日銀、7月は利上げなしか?GDP下方修正で「半歩後退」の情勢

 一方、政策変更に向けて一歩進んだFRBの環境に対して、日銀を取り巻く環境は一歩後退しました。先週1日に発表された、日本の2024年1-3月期の実質GDP(国内総生産)改定値が年率換算で1.8%減から2.9%減に大幅に下方修正されました。建設統計の改定が反映されたということですが、これを受けて2024年度のGDPの成長率見通しを0%とする予測も出始めており、日銀の政策変更も制約を受けるかもしれません。

 日銀の植田和男総裁は6月の金融政策決定会合後、7月の利上げと国債買い入れ減額の同時実施の可能性を否定しなかったことから、市場では7月の利上げと国債買い入れ減額によって政策変更の「一歩」前進との期待がありました。

 しかし、景気回復が鈍くなると7月利上げは難しくなるかもしれません。7月会合では、国債買い入れ減額の決定のみとなって、「半歩」後退となる可能性があります。

 ただ、利上げなしとの失望感からの円売りは限定的かもしれません。国債買い入れ減額と同時に利上げは難しいだろうとの見方もあったからです。一方、植田総裁が明言している「相応の規模」の国債買い入れの減額が期待外れに小さかったり、減額ペースが緩やかだったりする場合には失望感から半歩ではなく、「一歩」後退になる可能性があるかもしれません。

 また、7月会合後に公表される「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」も重要です。2024年度の実質GDPの成長率見通しが下方修正された場合、利上げ時期が後ろ倒しになるかもしれないとの見方が増え、円売りが強まるかもしれないため注意が必要です。

 日銀は4月の展望リポートで、2024年度の実質GDPの成長率見通しを0.8%増とし、1月見通しの1.2%増から下方修正しました。7月の展望リポートでさらに下方修正するのかどうか焦点です。

 以上のように、政策変更については日米の金融当局ともに今後のデータ次第との姿勢ですが、FRBは一歩前進、日銀は半歩後退した印象です。

FRB年内2回の利下げ見通しが鮮明になれば、ドル安円高も

 ただ、一歩前進、半歩後退だとなかなか円高地合いにはならないかもしれません。FRBの9月利下げ期待によって日米それぞれの企業の株式が上昇し、株価上昇が円売りを後押ししているとの見方があります。

 加えて日銀の政策変更の時期が後ずれするとの見方が円売りに安心感を与えているようです。投機家動向として注目される米国CFTCの7月2日時点の円のネット・ショートポジションは、18万4,223枚(1枚は1,250万円)となっており、4月の為替介入直前のポジションを超え、過去最大だった2007年6月の18万8,077枚に次ぐ過去2番目の大きさとなっています。

 半歩後退した日銀の一歩前進は、利上げまで待つしかなさそうです。賃金引き上げ効果が反映されて景気も回復すれば、9月利上げ期待が高まるかもしれません。円高地合いが持続するためには、さらに追加利上げを市場が期待する必要があります。

 ただ、8日に公表された5月の実質賃金は前年同月比1.4%減と26カ月連続のマイナスとなっています。減少幅は縮小してきていますが、秋口にかけ、プラスに転じるかどうか注目です。それまでに日本の景気が失速しなければよいのですが。

 このような日本の経済環境を考えると、ドル円に影響を与える要因はやはり、まだ日銀要因よりもFRB要因が大きいようです。FRBの利下げに向けて二歩、三歩の前進という環境が整えば、ドル安円高の動きが鮮明になるかもしれません。「二歩」とは、9月以降の利下げを示唆する時です。

 8月22~24日開催の米ジャクソンホールの経済シンポジウムでのパウエル議長の講演が特に注目されます。この講演でパウエル議長は9月以降の利下げを示唆するかもしれません。これをきっかけに金利は下がり、ドル安地合いが続くかもしれません。

 そして「三歩」前進とは、年内の追加利下げ期待が高まることです。場合によってはジャクソンホールの講演で年内複数回の利下げを示唆するかもしれません。11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)は米大統領選挙直後のため、12月の追加利下げ期待が強まる可能性があります。このように8月に利下げ時期を示唆、9月のFOMCで利下げと同時に12月の利下げ示唆となれば、ドル安円高の動きが鮮明になってくるかもしれません。