手掛かり材料難と日米金融政策見極めで、方向感乏しい展開

 直近1カ月(5月17日~6月14日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで0.1%の上昇とほぼ横ばいになりました。また、期間内における終値ベースの高値は3万9,134円(6月11日)、安値は3万8,054円(5月30日)で、終始方向感に乏しいもみ合いが続く状況でもありました。

 3万9,000円を上回る水準からは上値が重く、一方で下値は25日移動平均線が下支えする形となっています。なお、この期間(5月17日~6月14日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3.5%の下落となっています。

 2024年3月期の決算発表が一巡したタイミングで手掛かり材料が乏しくなったほか、日米の金融政策の行方を見極めたいとする様子見姿勢も強く、積極的にポジションを取りに行くような動きは限られた印象です。

 日経平均はこうした中、5月30日にかけて下げ幅を広げ、一時3万8,000円を割り込む状況となりました。米国の利下げ先送り観測の強まりや国内の長期金利上昇が弱材料視されました。

 ただ、「政府が公務員年金など100兆円規模の公的マネーを積極運用に回す」と報じられたことなどもあって、その後はすぐに下げ渋る展開となりました。期間中、米国では半導体大手エヌビディアの決算発表が行われました。

 高まっていた期待以上の好決算を発表したことで、ハイテク株の買い材料につながり、ナスダック総合指数が上昇基調を続けたことは日本株の下支え材料にもつながったようです。6月11~12日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されました。

 政策金利は市場想定通りに据え置きとなった一方、年内の利下げ回数見通しは従来の3回から1回に修正されました。ただ、5月のCPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)が相次いで市場想定を下振れていることで、ネガティブな反応は限られることになりました。

 この期間はハイテク株の強い動きが目立ちました。米エヌビディアの好決算発表を受け、KOKUSAI ELECTRIC(6525)ディスコ(6146)ルネサスエレクトロニクス(6723)などの半導体株が上昇しました。

 また、生成AI(人工知能)デバイスの搭載を発表した米アップルが急伸したことで、イビデン(4062)太陽誘電(6976)TDK(6762)などの電子部品株も20%超の上昇となりました。

 6月14日には、ソフトバンクグループが心理的節目の1万円を2021年5月以来3年1カ月ぶりに終値ベースで回復しています。米投資ファンドの株式取得、傘下企業英アーム・ホールディングスの株価上昇などが材料視されています。半面、レーザーテック(6920)が一時急落、米ファンドによる「空売りレポート」の発表が警戒材料視されました。

 ほか、肥満症治療薬の試験結果が嫌気された塩野義製薬(4507)、今期の業績見通しがマイナス視された博報堂DYホールディングス(2433)なども下落しました。米長期金利が低下傾向の中でしたが、SHIFT(3697)マネーフォワード(3994)ベイカレント・コンサルティング(6532)など中小型グロースの代表株もさえませんでした。

米金融政策への懸念はいったんあく抜けも、仏政局リスクが台頭

 6月13~14日にかけて日本銀行金融政策決定会合が開催され、政策金利の据え置きとともに、次回会合における長期国債買い入れの減額方針決定が発表されました。市場では減額方針の決定は今回なされるとの見方が優勢であったため、日銀のスタンスは想定よりもハト派と捉えられ、直後は金利低下、株高の反応となりました。

 ただ、その後の日銀総裁会見では、減額する以上は相応な規模になる、7月に短期金利を引き上げる可能性はある、などが示されています。タカ派的な会見内容となったことで、あらためて7月の決定会合に向けては、金融引き締めへの警戒感が高まることになるでしょう。

 また、今後の経済指標に対する関心が高まるほか、一段の円安進行場面では政策変更リスクが大きくなることが予想されます。

 一方、米国金融政策に関しては、今回、年内利下げ回数見通しが1回に修正されたことで、これ以上の警戒感は目先高まりにくくなったと考えられます。むしろ、足元のインフレ指標が下振れ傾向になっていることで、ここからは、いったん年1回と織り込まれた利下げ回数の上方修正を意識する展開になっていきそうです。

