失望感から円安に戻るのかどうか注目したいと思います。

 このコラムを読むころには日銀会合の決定が発表されているかもしれませんが、想定シナリオや重要ポイントなどを参考にしてください。

日銀会合後の想定シナリオと注目点、利上げで1ドル=150円割れの円高向かう可能性も

(1)利上げした場合

 30日に「日銀は政策金利を0.25%程度引き上げる案を議論する」との観測報道によって、再び1ドル=152円台へと円高が進みました。この報道の通り利上げとなれば、7月は利上げ見送りとの見方もあったため、サプライズで円高が進む可能性があります。
 しかし、実質賃金動向や景況感から追加利上げに慎重になり、今後の追加利上げの道筋が示されなければ、円高の後、材料出尽くしからの利食いによる円売りが優勢になるかもしれないため注意が必要です。また、8月1日未明(日本時間)にはFOMCが控えているため、この円売りも抑制的になることが想定されます。

 利上げと同時に追加利上げの道筋も示されれば、追加利上げの期待が強まり、1ドル=152円割れを再トライし、150円割れを目指して円高に進むシナリオが想定されます。来年の道筋も示されれば、1ドル=140円台定着の可能性も高まってくるかもしれません。

(2)利上げがなく、利上げの道筋も示されない場合

 利上げがなく、しかも今後の利上げについて慎重な姿勢が示された場合は、失望感からどこまでドルが反発(円安)するのか注目です。節目である1ドル=157、158円台を抜けて160円まで反発するのかどうか、あるいは1ドル=160円まで反発する勢いがなくても157、158円台の水準でとどまることができるのかどうか注目です。
 市場の利上げ期待がくすぶっていれば、1ドル=157、8円の水準は維持されないかもしれませんが、その一方で、7月に利上げはないとの見方も多かったため、ドルの反発も限定的になるかもしれません。また、1日未明(日本時間)にはFOMCが控えているため、ドルの反発も抑制的になることも想定されます。

(3)利上げはないが、利上げの道筋が示された場合

 利上げがなくても、利上げの道筋が示されれば、ドルが反発しても限定的な動きになるかもしれません。道筋の内容によっては、再び利上げ期待が強まり円高に向かうシナリオが想定されます。

(4)国債買い入れ減額要因

 今回の決定では、事前に利上げ期待がかなり高まったため、国債買い入れ減額の要因だけでは相場には大きく影響しないかもしれません。ただ、国債買い入れ減額は、実質金融引き締めとなりますので円安の抑制要因にはなると思われます。

(5)今後の注目点

 7月に利上げがなかった場合、次回9月の利上げ期待が高まります。9月の日銀政策決定会合とFOMCの日程は、日銀が9月19~20日、FOMCが17~18日開催となっており、米利下げの後に、日銀は利上げすることになるかもしれません。
 また、岸田文雄自民党総裁の任期満了に伴う総裁選が9月下旬に予定されているため、総裁候補から金融正常化について圧力が強まることも予想されます。

 景気と物価環境については、物価は2%超の上昇率を維持しているかもしれませんが、1~3月期実質GDP(国内総生産)の改定値が年率換算で1.8%減から大幅に下方修正され2.9%減となりました。個人消費もリーマン・ショック時以来、15年ぶりの4四半期連続マイナスとなる0.7%減となっています。
 実質賃金が26カ月連続マイナスの中、個人消費と景気が回復し、利上げができる環境になっているのかどうか注目です。

 仮に、7月利上げをしても景況感から追加利上げは慎重になることも予想されるため、景気・物価動向は注目する必要があります。8月15日には日本の4~6月期GDPが発表されます。