「不適切」な時代は、いいおせっかいを焼く人がいた?

 話題となったドラマ「不適切にもほどがある!」が終了しました。30年以上前の常識と今の常識がずいぶん変化していることに若い人は驚いたかもしれません(そして、それにウケている年長者の反応にも驚いたかもしれません)。

 振り返ってみると現代において不適切な振る舞いが多いというのは、昔よりよい時代の方向に変化したということです。そこはぜひ実感していただければと思います。今は少しずつ昔よりよくはなっているのです。

 一方で、今の適切な振る舞いとされるものが味気ないものになってはいないか、という指摘については、そうかもしれないと気が付くきっかけになったかもしれません。結婚して幸せだと声に出すことも、第三者への配慮が大切なことと同じくらい大事なことだなんて、配慮しすぎの世の中の息苦しさを示しているシーンでした。

 さて、不適切な過去の時代のやっかいな産物の一つに「いいおせっかい」がありました。おせっかいではあるものの、結果として若い社員にはプラスになっていたおせっかいです。

 例えば、新入社員のところに先輩や労働組合の人がやってきて「お前、財形やっておけ。ここに月1万円と書いてハンコ押すんだ」と言われたとします。今ではパワハラ認定されてもおかしくない「余計なおせっかい」でしょう。

 しかし、入社10年くらいたってみると、知らずに天引きされた貯金がまとまったお金になっており、車を買う資金だったり結婚資金になっていたりすることに気が付きます(下手すると貯まっていたことすら忘れている人もいた)。おせっかいが、結果としてあなたのマネープランに役立ち、また定期的な積み立てを習慣付ける重要性を理解させることにつながっていたのです。

「いいおせっかい」というのはまさにそのことです。しかし今の時代、そういうおせっかいをする先輩も労働組合の人も減りました。社内のイントラネットや掲示板などに「財形貯蓄のお知らせ」のような連絡はあっても、「ここで今すぐ、申込書を書け!」のような人はいないのです。

 そこで、新社会人やZ世代の人たちに向けた「お金のおせっかい」をしてみたいと思います。

とりあえず「手取り1万円」で暮らす習慣を

 まず一番大事なことは「(手取り)-(1万円)」で1カ月をやりくりするように自分をコントロールし、その習慣を付けることです。

 一番いいのは家計の「見える化」です。仕事上では「見える化」が大事、と言われることになりますが、家計も何に、いくら、使っているかがハッキリすれば無駄遣いか生活に必要な出費かが分類できます。

 スマホのアプリ、特に自動記帳機能があるマネーフォワードME、Zaim、マネーツリーなどのアプリを活用して半自動的に家計簿を作れるようにしましょう。給与振込口座を作ってクレジットカードを手に入れたらすぐ連携するのがカギです。

 すでに社会人になっている人は、生活がなんとなく確立してしまいましたので、それなりの節約を試みなければ月1万円の節約はできません。家計簿アプリを使って、一週間使っていい「予算」を見極めましょう。

 家賃や公共料金、スマホ代などのクレジットカード支払い額を引いて、日常生活に使ってよい予算を見極めます。単純に30で割ってもいいですし、4週で割っても構いません。

「自分は基本1日(1週)当たりこれくらい使ってもいい」という金額がハッキリすれば、日々の買い物でも「使いすぎかも?」という感覚がつかめるようになるはずです。

自動引き落としで、1万円を確保する

 節約は大切なのですが、「1万円を給与振込日までに残せるように1カ月過ごす」というのは気分的にしんどいものです。「給与振込日までに残高ゼロでやりくり」のほうが楽であることは間違いありません。

 このとき、「1万円は先に貯金して、残りの残高で給与振込日にゼロ円になるように過ごす」という方法がシンプルです。実は最初に紹介した財形貯蓄制度はこれを制度化したものです。

 かつての先輩が強制的に申し込みをさせた典型は「社内預金」「財形貯蓄」でしたが、今は財形貯蓄、積立定期預金、積立投資信託(NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を活用してもよい)などが自動引き落としで貯められる方法です。会社が実施しているなら社内持株会の積み立てもOKです。

 これらの特徴は、指定日に自動的に引き落とされることです。面倒な手間がなくお金を貯める仕組みを作ることが大切です。そして給与振込時点から早いタイミングで積み立てすることが大切です(財形貯蓄などは給与振込段階ですでに積み立てが終わっている)。

 ただし、大事なのは「最初に一度だけ、自分で書類を書く」こと。おせっかいな先輩はいませんから、一度だけでいいので、自分で書類を書いたりオンラインで手続きをしたりしておきましょう。

せっかくなら、積み立ては投資にしてみる

 トウシルのコラムだから、というわけではありませんが、積み立て額をできれば投資に振り向けてみましょう。NISA口座で積立投資信託をやってみるのです。

 現状では、銀行預金金利は物価上昇率よりかなり低い状態であり、改善にはまだ時間がかかると思われます。1万円が、1年かけて銀行で数円の利息がつく間に、物価の上昇が数十円から百円くらいになってしまうとすれば、預金の魅力は元本割れしないことに限定されてしまいます。

 短期的には値下がりもありえますが、中長期的には高いリターン、特に物価上昇率を上回るリターンを得られるのが株式投資などの魅力です。

 少額から分散投資が可能な投資信託は、積立定期預金と同じ感覚で使える個人向け資産形成の手段です。もし「月1万円はちょっと……」という人は「月5,000円は積立定期預金、月5,000円はオールカントリーの投資信託で世界中に積立投資」のように分割してもいいでしょう。

 投資デビューも、きっかけがないとなかなか始まらないもの。NISAが盛り上がっているうちに、一気に口座開設してしまってもいいでしょう(ときどき誤解をしている人がいますが、投資はゼロ円から、毎月数百円からでもスタートしていいのです)。

残りの範囲で楽しく過ごす、借金はしない

 最後にもう一つ、大事なことがあります。それは「借金をしなければ、使っていいお金は楽しく使っていい!」です。

 借金はろくなことがありません。未来の自分を苦しくするだけですから、とにかくやめましょう。残高が50万円を超えると20歳代にはもう苦しい負債として背中にのしかかってきます。クレジットカードは基本的に一回払いにして、翌月全額支払う範囲で使うことです(ポイントももらえるので一括ならクレカ利用はOK)。

 借金を禁止にすれば当然使えるお金の金額は限られます。しかし、その範囲でできるだけ楽しめる方法を真剣に考え、消費を楽しんでいきましょう。

 推し活だって予算を管理して「年に数回、コンサートツアーには参戦する」「推しの声優の2.5次元劇は一度は観劇に行く」のような楽しみにお金を使うのも、社会人の特権です。大いに趣味や交際を楽しんでください。

 この春に新社会人になった人は、これから自分で自分のやりくりをする人生がスタートしたことになります。それは、本当の「成人」にようやくなったということなのです。

 大人の世界にようこそ。楽しく仕事をし、気持ちよく自分のためにお金を使ってみてください。