トヨタ、ホンダ、ブリヂストンは長期投資で「買い」判断継続

 トヨタ自動車・ホンダ・ブリヂストンは、長期投資で「買い」判断を維持します。ただし、短期的には円高が進んだ時に売られる可能性があるので、時間分散しながら少しずつ買っていくのが良いと思います。100株ずつ買うのは金額が大きすぎるので、1株単位で売買できる楽天証券の株ミニを利用すると良いと思います。

トヨタ、ホンダ、ブリヂストンの株価指標:2024年7月30日時点

コード 銘柄名 株価(円) 配当
利回り
PER
(倍)
PBR
(倍)
1株
当たり
配当金
(円)
7203 トヨタ自動車 2,996.5 2.9% 11.3 1.2 86.5
7267 ホンダ 1,636.0 4.2% 7.8 0.6 68.0
5108 ブリヂストン 6,145.0 3.4% 11.7 1.2 210.0
出所:配当利回りは、今期1株当たり予想配当金を7月30日の株価で割って算出。1株当たり配当金はホンダ、ブリヂストンは会社予想、会社予想を公表していないトヨタはQUICKコンセンサス予想。今期とは、トヨタ、ホンダは2025年3月期、ブリヂストンは2024年12月期。PERは、7月30日株価を今期1株当たり会社予想利益で割って算出。QUICKより楽天証券経済研究所作成
 今日は、もしトランプ氏が米大統領選で再選したら、日本の自動車・タイヤ業界に、どういう影響が及ぶか、私の考えを伝えます。とはいえ、米大統領選でトランプ氏が勝利するか否か、情勢は混沌としています。民主党の大統領選候補者となることがほぼ確実なハリス氏の人気急上昇で、支持率はきっ抗し、どちらが勝つかわからなくなってきました。

 今日は、トランプ氏が再選すると仮定した上で、日本の自動車&タイヤ業界にどういう影響が及ぶか、私の考えをお伝えします。EV(電気自動車)に否定的なトランプ氏再選は、EVの生産台数でテスラや中国BYDに後れをとっている日本の自動車業界にプラスと考えられます。トヨタ、ホンダが北米でEVの生産能力を拡大する時間的猶予が得られると考えられます。ただし、トランプ氏の公約はそれだけではありません。プラスとマイナスの両面を見る必要があります。

トランプ氏がGHG規制を緩和すれば日本の自動車メーカーに恩恵

 米国第一主義を掲げるトランプ氏は「(地球温暖化対策を進める)パリ協定から離脱する」「対中関税を60%超に引き上げる」「ウクライナ支援をやめる」「(法人減税・インフラ投資拡大など)景気刺激策を進める」など多数の公約を掲げています。

 トランプ氏は果たして再選後、どこまで公約通りに政策を実施するでしょうか。しばしば政策方針が変わることのあったトランプ氏が実際に行うことを、今予測するのは困難です。本稿では、トランプ氏が公約をすべて実現することを前提に、日本の自動車業界に及ぶ影響を考えます。

 トランプ氏公約で、自動車業界に影響が特に大きいと考えられるのは、「パリ協定離脱」「対中関税引き上げ」「日本製鉄によるUSスチール買収阻止」です。まず、その影響を考えます。

 トランプ氏は、脱炭素に否定的で、石油・石炭・LNG産業を擁護する姿勢を鮮明にしています。公約通りならば、大統領に返り咲いたら、米国はパリ協定から即座に離脱します。米国は、トランプ氏が最初に大統領となった2017年にパリ協定から離脱を宣言しました。

 ところが2021年に大統領となったバイデン氏がパリ協定への復帰を決めました。大統領が代わるたびに、米国はパリ協定からの離脱と復帰を繰り返すことになります。

 トランプ氏は、パリ協定離脱とともに、米国のGHG(温暖化ガス)規制の緩和に進むのが確実です。GHG規制は、米国内で販売される自動車の燃費の改善を義務づけるもので、それを達成するために、自動車メーカーは新車販売に占めるゼロエミッション車(EV・燃料電池車・プラグインハイブリッド車)の販売比率を急速に引き上げなければなりません。米国政府は2030年までに新車販売に占めるEV比率を50%に引き上げる目標を掲げています。その達成の行程を示すのがGHG規制です。トランプ氏はそれに待ったをかけることになると考えられます。

 環境規制がもっとも厳しいカリフォルニア州では独自のZEV規制(ゼロエミッション車の販売比率を高めることを義務づける規制)を定めています。トランプ氏が再選すれば、その有効性をめぐり再び法定闘争が起こる可能性もあります。

 トランプ効果は、既に一部現れている。バイデン政権の元、米国環境保護庁は2024年3月にGHG規制の一部緩和を発表しています。大統領選が近づくにつれてトランプ氏との競争上、バイデン政権でも規制緩和に配慮する必要が生じたためと考えられます。トランプ氏は、そこからさらに大幅な緩和を進めると思われます。

 北米でのEV販売で出遅れた日本メーカーは、GHG規制への対応が間に合わずに多額のペナルティーを支払うことになる可能性があります。トランプ氏による規制緩和があれば、規制対応に猶予を与えられることになります。

トランプ氏再選がなくてもGHG規制の見直しは必要

 それでは、トランプ氏が再選しなかったら、GHG規制は変わらないでしょうか。今年一部緩和したとはいえ、現行基準を達成するのはなお容易でありません。EV購入の補助金縮小がグローバルに進む中、高インフレで生活が圧迫される米国や欧州で、高コストEVを避けて、安価で使い勝手の良いハイブリッド車を見直す流れが出ています。

