iDeCoは明らかに有利だが、50歳以上なら少しだけ注意が必要だ
iDeCoこと個人型確定拠出年金が税制上おトクであることは明らかです。自分の老後のために、自分のものとして財産権も明確になっている口座に積立をすれば、所得税や住民税が軽減されるわけですから、老後資産形成の意識がある人ほど利用を真剣に考えます。
50代の人は老後の資産形成への意識が高まってくる世代ですから、iDeCoの活用を検討している人も多いかもしれません。しかし「50歳」を超えている人の新規加入は注意点がひとつあります。
それは「60歳から受け取れないかもしれない」ということです。
「iDeCoは60歳まで受け取れない」という規制は認知されつつあると思いますが、実はiDeCoには「10年問題」があって、利用期間が10年以上ないと、60歳から受け取れないという制限がさらにあるからです。
この「10年問題」と、これを踏まえた50代のiDeCo活用のヒントについて今回は紹介してみたいと思います。
iDeCoには「通算加入者等期間」という余計な規制がある
確定拠出年金の法律上、「通算加入者等期間」というルールがあります。これは
- 企業型の確定拠出年金の掛金を積み立てた期間(加入者期間)
- iDeCoの掛金を積み立てた期間(加入者期間)
- iDeCoの掛金は積み立てていないが運用のみを行っていた期間(運用指図者期間)
の合計で、この通算加入者等期間が「10年」以上ないと60歳から受け取ることができないというものです。
今まで企業型の確定拠出年金に加入していて今はiDeCo、という人は心配する必要はありません。過去に確定拠出年金に加入していた期間、iDeCoに移して口座管理をしていた期間はすべて参入されますので、10年問題はクリアできるはずです。
しかし、合計で10年の期間に足りない場合、その期間に応じて受取開始可能な年齢が引き上げられます。具体的には下表のようになります。
8年以上10年未満 | 61歳から受取可 |
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6年以上8年未満 | 62歳から受取可 |
4年以上6年未満 | 63歳から受取可 |
2年以上4年未満 | 64歳から受取可 |
1月以上2年未満 | 65歳から受取可 |
つまり、58歳を過ぎてからiDeCoに積み立てた場合、その2年弱の積立金は60歳から65歳まで受け取れないということです(運用指図はもちろんしてよい)。
この規制、あまりに短い積立期間で受け取る人に対し税制優遇を講じることは好ましくないという考えによるものです。財形年金も5年以上の積立期間が必要ですが、これに似ています。
しかし、60歳まで中途解約できないし、60歳以降は積み立てたくても追加入金できないiDeCoにおいて、ほとんど意味をなさない規制であることも事実です。実際、規制緩和の議論も何度か行われています。どこかのタイミングで法律改正が講じられるのはほぼ確実ですが、今のところは存在する規制ですから、注意が必要でしょう。
50代からのiDeCo利用はメリットデメリットをしっかり天秤にかけて利用を
仮にiDeCoに月2.3万円(年27.6万円)を積み立てたとします。所得が高い50歳代の税率は高いので、実質30%になることもあるでしょうが、この場合、掛金の8万2800円相当が毎年の税負担軽減分にあたります。4~5年くらい積立をしたとすれば、63歳まで受け取りを先送りさせられたとしても、税金を40万円払わずにすんだと思えば十分損得は合うと思います。
ただし、60歳以降も口座管理手数料はかかりますので、その分も意識する必要はあります(運用のみなので、国民年金基金連合会の月103円は引かれないので掛金を積み立てていた時期よりは割安になる)。また、「100万円くらいの残高を3年間受け取れないのはいやだ」というタイプの人にとってはあまり魅力と感じられないかもしれません。
そこで、ひとつの目安として、「5年積み立てて100万円積み上がるか」を判断軸としてはどうでしょうか。つまり、
「月1.2万円の掛金が拠出できる立場である場合、5年積み立てた場合で残高72万円と100万円に達しないため、50代半ばを過ぎたiDeCo加入は無理に選択しなくてもいい。入るなら50歳代の前半からスタートさせたい」
「月2.3万円の掛金が拠出できる立場である場合、5年積み立てた場合で残高138万円と100万円を超えるため、まとまった額を税制優遇も活かして最後に貯める手段として考えてもいい。ただし57歳や58歳から最後の数年だけ加入しなくてもいい」
という感じです。自営業者等の「月6.8万円(年81.6万円)積み立てられる場合でしたら、節税効果も大きいので、数年でもいいので満額加入し、最後の何年かで老後の貯金を上積みしておく、という選択肢もあるでしょう。
50歳以降に企業型の確定拠出年金加入者対象になった場合は大丈夫なケースが多い
ところで、「会社が企業型の確定拠出年金をスタートしたんだけれど、私も60歳から受け取れないのか?」と気になる人もいるでしょう。
通算加入者等期間のルールは企業型の確定拠出年金でも同様に適用されます。つまり10年以上の期間が必要です。しかし、企業型の確定拠出年金の場合は、この問題は回避できることがほとんどです。
まず、「何か別制度から資産の引き継ぎが行われた場合」です。確定給付型の企業年金があって、そこから資産を引き継ぎ企業型の確定拠出年金がスタートしている場合、「加入者期間」も旧制度の期間を引き継ぐことができます。
22歳から52歳まで確定給付型の旧制度に加入、52歳から60歳まで企業型の確定拠出年金に加入した場合は、「旧制度30年加入」「確定拠出年金8年加入」を合計して「38年加入」とみなしますので、ここでいう10年問題は気にしなくていいわけです(この通算は退職所得控除の計算でも適用されます)。
また、旧制度を持たない場合であっても、「50歳以上の人は確定拠出年金の対象外とし、今までの退職金制度の計算ルールを適用する経過措置を設ける」ということが多いので、これまた10年問題からは解放されます(自己責任による資産運用を行うノルマからも解放されます)。
ただし、制度設計の詳細は各社によります。自分の会社の確定拠出年金の条件をよく確認してください。