 つまり、米金融引き締めに対する警戒感に関しては、短期的な悪材料が出尽くしたものと判断できます。この点から言うと、足元でも低迷が続いている中小型グロース株などの押し目買いタイミングとも捉えられるでしょう。

 足元で新たに浮上してきたリスク要因として、フランスの政局リスクが挙げられます。6月6~9日に行われた欧州議会選挙では、フランスで与党がEU(欧州連合)懐疑派の極右政党である国民連合に敗れ、マクロン仏大統領が下院を解散しました。

 総選挙の1回目投票は6月30日、2回目は7月7日になりそうですが、直近の世論調査によると、支持率は国民連合が35%に対して、与党連合は18%程度の水準にとどまるもようです。左派系政党の結束合意で野党分断への期待なども後退する方向です。

 仮に、国民連合が下院の第一党となれば、極右政党からの首相が誕生することとなり、今後の政策運営に対する不透明感が急速に強まることになります。歳出拡大による財政ひっ迫懸念、世界的な環境対応意識の後退などのほか、EU存続問題にも発展する可能性があります。ユーロ安に伴うドル高の流れは、ドル高・円安の進行につながる公算もあるでしょう。

 国内では6月27日には株主総会の集中日を迎えます。株主総会直前には会社側からのネガティブなニュースフローが減少するとみられるほか、アクティビスト(物言う株主)保有銘柄などには企業価値向上策に対する期待感なども高まる余地があるでしょう。

 一方、株主総会通過後は、ファイナンスや株式売出の増加などといったネガティブ材料の表面化に注意が必要となります。なお、株式市場全般的な見方としては、欧州リスクの顕在化を想定した慎重な対応が目先は迫られるとみられます。

配当が低下しにくい施策を導入する企業が増加

 ここ数年で、配当性向目標を導入するなど株主還元強化の動きが幅広く強まっています。こうした中、足元では、累進配当(配当金の水準を維持ないしは引き上げていく)、下限配当金設定、DOE(株主資本配当率)などを導入する銘柄も増えています。

 これらは、配当水準を引き上げるだけでなく、引き上げた配当水準を今後も低下させない施策といえます。ちなみに、配当性向導入だけでは、利益が減少した際に配当金もその分減少することになります。現在、高配当利回りであり、なおかつ、このように配当水準の下方硬直性がある銘柄は、まさにNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)投資の有望銘柄であるともいえるでしょう。

 日銀金融政策次第では今後の円高反転も想定されるほか、欧州政局リスクの高まり、さらには米大統領選挙も絡んだ米中貿易摩擦の強まりも懸念されるなど、今後の企業の事業環境は厳しさを増してくる可能性があります。

 このような企業収益の悪化が見込まれる状況下での高配当利回り銘柄物色に際しても、配当水準の引き下げが起こりづらい銘柄は相対的に有望と考えられます。時価総額3,000億円以上の高配当利回り上位銘柄から、累進配当、下限配当、DOE目標などを導入している銘柄をピックアップした結果が下表となります。 

(表)今後の配当水準が低下しにくい高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り
(%)
6月14日
終値
(円)
時価総額
(億円)
予想
配当金
(円)
配当性向
(%)
5444 大和工業 5.24 7,628.0 4,958 400.00 46.3
1808 長谷工コーポレーション 4.87 1,746.5 5,253 85.00 43.7
9076 セイノーホールディングス 4.84 2,067.0 4,292 100.00 86.8
4502 武田薬品工業 4.73 4,142.0 65,537 196.00 45.5
8252 丸井グループ 4.70 2,255.5 4,706 106.00 75.0
注:武田薬品の配当性向はコアEPS(1株当たり利益)予想に対する年間配当金

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.7%以上(6月14日現在)
  2. 時価総額が3,000億円以上
  3. 累進配当、下限配当、DOE目標などを導入している銘柄

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 大和工業(5444・東証プライム)

 電炉メーカーの大手で、ビルや工場の建設に用いられるH形鋼が7割近くを占める主力製品です。電炉メーカーの中でもいち早く海外に進出しており、現在では、米国、ASEAN(タイ、ベトナム、インドネシア)、中東(バーレーン、サウジアラビア)、韓国に拠点を持っています。

