配当が低下しにくい施策を導入する企業が増加

 ここ数年で、配当性向目標を導入するなど株主還元強化の動きが幅広く強まっています。こうした中、足元では、累進配当(配当金の水準を維持ないしは引き上げていく)、下限配当金設定、DOE(株主資本配当率)などを導入する銘柄も増えています。

 これらは、配当水準を引き上げるだけでなく、引き上げた配当水準を今後も低下させない施策といえます。ちなみに、配当性向導入だけでは、利益が減少した際に配当金もその分減少することになります。現在、高配当利回りであり、なおかつ、このように配当水準の下方硬直性がある銘柄は、まさにNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)投資の有望銘柄であるともいえるでしょう。

 日銀金融政策次第では今後の円高反転も想定されるほか、欧州政局リスクの高まり、さらには米大統領選挙も絡んだ米中貿易摩擦の強まりも懸念されるなど、今後の企業の事業環境は厳しさを増してくる可能性があります。

 このような企業収益の悪化が見込まれる状況下での高配当利回り銘柄物色に際しても、配当水準の引き下げが起こりづらい銘柄は相対的に有望と考えられます。時価総額3,000億円以上の高配当利回り上位銘柄から、累進配当、下限配当、DOE目標などを導入している銘柄をピックアップした結果が下表となります。 

(表)今後の配当水準が低下しにくい高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り
(%)
6月14日
終値
(円)
時価総額
(億円)
予想
配当金
(円)
配当性向
(%)
5444 大和工業 5.24 7,628.0 4,958 400.00 46.3
1808 長谷工コーポレーション 4.87 1,746.5 5,253 85.00 43.7
9076 セイノーホールディングス 4.84 2,067.0 4,292 100.00 86.8
4502 武田薬品工業 4.73 4,142.0 65,537 196.00 45.5
8252 丸井グループ 4.70 2,255.5 4,706 106.00 75.0
注:武田薬品の配当性向はコアEPS(1株当たり利益)予想に対する年間配当金

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.7%以上(6月14日現在)
  2. 時価総額が3,000億円以上
  3. 累進配当、下限配当、DOE目標などを導入している銘柄

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 大和工業(5444・東証プライム)

 電炉メーカーの大手で、ビルや工場の建設に用いられるH形鋼が7割近くを占める主力製品です。電炉メーカーの中でもいち早く海外に進出しており、現在では、米国、ASEAN(タイ、ベトナム、インドネシア)、中東(バーレーン、サウジアラビア)、韓国に拠点を持っています。

 経常利益の80%が海外で占められており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコアヤマトスチールの持分法利益が高水準となっています。自己資本比率は84%で無借金経営、財務安定性は高い状況です。インドネシア鉄鋼メーカーの形鋼事業を新規に買収しました。

 2024年3月期経常利益は992億円で前期比9.6%増となっています。鋼材マージンの改善などによって、国内鉄鋼事業の収益が改善しました。円安寄与もあって、持分法投資利益も高水準を維持しています。2025年3月期は770億円で同22.4%減の見通しです。

 新規連結化による売上増効果はありますが、中国の鋼材輸出量増加などによる競争激化の影響を見込んでいます。持分法損益も形鋼市況の軟化によって米国を中心に減益を見込んでいます。なお、年間配当金は前期比横ばいの400円を計画しています。

 2023年4月には、配当性向を30%めどから40%めどに引き上げています。さらに、10月には、最低配当額を年間50円から300円に引き上げました。業績の大幅な下振れは配当金の引き下げにつながる可能性もありますが、仮に300円配当でも現在の株価水準からは3.9%の配当利回りとなります。

 また、豊富なキャッシュ水準から、一段の株主還元拡大に対する市場の期待も高いもようです。同社に関しては、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、保護主義政策の強まりがプラスに影響しやすい銘柄ということができます。

2 長谷工コーポレーション(1808・東証プライム)

 マンション建設の最大手企業で、現在ある国内マンションの約1割を施工しているとされています。国内トップの施工実績を背景としたトータルプロデュース「土地持込による特命受注方式」という独自のビジネスモデルを展開しています。

 サービス関連事業として、分譲マンション管理43万戸、賃貸マンション運営管理19万戸なども手掛けています。AIによる画像解析を用いた防犯対策の充実など、未来住宅創造に向けたプロジェクトなども積極的に展開しています。

 2024年3月期営業利益は857億円で前期比4.9%減となっています。完成工事高と不動産売上高の増加で増収となりましたが、完成工事総利益率の低下が響きました。一方、単体受注は民間分譲マンションが好調で前期比11.6%増と過去最高を更新しています。2025年3月期は820億円で同4.4%減の見通しです。

 不動産売上高の増加が見込まれるものの、工事利益率の低下、処遇改善などによる人件費増で増収減益の予想としています。ただ、単体受注高は連続で過去最高を更新すると見込んでいます。年間配当金は前期比横ばいの85円を計画しています。

 現在の中期計画における株主還元方針としては、2021年3月期から2025年3月期までの5期合計の純利益に対して、総還元性向を40%程度に設定しています。年間配当金の下限は従来70円でしたが、2022年5月には80円に引き上げています。

 下限配当を基準とした配当利回りでも4.6%と極めて高い水準になります。2024年3月末段階で、現金預金と借入金はほぼ同水準であり、D/Eレシオ(デット・エクイティ・レシオ:負債資本倍率)も0.81倍です。バランスシートから見た場合、金利上昇の影響は軽微とも考えられます。