トランプ氏がGHG規制を緩和すれば日本の自動車メーカーに恩恵

 米国第一主義を掲げるトランプ氏は「(地球温暖化対策を進める)パリ協定から離脱する」「対中関税を60%超に引き上げる」「ウクライナ支援をやめる」「(法人減税・インフラ投資拡大など)景気刺激策を進める」など多数の公約を掲げています。

 トランプ氏は果たして再選後、どこまで公約通りに政策を実施するでしょうか。しばしば政策方針が変わることのあったトランプ氏が実際に行うことを、今予測するのは困難です。本稿では、トランプ氏が公約をすべて実現することを前提に、日本の自動車業界に及ぶ影響を考えます。

 トランプ氏公約で、自動車業界に影響が特に大きいと考えられるのは、「パリ協定離脱」「対中関税引き上げ」「日本製鉄によるUSスチール買収阻止」です。まず、その影響を考えます。

 トランプ氏は、脱炭素に否定的で、石油・石炭・LNG産業を擁護する姿勢を鮮明にしています。公約通りならば、大統領に返り咲いたら、米国はパリ協定から即座に離脱します。米国は、トランプ氏が最初に大統領となった2017年にパリ協定から離脱を宣言しました。

 ところが2021年に大統領となったバイデン氏がパリ協定への復帰を決めました。大統領が代わるたびに、米国はパリ協定からの離脱と復帰を繰り返すことになります。

 トランプ氏は、パリ協定離脱とともに、米国のGHG(温暖化ガス)規制の緩和に進むのが確実です。GHG規制は、米国内で販売される自動車の燃費の改善を義務づけるもので、それを達成するために、自動車メーカーは新車販売に占めるゼロエミッション車(EV・燃料電池車・プラグインハイブリッド車)の販売比率を急速に引き上げなければなりません。米国政府は2030年までに新車販売に占めるEV比率を50%に引き上げる目標を掲げています。その達成の行程を示すのがGHG規制です。トランプ氏はそれに待ったをかけることになると考えられます。

 環境規制がもっとも厳しいカリフォルニア州では独自のZEV規制(ゼロエミッション車の販売比率を高めることを義務づける規制)を定めています。トランプ氏が再選すれば、その有効性をめぐり再び法定闘争が起こる可能性もあります。

 トランプ効果は、既に一部現れている。バイデン政権の元、米国環境保護庁は2024年3月にGHG規制の一部緩和を発表しています。大統領選が近づくにつれてトランプ氏との競争上、バイデン政権でも規制緩和に配慮する必要が生じたためと考えられます。トランプ氏は、そこからさらに大幅な緩和を進めると思われます。

 北米でのEV販売で出遅れた日本メーカーは、GHG規制への対応が間に合わずに多額のペナルティーを支払うことになる可能性があります。トランプ氏による規制緩和があれば、規制対応に猶予を与えられることになります。

トランプ氏再選がなくてもGHG規制の見直しは必要

 それでは、トランプ氏が再選しなかったら、GHG規制は変わらないでしょうか。今年一部緩和したとはいえ、現行基準を達成するのはなお容易でありません。EV購入の補助金縮小がグローバルに進む中、高インフレで生活が圧迫される米国や欧州で、高コストEVを避けて、安価で使い勝手の良いハイブリッド車を見直す流れが出ています。

 また、再生可能エネルギーの拡充が遅れ、ガス火力発電への依存が続く中、なんでも電気で動かせば良いという風潮に疑問を感じる向きもあります。これから、電力消費が大きい生成AI(人工知能)の利用が世界中で拡大すると、電力不足が世界中でますます深刻になる可能性もあります。

 したがって、トランプ氏再選がなくても、GHG規制の見直しはこれからも続くでしょう。ガソリン車の販売縮小、脱炭素が進む流れは変わらないが、そのペースの見直しが必要になると考えられます。