 経常利益の80%が海外で占められており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコアヤマトスチールの持分法利益が高水準となっています。自己資本比率は84%で無借金経営、財務安定性は高い状況です。インドネシア鉄鋼メーカーの形鋼事業を新規に買収しました。

 2024年3月期経常利益は992億円で前期比9.6%増となっています。鋼材マージンの改善などによって、国内鉄鋼事業の収益が改善しました。円安寄与もあって、持分法投資利益も高水準を維持しています。2025年3月期は770億円で同22.4%減の見通しです。

 新規連結化による売上増効果はありますが、中国の鋼材輸出量増加などによる競争激化の影響を見込んでいます。持分法損益も形鋼市況の軟化によって米国を中心に減益を見込んでいます。なお、年間配当金は前期比横ばいの400円を計画しています。

 2023年4月には、配当性向を30%めどから40%めどに引き上げています。さらに、10月には、最低配当額を年間50円から300円に引き上げました。業績の大幅な下振れは配当金の引き下げにつながる可能性もありますが、仮に300円配当でも現在の株価水準からは3.9%の配当利回りとなります。

 また、豊富なキャッシュ水準から、一段の株主還元拡大に対する市場の期待も高いもようです。同社に関しては、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、保護主義政策の強まりがプラスに影響しやすい銘柄ということができます。

2 長谷工コーポレーション(1808・東証プライム)

 マンション建設の最大手企業で、現在ある国内マンションの約1割を施工しているとされています。国内トップの施工実績を背景としたトータルプロデュース「土地持込による特命受注方式」という独自のビジネスモデルを展開しています。

 サービス関連事業として、分譲マンション管理43万戸、賃貸マンション運営管理19万戸なども手掛けています。AIによる画像解析を用いた防犯対策の充実など、未来住宅創造に向けたプロジェクトなども積極的に展開しています。

 2024年3月期営業利益は857億円で前期比4.9%減となっています。完成工事高と不動産売上高の増加で増収となりましたが、完成工事総利益率の低下が響きました。一方、単体受注は民間分譲マンションが好調で前期比11.6%増と過去最高を更新しています。2025年3月期は820億円で同4.4%減の見通しです。

 不動産売上高の増加が見込まれるものの、工事利益率の低下、処遇改善などによる人件費増で増収減益の予想としています。ただ、単体受注高は連続で過去最高を更新すると見込んでいます。年間配当金は前期比横ばいの85円を計画しています。

 現在の中期計画における株主還元方針としては、2021年3月期から2025年3月期までの5期合計の純利益に対して、総還元性向を40%程度に設定しています。年間配当金の下限は従来70円でしたが、2022年5月には80円に引き上げています。

 下限配当を基準とした配当利回りでも4.6%と極めて高い水準になります。2024年3月末段階で、現金預金と借入金はほぼ同水準であり、D/Eレシオ(デット・エクイティ・レシオ:負債資本倍率)も0.81倍です。バランスシートから見た場合、金利上昇の影響は軽微とも考えられます。

3 セイノーHD(9076・東証プライム)

「カンガルー便」で知られる西濃運輸を中核とする物流会社です。製造関連分野の構成比が過半数近くを占めています。車両数は約2万6,000台、輸送拠点は700拠点超、顧客数は約86万社とされています。利益率の高いロジスティクス事業や貸切輸送の売上比率向上に注力しています。

 また、トヨタ自動車や日野自動車のディーラーとして自動車販売事業も行っています。日野自動車ディーラーではトップの販売台数実績となるようです。ほかに、物品販売事業や不動産賃貸事業も展開しています。

 2024年3月期営業利益は234億円で前期比17.9%減となっています。自動車販売事業はメーカーの生産台数回復で増収増益となりましたが、主力の輸送事業が物量の減少などによって足を引っ張る形になっています。

