対中関税引き上げはブリヂストンにプラスの可能性も

 トランプ氏は、関税を大幅に引き上げることによって中国製品の米国からの締め出しを進めると宣言しています。これは、米国での現地生産が進んでいる日本企業にプラスに働く可能性があります。

 ブリヂストンは、米国のファイヤーストーンを買収することで、早くから現地生産体制を確立し、米国事業で高い利益をあげています。米国では、安価な中国製タイヤの販売拡大が進んでいますがその輸入関税が大幅に引き上げられれば、相対的に有利となります。

 高いブランド力を有するブリヂストン製品が、中国製のタイヤと直接的に競合しているわけではありませんが、間接的な影響はあります。

 日本の自動車メーカーは、米国市場で中国メーカーと直接競合しているわけではありません。ただし、これから北米でのEV比率を高める必要がある日本メーカーにとっては、直接中国製EVと競合しなければ、それはプラスといえます。

 中国製EVにはすでにバイデン政権が100%関税をかけており、米国で中国製EVの販売は進んでいません。中国製EVの排除は、米大統領選の勝者が誰になっても、進むと考えられます。欧州も同様に、中国製EVの排除を進める可能性があります。

 トランプ再選で米中分断が深まると、中国EVメーカーは、アジアでの拡販を加速する可能性があります。これまで日本車の牙城であったタイでは、急速にEV販売が伸び、中国製EVが高い人気を確保しています。インドネシアでも同様にEVが拡大して、日本メーカーの牙城が崩されるリスクが生じています。

 トランプ再選があれば、日本メーカーはEV開発でキャッチアップするために時間的猶予をもらうことになりますが、東南アジアでは、中国製EVとの競争が熾烈(しれつ)になるリスクがあります。

日本製鉄のUSスチール買収阻止はマイナス

 トランプ氏の政策が全て、日本メーカーにプラスとはいえません。トランプ氏は、日本製鉄によるUSスチール買収を絶対阻止すると述べています。

 日本製鉄がUSスチールを買収すれば、USスチールに技術導入し、電磁鋼板や自動車向けハイエンド・スチールの米国生産を拡大することが可能になります。そうなると、日本の自動車大手は、日本製鉄からヒモ付きで仕入れている鋼材の一部を米国内の調達に切り替えることができます。

 それは、日本製鉄にとっても日本の自動車メーカーにとっても、戦略的に極めて重要です。買収が阻止されると、自動車業界にとって大きなマイナスとなります。

 ちなみに、日本製鉄による買収は、USスチールにも大きなメリットがあります。USスチールは、1960年代には世界トップの製鉄企業でした。ところが、高コスト体質に加え、汎用品の生産比率が高いために、1970年代以降に競争力が低下して日本にトップの座を奪われました。さらに2000年代以降は、中国にトップの座を奪われ、その差は拡大する一方です。

 米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となっています。米国トップの座も、電炉大手ニューコアに奪われ、かつての名門の面影はありません。

 万年赤字だったUSスチールは、トランプ政権下の保護策で米国内の鉄鋼市況が大幅に上昇したことによって黒字化してやっと息を吹き返したところです。USスチールの高コスト体質は簡単には改まりません。ニューコアが同社を買収しても、建て直しは困難と思われます。抜本的な体質改善には、日本製鉄からの技術導入が最適解と考えられます。