高金利運用したはずなのに、なぜ予想通りにならない?
M氏の運用失敗をもとに、ここで最も注目したい問題は、「非常に金利の高い債券や通貨で運用したはずなのに、なぜ思うような結果になりにくいのか」、ということです。
外貨建て資産での運用は、世界的に低金利が続く中で金融資産運用を考えた時に、有益な候補の1つです。金利の高い国の資産や通貨に投資をすれば有利、と思えますが、実は必ずしもそうではありません。
なぜなら、金利が高い国では、通常、物価の上昇率(インフレ率)も高い傾向にあり、物価が上がれば通貨1単位で買えるモノの量は減ります。つまり通貨1単位当たりの価値が減る(安くなる)ことになるので、長期的に見ると金利の高い国の通貨は通貨安方向に進む傾向があるのです。
いわゆる「購買力平価説」と言われる理論ですが、金利の高い国の通貨に対して、長らく物価下落・デフレ傾向が続いてきた日本では円高傾向であったことをイメージすると分かりやすいでしょう。ブラジルレアルや南アフリカランドなどは、新興国通貨としてはおなじみですが、長期的に見ればやはり通貨安円高傾向にあります。
ですから、とても高い金利が得られるからといって、また、その国の通貨が以前の半値ほどの水準になっているからといって、投資のチャンスだとは必ずしも言い切れません。高い金利収入や分配金を得られたとしても、保有するタイミングや期間によっては結果的に為替差損の拡大で帳消しになってしまう場合がある点には注意が必要なのです。
痛手を受ける前に、M氏はどうすればよかったのか?
長期的に為替差損を被りやすいのであれば、高金利債券や通貨に投資をすることは避けた方が良いのでしょうか。確かに外貨投資は為替の影響を大きく受けますが、投資をする資産の種類を選ぶという視点も有効です。つまり、同じ外貨建ての株式にも注目してみるということです。
インフレ率が上昇するような局面では、経済情勢が好調で、企業業績も拡大しやすいと言えます。株式が現地通貨ベースで値上がりすれば、為替差損を吸収することにもなります。
一般的にはインフレ率が日本より高い海外の方が株式価値は高まりやすいと言われており、長期では同じ外貨建てであっても債券に比べて株式は報われやすいと言えるでしょう。ただ、株式は状況によっては大きく下落する可能性もあり、やはり投資目的に応じた金額や資産の組み合わせを検討するなどの工夫は必要です。
M氏は約5年間、この商品を保有しましたが、最も評価額が下落した時(2018年8月)には4割以上の含み損となり、2019年3月末時点でも投資金額からすると約16%の損失という状況に終わりました。多くの分配金を受け取ってきたとはいえ、通貨などの価格変動幅も大きく、投資した資金の大部分を毎月引き出しながら資産を減らしてしまったという結果となっています。