 2025年3月期は309億円で同32.0%増となる見通しです。5年ぶりの改定となる新運賃表「24年運賃」を6月にリリース予定で、輸送事業における適正運賃収受の裾野を広げていく計画のようです。なお、年間配当金は前期比横ばいの100円を計画しています。

 配当方針は、2022年3月期まで配当性向30%を目標としていましたが、2023年3月期にはDOE2.4%と配当性向30%いずれかの高い金額を目安にすると変更、そして、2024年3月期にはDOE4.0%以上へとさらに変更しています。

 その結果、2024年3月期配当金は前期比44円もの増配となっています。大幅な最終赤字とならない限り配当水準は維持されることになります。また、ROE(自己資本利益率)8.0%実現に向けて(2024年3月期は3.3%)、自己株式の取得を強化していくともしています。

4 武田薬品工業(4502・東証プライム)

 国内製薬業界のトップ企業となります。がん、希少疾患、血漿分画製剤、神経精神疾患、消化器系疾患の五つのビジネス領域に注力しています。2019年1月、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を完了、買収総額は円換算で約6.2兆円と、日本企業として過去最高額のM&A(買収や合併)となりました。

 これにより、事業規模は世界トップ10に仲間入りすることになりました。約80の国・地域で事業を展開しています。現在開発中の経口オレキシン2受容体作動薬「TAK-861」は第3相試験を上半期中に開始予定です。

 2024年3月期コア営業利益は1兆549億円で前期比11.2%減となりました。成長製品や新製品がけん引して売上収益は拡大しましたが、円安に伴う販管費や研究開発費の増加が重しとなりました。2025年3月期は1兆円で同5.2%減の見通しです。

 米国のVYVANSEをはじめ、後発品と競合する製品の減収で売上収益が伸び悩むほか、新製品の上市に係る投資やデータ・デジタルおよびテクノロジーへの投資がかさむようです。年間配当金は前期比8円増の196円を計画しています。

 これまで10年以上、年間配当金180円を維持する方針を貫いてきましたが、2024年3月期は8円増配の188円配当を実施しています。会社側では株主還元として、毎年の年間配当⾦を増額または維持する累進配当の⽅針を掲げており、2025年3月期の増配計画も市場ではサプライズと受けとめられました。

 また、自己株式の取得は適切な場合に取り組むとしています。強固なキャッシュフローが、足元の利益と比較して(構造改革費用計上などにより実勢ベースの2024年3月期EPSは36.7円を計画)高水準の配当金を実施できる背景となっています。

5 丸井グループ(8252・東証プライム)

 首都圏を地盤とするファッションビルの大手企業ですが、小売事業は従来の百貨店業態から転換が進み、現在ではテナントからの賃料収入が中心となってきています。テナントも物販型から体験型へシフトさせています。また、D2C(自社で企画・製造した商品をECサイトで直接販売)のテナントに関しては、売り場の運営も受託しています。

 利益面では、エポスカード利用によるリボ・分割手数料、キャッシング利息などを中心としたフィンテック事業が主力となっています。カード会員数は2024年3月末段階で759万人となっています。

 2024年3月期営業利益は410億円で前期比5.8%増となっています。テナント収入やイベント収入の増加など小売り事業が順調に推移しています。フィンテック事業も手数料収入増加に加えて、ポイント費用が減少したことで下半期にかけて急回復となっています。2025年3月期は450億円で同9.7%増の見通しです。

 小売り事業ではテナント収入の増加で2桁増益を見込み、フィンテック事業も加盟店・割賦手数料やサービス収入の増加で増益を想定しています。年間配当金は前期比5円増の106円を計画しています。

 2023年3月期までは配当性向55%を還元方針としていましたが、2024年3月期からはDOE8%メドに方針を変更しています。2025年3月期は13期連続増配の予定ですが、2024年3月期には59円から101円に配当水準が大きく高まる形になっています。

 連続増配を続けているほか、長期安定的な増配の実現を目指すともしていることで、今後配当水準が低下することなく、むしろ引き上げられていく可能性は高いでしょう。また、6月1日から9月30日を取得期間として、発行済み株式数の5.86%に当たる1,100万株、200億円を上限とする自社株買いの発表もしています。