 また、再生可能エネルギーの拡充が遅れ、ガス火力発電への依存が続く中、なんでも電気で動かせば良いという風潮に疑問を感じる向きもあります。これから、電力消費が大きい生成AI(人工知能)の利用が世界中で拡大すると、電力不足が世界中でますます深刻になる可能性もあります。

 したがって、トランプ氏再選がなくても、GHG規制の見直しはこれからも続くでしょう。ガソリン車の販売縮小、脱炭素が進む流れは変わらないが、そのペースの見直しが必要になると考えられます。

対中関税引き上げはブリヂストンにプラスの可能性も

 トランプ氏は、関税を大幅に引き上げることによって中国製品の米国からの締め出しを進めると宣言しています。これは、米国での現地生産が進んでいる日本企業にプラスに働く可能性があります。

 ブリヂストンは、米国のファイヤーストーンを買収することで、早くから現地生産体制を確立し、米国事業で高い利益をあげています。米国では、安価な中国製タイヤの販売拡大が進んでいますがその輸入関税が大幅に引き上げられれば、相対的に有利となります。高いブランド力を有するブリヂストン製品が、中国製のタイヤと直接的に競合しているわけではありませんが、間接的な影響はあります。

 日本の自動車メーカーは、米国市場で中国メーカーと直接競合しているわけではありません。ただし、これから北米でのEV比率を高める必要がある日本メーカーにとっては、直接中国製EVと競合しなければ、それはプラスと言えます。

 中国製EVには既にバイデン政権が100%関税をかけており、米国で中国製EVの販売は進んでいません。中国製EVの排除は、米大統領選の勝者が誰になっても、進むと考えられます。欧州も同様に、中国製EVの排除を進める可能性があります。

 トランプ再選で米中分断が深まると、中国EVメーカーは、アジアでの拡販を加速する可能性があります。これまで日本車の牙城であったタイでは、急速にEV販売が伸び、中国製EVが高い人気を確保しています。インドネシアでも同様にEVが拡大して、日本メーカーの牙城が崩されるリスクが生じています。

 トランプ再選があれば、日本メーカーはEV開発でキャッチアップするために時間的猶予をもらうことになりますが、東南アジアでは、中国製EVとの競争が熾烈になるリスクがあります。

日本製鉄のUSスチール買収阻止はマイナス

 トランプ氏の政策がすべて、日本メーカーにプラスとは言えません。トランプ氏は、日本製鉄によるUSスチール買収を絶対阻止すると述べています。

 日本製鉄がUSスチールを買収すれば、USスチールに技術導入し、電磁鋼板や自動車向けハイエンド・スチールの米国生産を拡大することが可能になります。そうなると、日本の自動車大手は、日本製鉄からヒモ付きで仕入れている鋼材の一部を米国内の調達に切り替えることができます。それは、日本製鉄にとっても日本の自動車メーカーにとっても、戦略的にきわめて重要です。買収が阻止されると、自動車業界にとって大きなマイナスとなります。

 ちなみに、日本製鉄による買収は、USスチールにも大きなメリットがあります。USスチールは、1960年代には世界トップの製鉄企業でした。ところが、高コスト体質に加え、汎用品の生産比率が高いために、1970年代以降に競争力が低下して日本にトップの座を奪われました。さらに2000年代以降は、中国のトップの座を奪われ、その差は拡大する一方です。

 米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となっています。米国トップの座も、電炉大手ニューコアに奪われ、かつての名門の面影はありません。

 万年赤字だったUSスチールは、トランプ政権下の保護策で米国内の鉄鋼市況が大幅に上昇したことによって黒字化してやっと息を吹き返したところです。USスチールの高コスト体質は簡単には改まりません。ニューコアが同社を買収しても、建て直しは困難と思われます。抜本的な体質改善には、日本製鉄からの技術導入が最適解と考えられます。

円安は終わる?

 トランプ氏はかつて、円安を厳しく批判していました。現在、為替への言及は少ないですが、「ドル高は問題」という考えは変わっていません。トランプ氏が円安批判を再開すれば、円高転換をさらに進む可能性もあります。

 トランプ氏は2018年に、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げを厳しく批判していました。大統領在任中は、恒常的に利下げを要求していました。現在、FRBに利下げを求める発言はしていませんが、大統領に再選してから、利下げ要求を再開する可能性があります。

 米景気は足元、減速しており、9月には利下げが実施されるのが確実視されています。それに加えて、日銀が利上げする可能性もあります。トランプ氏再選があってもなくても、短期的に円高が進む可能性があり、日本の自動車関連セクターにマイナス影響が及ぶ可能性があります。日本の自動車業界は、円安によって大きな恩恵を受けているからです。

  トヨタ自動車は、今期1ドル=145円を前提に、純利益が前期比28%減の3兆3,700億円になると、保守的(低め)な会社予想を出しています。いくらか円高が進んでも、業績予想の下方修正につながる可能性は低いと考えられます。

トヨタ自動車の連結純利益推移

出所:同社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 最後に「株トレ」新刊出版のお知らせです。ダイヤモンド社より8月1日ごろ私の新刊が出版されます。
 
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」

 一問一答形式で、株式投資のファンダメンタルズ分析を学ぶ内容です。
2021年12月に出版した以下、前作の続編となります。
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」

 前作で、テクニカル分析(チャートの読み方)を学び、今回出版する続編でファンダメンタルズ分析(決算書の読み方など)を学びます。

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