(3)「半年強で25%程度」神田財務官

 神田財務官は2022年9月、「中期的にみても3月以降の半年強で25%程度も変化し、1973年の変動相場制以降の年間最大値を上回る大きさ」と述べ、その後介入を実施しました。

 半年前に当たる昨年末の終値は1ドル=141円、半年後の6月終値は1ドル=160円80銭台です。その変化率は14%台で、25%には及ばないため「急激な変動」とは認定されません。25%だと1ドル=176円ということになり、まだかなり先の円安水準です。

 また、25%というのは過去に米財務省の為替報告書でも円安批判の目安として指摘されている点には留意しておく必要があります。

 米国は、2018年4月の米国財務省の為替報告書で、日本の対米黒字額の大きさを批判し、日本を「監視リスト」に指定しています。そして円の実質実効為替レートが過去20年の平均を25%近く下回る円安水準にあるとして、その行き過ぎ感を指摘しています。

 実質実効為替レートとは他通貨との為替レートを貿易額などで加重平均して算出し、さらに物価変動の影響を考慮して調整した為替レートのことです。この報告書では実質実効為替レートの円安批判と同時に、名目レートで見た円相場についても「過去10年と比較すると、2013年上期から歴史的な平均値に比べて割安である」と初めて指摘しています。

 現在、為替報告書では円安(誘導)批判されていませんが、米財務省は過去に批判していたというのは知っておく必要があります。もし、トランプ氏が次期大統領になった場合は、対米黒字国をやり玉に挙げ、25%に到達していなくても円安(誘導)批判をしてくる可能性を想定しておいた方がよさそうです。

(4)「年初来から20円以上の値幅」ー神田財務官

 神田財務官は2023年10月、「年初来からだとドル/円は20円以上の値幅がある。そういったことも(過度な変動の)一つの要素だ」と述べています。この定義に当てはめると、今年は昨年末1ドル=141円から20円を超えているため、「急激な変動」ということになります。

 ただ、円安のスピード感がないこと、つまり、円安の動きが緩やかなため、急激な変動ではないのではないかとの見方もありますが、神田財務官は「一方向に一方的な動きが積み重なって一定期間に非常に大きな動きがあった場合は過度な変動に当たり得る」と述べ、「急激な変動」について新たな解釈を示しました。

 要するに、現在のような緩やかな円安でも、累計で大きな値幅になれば為替介入はあり得るということになります。

 ちなみに2022年9月の介入時点では、年初来の値幅は、30円の円安でした。

(5)「一日に2円も3円も動くのは急激な変化」黒田前日銀総裁

 2022年には9月6、7日の2日間で5円の円安となり、8日には国際金融資本市場に関する情報交換会合(財務省、金融庁、日銀の三者)が開かれました。円安のスピードが速く、短期的に過熱感もあったためと考えられます。

 神田財務官は協議後、記者団に対して「最近の円安進行は明らかに過度な変動であり、政府・日銀は極めて憂慮している。あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応を取る準備がある」と円安をけん制しました。

 また、黒田東彦日銀総裁(当時)は、「一日に為替が2円も3円も動くというのは急激な変化だ」とけん制しました。この神田財務官の発言や黒田総裁の発言を受けて、1ドル=145円台から141円台半ばまで円高となりました。その後再び1ドル=145円台に戻し、9月22日に介入が実施されました。

 一日に2、3円の値動きが連日見られるときには急激な変化と認定されることになり、ひとつの目安となります。

 上述した介入水準の目安は、あくまで目安ということを念頭において参考にしてください。バイデン大統領にとって致命的となった27日のテレビ討論会で、トランプ氏はバイデン政権の高インフレを非難しました。

 そのため、ドル売り・円買い介入を行えば、インフレをさらに高める可能性があるので、実行しづらいのではないかとの見方もあるようです。むしろ、それまでの間に介入を実施した方が得策だと思われますが…。